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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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08 デッドライン

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「確認なんだけど、いい?」

「どうぞ。」

「ノートに書いてある、名前の横の数字は、その人が亡くなる年齢だよね?」

「はい。」

「ということは、芹沢さんは十六歳で亡くなることになる」

「そうなります。」

「じゃあ、逆に、十七歳になることができれば…?」

「死の回避に成功したと言えるでしょう。」

 つまり、デッドラインは八月三十一日。

 芹沢さんが「九月一日の朝」を無事に迎えることができれば、僕たちの勝ちだ。

 それまで僕がするべきことは、

 なるべく芹沢さんと行動を共にする。

 それが無理な場合は彼女を見張る。

 そしてもし何か起きたときには全力で守る。

 この三つ。

 ネックとなるのは、やはり三つ目だろう。

 いざというときに僕にどれだけのことができるか、正直分からない。

 いや、できなくても、やるしかない。

 やるしかないんだ。

 とりあえず、何か武器になるようなものを携帯しておこう。

 それと防犯ブザーだ。

 以前、芹沢さんには持つように言ってあるけど、今日からは僕自身も持つべきだ。

 常に気を張っていれば、少しは咄嗟の機転も利くようになるかもしれない。

 他にもやれることはあるはずだ。

 例えば、芹沢さんの防犯意識をもう少しあおっておくのはどうだろう。

 彼女が「誰かに見られている」と言っていたのは、おそらく、すももちゃんの視線を感じていたのだと僕は思っている。

 でも、それを利用させてもらって、外出を控えるように言うのは“あり”だと思う。

 芹沢さんには悪いけど、毎年恒例の花火大会は、今年は避けるべきだろう。

「颯太、一つ忠告があります。」

 まるで僕の考えを見透かしたかのようなタイミングで、すももちゃんがこんなことを言ってきた。

「芹沢さんにはできるだけ普段と変わらない行動をしてもらわなければなりません。不自然なレベルで外出を控えるように促したりすることはしないでください。」

「どうして?」

「本来取るはずだった行動を大幅に変えてしまうと、その分、死のタイミングがズレることがあるのです。幸いにも―――という言い方は不謹慎ですが、芹沢さんは十六歳で亡くなることが現時点で確定しています。下手に行動を変えてしまうと、ノートの数字が十七歳に書き換わってしまうこともあり得るでしょう。するとどうなると思いますか?」

「彼女のデッドラインがすごく曖昧なものになる…」

 十七歳になった瞬間から十八歳になるまでの一年間が丸々、彼女の死線となってしまうわけだ。

 すももちゃんによれば、「不自然にならないレベルであれば行動を制限しても大丈夫」とのことだけど、実際、そのさじ加減が分からない。

 後で改めて「できること」と「できないこと」を考え直した方がいいかもしれないな。

 現時点で一つ言えるのは、毎年参加している花火大会に行かないというのは不自然だということだ。

 まあ、そこについては、僕がいくら言ったところで芹沢さんが不参加に同意するとも思えなかったんだけど…。

 とにかく、

 やはり八月三十一日が本当の意味での死線となりそうだ。

 僕は生まれて初めて、夏休みが早く終わることを切に願った。

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