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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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06 救う理由

         1

「ごめん。本当にごめん」

「もう分かりましたから。そんなに謝らないでください。」

 再び時間が動き出し、芹沢さんとの会話を適当に切り上げた後、僕はすももちゃんと共に橘家へと戻った。

 今、僕の部屋には、僕、すももちゃん、そしてすももちゃんの膝の上で丸くなっているモカがいる。

 すももちゃんは二ヶ月前のあのときと同じ容姿に戻っているけど、それを維持するためには多少の“力”を使うのだという。

 このときにはもう疑う余地などなかった。

「颯太がわたしの言ったことをすべて信じてくれている…そう思い込んでいたわたしにも責任があるのです。だから気にしないでください。」

「うん…。ありがとう。…でも、やっぱり何か罪滅ぼしはさせてよ」

 モカを撫でながら彼女は言う。

「罪滅ぼしとは言いませんが、もともと颯太にお願いするつもりだったことならあります。」

「もしかして…」

「はい。芹沢結衣さんの「死」に関することです。」


         2

「まず最初に断っておきますが、わたしには人の生死をどうこうするような力はありせん。」

 死神なのに? という疑問はあるけど、僕は黙って彼女の話に耳を傾けた。

死神わたしたちには主に二つの役割があります。一つ目は「死を司る」こと。もう一つは「魂を回収する」こと。」

「すももちゃんの役割は後者ってこと?」

「はい。ノートには担当する地域で近々亡くなる人物の名前が記載されていて、それを元に回収に向かうというわけです。」

 彼女は死神という存在について詳しく話してくれた。

 一口に死神と言っても様々な階級があるらしく、すももちゃんのランクは「中の下」くらいとのことだ。

 彼女に許されている権限は「死亡した人間の魂の回収」までであり、「生物に死を与える権限」および「生物の死を回避させる権限」はないのだそうだ。

「ですが今回、わたしは初めて“ある人物”の死を回避させなければならないのです。」

「その人物が芹沢さんってこと?」

「はい。」

「でも、どうして? 彼女の死を回避させることにはもちろん賛成だけど、それにどんな意味があるの? そもそもその権限がないのにそんなことをしてもいいの? と言うか、できるの?」

「少し話しが逸れますが、わたしたち死神の多くは“元は普通の人間です”」

「―――えっ」

 もう大抵のことには驚かなくなっている自信があったけど、さすがに、これには衝撃を受けた。

「若くして命を落とした人間には死神として生まれ変わる…という言い方は適切ではありませんが、とにかく、そのような権利があるのだそうです。わたしも死後に「誰かの声」に、そう教えられただけで、詳しくは分からないのですが。」

 その「誰かの声」によれば、死んだ人間が死神になるために必要な条件は三つあるようだ。


 一つ、十五歳未満で亡くなっていること。


 一つ、死因が殺人などの人為的なものではないこと。


 一つ、回収された魂が天国に送られる予定だったこと。


「もちろん、断ることもできました。ですが、そうするつもりはありませんでした。」

「どうして? すももちゃんにとって、天国に行けるっていうのは魅力的な話じゃなかったの?」

「…それ以上に魅力的だったのです。」

「死神になることが?」

「いいえ。死神としての役目を全うした暁に、“元の人間として生き返る権利を与えられること”が、です。」

 生き返る…。元の人間として?

「そんなことが…」

「可能なのです。死神―――特に『原初の死神』と呼ばれている、いわゆる、おさの力は強大です。生き返った人間が“最初から死んでいなかったのように、世界の記憶をねじ曲げられる”ほどに。」

 規模が大きすぎて理解が追いつかない…。

 追いつかないけど、

「その話がさっきの話とどう繋がるの…?」

「わたしは先程、「死神としての役目を全うした暁に」と言いましたが、正確には、その上で一つの試練を課されるのです。生き返るための最終試験というやつですね。」

 すももちゃんはそこで一度言葉を切って、

小さく深呼吸をした。

 そして再び口を開いたとき、彼女の声は少し震えていた。


「芹沢結衣さんの死の運命を覆すこと―――それがわたしに課せられた最終試験です。」

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