05 邂逅
1
そもそもが現実味のない仮定から成り立っている話な上に、「すももちゃんが芹沢さんを救おうとしていた」というのは、完全に僕の希望的観測だ。
それでもやっぱり、僕は、すももちゃんとの再会を果たさなければならない。
会って、もう一度話をしなければならない。
とにかく、まずは謝ろう。
そして、きちんと話を聞くんだ。
その後のことはそのときに決めればいい。
2
教えてもらった家電の番号に電話をかけてみた。
『おかけになった番号は現在使われておりません』
無慈悲にそう告げる音声ガイダンスに、僕は落胆した。
ただ単に、二度と僕と連絡を取るつもりなどなくて嘘の番号を教えたのか…。
それとも「本物」だから存在しない番号を言うしかなかったのだろうか…。
『天使の広場』に向かった。
すももちゃんを探す当てなんて他に思い浮かばなかった。
実を言うと、ここには何度か彼女の面影を求めて訪れたことがある。
一度も見かけることはなかったけど、その度に僕は落胆し、同時に安堵した。
でも今回ばかりは、会えるまで、諦めるわけにはいかない。
その思いで、夜まで公園で過ごしてみたけど、彼女の姿を見かけることはなかった。
翌日も、その翌日も、放課後になると真っ直ぐに『天使の広場』に向かい、夜まで一人で過ごした。
そうして数日間通い詰めていると、徐々に不審者を見るような目を向けてくる人が増えてきた。
3
土曜日。
朝から園内に居座っていると、パトロール中だったのか、それとも通報を受けたのかは分からないけど、お巡りさんに声をかけられた。
人を待っているという旨を伝えると、近隣の住民が怖がっているからほどほどにしなさいと窘められた。
さすがに居づらい状況になってしまい、途方にくれながら歩いていると、
「やっほー颯太!」
背後から芹沢さんの声がしたので振り返る―――
「ひっ…!」
思わず情けない声を出してしまった。
「ちょっとちょっとぉ! クラスメイトに対してなんつー失礼な反応すんのよぅ!」
僕が過剰に反応したのは芹沢さんに対してではない…
「う…うしろ……」
「後ろ?」
一度振り返った芹沢さんはすぐに向き直り、「?」と訝しがるだけだった。
芹沢さんには“見えてない”んだ…。
すぐ後ろにいる“それ”が。
芹沢さん以外の通行人たちも“それ”には一切の興味を示していないから、彼らにも見えていないと考えるべきだろう…。
それこそ、テレビの企画レベルの大がかりなドッキリでない限りは…。
4
“それ”は「死神」と言われて、誰もが真っ先に想像するような容姿をしていた。
真っ黒なローブと、柄の部分を上にして背中に携えている巨大な鎌。
ローブの隙間から見える胴体部分はすべて骨で、フードを被っている頭部もやはり髑髏だった。
到底作り物には思えない、その“少し小柄な死神”に対して、僕は確信を持って話しかけた。
「すももちゃん…」
表情などあるはずもない骸骨が一瞬驚いたように見えた次の瞬間、僕の周りの時間が停止した。
無音となった世界の中で、僕の頭に直接響くような声が聞こえてきた。
それは紛れもなく、僕の“従兄妹”の声だった。
『なぜ。』
たぶんその「なぜ」は、
「なぜ、見えるのですか。」だ。
僕にもわからない。
でも、きっと、
「もう一度、君と話がしたいて願ったからかな…」
『では、なぜ。』
「わたしだと分かったのですか」って?
そんなの簡単だよ。
だって、
僕は彼女が背負っている鎌の柄の部分を指差しながら言った。
「そこにぶら下がってるのって、芹沢さんからもらったストラップでしょ?」




