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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
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02 視線

         1

 あれから二ヶ月が過ぎた。

 季節はすっかり夏となり、連日の猛暑に誰もが辟易としていたある日の教室でのこと。

「はぁ…」

 隣の席の芹沢さんがため息を漏らした。

「ため息なんて珍しいね」

「珍しいかな…。珍しいか。…でもまぁ、あたしだってため息を吐きたくなることくらいあるのよ」

「何かあったの?」

「う、うん。まぁ…ね」

 彼女にしてはずいぶんと歯切れが悪い。

「なんなら、話くらいは聞くよ? いつだったかのお返しの意味も込めて」

「お返し? いつの話よそれ。…でもありがと」

 芹沢さんは「あたしの勘違いかもしれないから、まだ誰にも話してないんだけどさ」と前置きをした上で、更に少し間を置いてから、ぽつりと話し始めた。

「あたし最近、誰かに“見られてる”気がするんだよね」

「見られてる? 誰かにって、誰に?」

「それが分かれば悩んだりしないって…」

「ああ、それもそうか」

「インターとか、人の多い所でふいに視線を感じて辺りを見回すんだけど、あたしのことを見てる人なんて誰もいない―――みたいなことがよくあって…。でも視線は確かに感じるんだよ。颯太はそういう感覚、分かる?」

「うーん、正直ピンとこないな…」

 話くらいは聞くよ、なんて言ったけど、これは本当に聞くことしかできない問題だったかもしれない。

 安易に「気のせいじゃない?」とも言えないし、かと言って「いざというときは僕が守る」なんてもっと言えない。

「確信があるわけじゃないから、警察とかに相談してもきっと動いてもらえないよね…」

「確信があったって動いてくれるかは微妙だけどね。ストーカー被害なんかはいつも後手後手になってる印象だし」

「ストーカーって…。あんまり怖いこと言わないでよ…」

「別に怖がらせるわけじゃないけど、ただでさえどんな犯罪に巻き込まれるか分からないご時世なんだから、用心するしかないよ」

「でも、具体的にはどうすればいいんだろ」

「なるべく一人で出歩かないようにするとか、防犯ブザーを持ち歩くようにするとかじゃない?」

 それくらいしか咄嗟には思い浮かばなかったけど、何もしないよりはマシだろう。

「防犯ブザーか。悪くないかも。持ってるだけでも少しは気が楽になりそうだし」

「でしょ? 他にも色々対策はあると思うけど、まずは手近なところからやってみたらいいんじゃないかな」

「うん。そだね。放課後、ホームセンターにでも探しに行ってみるよ」

 一応は役に立てたみたいでよかった。

 これで視線の主が少しでも自重するようになればいいんだけど…。

 そもそもが彼女の気のせいだったとしたら、まあ、それはそれで万々歳だろう。

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