01 質(たち)の悪いイタズラ
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「すももちゃん、これ…」
玄関でノートを手渡しながら僕は言った。
「このノート、こんなに赤かったっけ?」
「えっ…。颯太、まさか、見えるように、なったのですか…?」
あっ、そうか。そういう演出だったのか。
僕は瞬時に理解した。
ノートは既にすり替えられていて、すももちゃんは置き忘れたふりをしたのだろう。
そういうことなら最後まで話に付き合ってあげないとな。
「う、うん。驚いたよ。これも僕とすももちゃんの信頼関係が強くなったお陰かな」
「…はい。」
ノートを忙しなく捲りながら、すももちゃんは「良かった。これで時間的な余裕が―――」などと言っている。
そしておそらく例の最後のページを開いた状態で僕の方にノートを差し出してきた。
「今なら分かるはずです。このページに書いてある真実が。」
僕は彼女が最後に仕掛けたサプライズが一体どんなものなのか、期待を膨らませてそのページを見た。
「………」
「颯太。そこにはなんと書いてありますか?」
僕は「分からない」と答えた。
すももちゃんは信じられないといった様子で僕からノートをひったくる。そして独り言のように呟いた。
「まさか…まだ中を見るまでには至っていないということ…?」
「…見えてるよ。僕が分からないと言ったのは、すももちゃん、君のことだ…」
「わたし…の? それはどういう―――」
「どうもこうもないよっ!」
「ひっ…」
初めて見る僕の態度に彼女はすっかり怯えてしまったようだ。
でも構わなかった。
この時の僕にあったのは彼女に対する怒りだけだったから。
「なんでこんな質の悪い悪戯ができるんだよっ! なんで…」
そこには間違いなく、こう書かれていた。
『芹沢結衣(16)』




