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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
20/45

20 GW後半・最終日

         1

 いよいよゴールデンウィークも残すところ今日一日となった。

 それはすなわち、明日には僕の部屋が元通り“僕だけの部屋”に戻るという意味でもある。

 すももちゃんは今日の夕方くらいまで過ごしてから出て行く予定だ。

 その後どこへ向かうのかは聞いていない。

 聞けなかった。なんとなく。

 たった数日間の滞在だったけど、彼女は既に立派な家族の一員だった。

 母さんと父さんもまるで我が子のように可愛がってくれていたし、モカともすっかり仲良しだ。

 今日はそんな彼女のために、急遽、ちょっとした送別会みたいなものをすることになった。

 母さんと父さんが午後に出かける予定があるので、二人が少しでも参加できるようにと、会はお昼に開くことにした。

 急な話だったけど、芹沢さんたちにも連絡してみたところ、みんな二つ返事で来てくれるとのことだった。


         2

 お昼。

 僕、すももちゃん、芹沢さん、修二くん、高野さん、そしてモカがテーブルを取り囲んでいる。

 母さんと父さんは飲み物に少しだけ口をつけた後、ほどなくして出かけてしまった。

 最初から僕たちだけで気兼ねなく盛り上がれるようにするつもりだったのかもしれない…。

 テーブルの上には既にだいぶ量の減った料理が所狭しと並べられている。

 そのラインナップは、ケーキやお寿司、フライドチキンなど、まるで誕生日会か何かのようだ。

「ぬっふっふ」

 宴もたけなわという時になって、芹沢さんが不適な笑みを浮かべた。

 みんなが芹沢さんに注目すると、彼女は待ってましたとばかりに立ち上がり、

「じゃじゃーん! ここであたしからすももへプレゼントがありまーす!」

 と、小さな包みを掲げた。

「プレゼント…ですか? わたしに?」

「そうだよ。今日はもともと颯太ん家に押しかけて、すももに渡すつもりだったんだー。ほい」

 受け取ったすももちゃんは嬉しさと戸惑いが混じり合ったような表情をしている。

「あ、開けてみてもいいでしょうか…?」

「もちろん!」

 袋から取り出されたものは、赤くて丸い飾りが二つついたストラップだった。

 さくらんぼ…かな?

 よく見ると、飾りは編みぐるみのようで、それぞれに可愛らしい顔が刺繍されている。

 如何にも女の子が気に入りそうなデザインだけど、少なくとも、僕の知らないキャラクターだった。

 他県のご当地ゆるキャラか何かだろうか?

 芹沢さんは何故それをチョイスをしたんだろう…。

「なんと、それ、あたしの手作りなの! その赤いのはすももの実だよん」

 李だったのか…。ごめん芹沢さん。

 たぶん、駄菓子屋なんかで見かけるパック入りのやつを参考にしたから二つなんだろう…。

「手作りの、李の実…。わたしのために…。」

「どう? 可愛いでしょ? 気に入ってくれた?」

「はい。…とても。」

 すももちゃんは目に涙を浮かべている。

 それ以上は言いたくても言葉が出ないようだ。

「よかった…。正直、気に入ってもらえなかったらどうしようって不安だったんだ」と芹沢さんが胸を撫で下ろす。

「私も何か用意してくれば良かったなぁ…」

 逆に高野さんはしゅんとしている。

「な~に言ってんのぉ! すずは夏にコスプレの衣装をプレゼントするんでしょーが」

「そうでした~♪」

 そんな二人のやりとりも聞こえていないように、すももちゃんは手のひらのストラップを大事そうに見つめていた。

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