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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
15/45

15 ボウリング場にて

         1

「颯太。この「棒リング」という遊びはどうやるのですか?」

「えっ? すももちゃん、ボウリングをやったことがないの?」

「はい。」

 今時の中学生ならボウリングの経験くらいはありそうなものだけど…

 案外そうでもないのかな?

 いや、むしろ部屋に籠もってスマホを弄っている方が昨今の中学生にとってはスタンダードなのかもしれない。

 少なくとも、すももちゃんにとってはあまり馴染みのない遊びのようだ。…発音がちょっと変なくらいだし。

 でもそれがなんだか妙に可愛らしくて、誰も指摘しないのは意地悪だろうか…?

「今から芹沢さんがやるのを、まずはよく見ておいて」

「分かりました。」

 今回のボウリングは「僕・すももちゃんペア」対「修二くん・高野さんペア」対「芹沢さん」の勝負ということになった。

 まずは前哨戦としてワンゲームを行い、その後の本番の勝負で最下位になったチームが、一位のチームにお昼のデザートを一品奢ることになっている。

 早速、芹沢さんが華麗な投球を披露した。―――が、彼女が放ったボールはレーンのふちぎりぎりを転がり続け、僅か一本のピンを倒すにとどまった。

 フォーム自体はよかったものの、最後に手元が狂ったようだ。

「ああやってボールを転がして奥にあるピンを倒すんだ。多く倒すほど高得点だよ」

「なるほど。」

 芹沢さんは「あらら~」と分かり易くおどけてみせた後、二投目できっちりスペアを出してきた。

「一投目でピンが残った場合はもう一投だけ投げて倒すことができるんだよ。それを十回繰り返して合計点数を競うんだ」

 …と言うか、芹沢さん、まさか一投目を狙って外したわけじゃない…よね?

「僕たちはペアだから一投ずつ交互に投げよう」

「分かりました。でも一投目ですべて倒してしまうと遊べる回数が減って残念な気分になりそうですね。」

 あ、あはは…

「ほら、僕たちの番だよ。すももちゃんからどうぞ」

「はい。頑張ります。」

 ボールの持ち方や投げるときのコツなどを簡単に説明する。

 てこてこと、ぎこちない動きでレーンに向かったすももちゃんは投げる手前で足を止め、小さな子供のような投げ方でボールをころんと転がした。

 ゆっくりと転がっていたボールは半分もいかないうちに溝に落ち、あえなくガーターとなってしまう。

 フォローしてあげようと思い、とりあえず「どんまい」という言葉をかけようとしたら、その前にすももちゃんが振り返った。

「棒リング、楽しいですね!」

 その満面の笑みを見た瞬間、僕以外のみんなも、きっと、こう思ったはずだ。

 この子が楽しんでくれるなら勝ち負けなんてどうでもいいや―――と。


         2

「残念。負けてしまいましたね。」

「うん。そうだね。でも楽しかったよ。すももちゃんは?」

「はい。とても楽しかったです!」

「そう。ならよかった」

 いつもならデザートをかけた時点でボウリング大会は割と熱い勝負になるのだけど、今回ばかりは和やかな雰囲気のままゲームは進んだ。

「ナイスファイトだったよ! すもも!」

「だな。この短期間でだいぶ上達したもんな」

「私なんて、すもちゃんが投げるところが可愛かったから思わず動画に撮っちゃった! スマホ充電するの忘れてなければ、もっとたくさん撮れたのに! …無念じゃ」

 ボウリングを通して、みんなともすっかり打ち解けられたみたいだ。

 芹沢さんと修二くんは「すもも」と呼び捨てにしているし、高野さんも「すもちゃん」というあだ名らしきもので呼ぶくらいには距離が縮まっている。

「みなさん。ありがとございます。」

 ぺこりと下がったすももちゃんの頭をみんなが撫でたそうにしている気がするけど、既に空腹が限界に達していた僕たちはインター内にあるフードコートへと足を向けた。

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