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だから僕は左目なんかいらない。  作者: 日暮 絵留
14/45

14 GW後半・初日

         1

 翌日。ゴールデンウィーク後半戦の初日。

「う、うぅぅうーん」

 微睡まどろみの中で僕は違和感を感じていた。

 原因は、たぶん、慣れないソファーで寝たからだ…。

 モカが乗っているお腹が重たい…。

 目を開けるのは億劫だけど少し撫でてやろう。

 手を伸ばす。

 んっ? あれ?

 モカの毛並みとは明らかに違う手触りがする…。

 目を開けてお腹を確認した僕は一瞬で眠気が吹っ飛んだ。

「す…すももちゃん!?」

 フローリングの床に座った状態で、僕のお腹の上に頬を乗せて眠っているすももちゃんが「うにゅ。」という変な寝息を立てた。

 いつの間にこんな状況に…

 道理でいい匂いがすると思ったんだ…。

 やましいことなど何もないけど、この状況を両親に見られるのはあまりかんばしくない。

 そう思って多少強引にでも彼女を引き剥がそうと思った―――のだけど、

 僕は気づいてしまった。

 閉じられた彼女の瞼から涙が流れた跡があることに…。

 僕は再び目を閉じた。

 そして伸ばした手ですももちゃんの頭を撫でた。

 そこにいるのはモカなのだと勘違いをしているフリをして。


         2

「ほら、すももちゃんはこれを使って」

「…ありがとうございます。」

 不承不承といった感じの声音が気になったので聞いてみると、

「そっちの方が機能的で良さそうです…。」

 ―――とのことだ。

 その眼差しは僕の脇に停めてあるマウンテンバイクに注がれている。

「これは僕が乗っていくんだから駄目だよ?」

「分かっています。ただ、良さそうだと言ってみただけです。」

 そう言いながら彼女が跨がったのは、普段は母さんが使っているシティサイクル―――いわゆる、ママチャリだ。


         3

「颯太。その、いんぱぁ? というのは遠いのですか?」

 僕の少し後ろを走るすももちゃんが、いつもより少し大きめの声で聞いてきた。

 乗る前は残念がっていたすももちゃんも、もうすっかりママチャリに馴染んでしまっているみたいだ。

「『インター』ね、『インター』。うちからなら一時間くらいかな」

「途中、有坂さんの家に寄るのですよね?」

「そうだよ。他のみんなともそこで合流するから、僕の従兄妹だっていう設定をくれぐれも忘れないでよ?」

「承知しています。」

 今日、友達と遊びに行く予定だったことは前述した通りだけど、そこに僕の“従兄妹”が同行することになった。

 もともと四人だった人数は五人になった。

 すなわち、

 僕。修二くん。

 芹沢さん。

 芹沢さんの親友で、修二くんの恋人でもある『高野たかのすず』さん。

 そして、すももちゃん。

 この五人だ。

 ちなみに『インター』というのは県内最大級の規模を誇る郊外型ショッピングセンターの略称で、正式名は『インタープラザ』。

 僕たちのお目当ては併設されているゲームセンターの中にあるボウリング場だけど、女子二人組はインター内で色々買い物もしたいらしい。

 まあ、ほとんど買わないことは明白なんだけど…。


         4

「みんなお待たせ」


「颯太やっほー」

 今日も元気いっぱい芹沢さん。


「よぉ、久しぶりだな!」

 会うのは春休み以来となる修二くん。


「こんにちは。颯ちゃん」

“普段は”控えめなテンションの高野さん。


 一通り挨拶を済ませると、みんなの視線が僕の一歩後ろでもじもじしている少女に向けられた。

「で、君が颯太の従兄妹のすももちゃんね? 颯太から聞いてるよ」

 芹沢さんがのぞき込むような姿勢ですももちゃんに声をかけたので、「クラスメイトの芹沢結衣さんだよ」と紹介した。

「こんにちは。芹沢さん。今日はよろしくお願いします。」

 ぺこりと頭を下げたすももちゃんに真っ先に食いついたのは、当の芹沢さんではなく、高野さんだった。

「うわぁ♪ 超可愛い~♪ 是非コスプレさせたいぃぃ! う~ん♪ なんの衣装が似合いそうかな~♪ う~ん♪ う~ん♪」

 高野さんはいわゆるオタクというやつで、特にアニメやゲームのキャラクターの格好を真似する「コスプレ」というものが好きらしい。―――と言っても、高野さん自身がコスプレをするわけではなく、コスプレ用の衣装を制作するのが趣味なんだとか。

「決めた! 『ほむほむ』でいこう! 絶対似合う!」

 僕はそっちの世界には疎いのだけど、『ほむほむ』というのが、高野さんが以前からお気に入りのアニメのキャラクターだということは知っている。…確かにすももちゃんの雰囲気にピッタリなキャタクターだ。

 それにしても……

「普段の高野さん」と「スイッチが入った時の高野さん」のギャップは何回見ても不思議に思う…。

 こうなった時の彼女を放っておくと、どんどん熱が入って、いずれ暴走してしまうのでここら辺で止めておかないとな。

「高野さん、盛り上がっているところ申し訳ないんだけど、コスプレの話はまた今度ってことで」

「えーっ!? まだ全然話し足りないよぅ!」

 ぶぅぶぅ言っている高野さんを横目に、すももちゃんが僕の袖を引っ張ってきた。

「颯太。颯太。」

「ん?」

「「こすぺれ」とはなんですか?」

「コスプレ、ね」

「それはなんですか?」

 その言葉を耳聡く聞いていた高野さんがすももちゃんの手をがっしりと掴み、「すずおねーさんが教えてあげるッ♪」と目を輝かせた。

 二人のやりとりに修二くんも加わり、わいのわいのと盛り上がり始める。

 その様子を静観していると、芹沢さんが近寄ってきて、「なんだ。とってもいい子じゃん」と零した。

「だから言ったでしょ。そんな子には見えなかったって」

「確かに。…あたしはてっきり、もっと変な「死神」が来るんだと思ってたよ」

「まあ、少し変わった子ではあるけどね。なんて言うか、こう、浮き世離れしてるのかな…」

「なんで家出なんかしちゃったんだろうね」

「それは彼女の方から話してくれるのを待つしかないね。問い質すようなことはしたくないし、今はとにかくそっとしておいてあげるのがいいと思うんだ」

「ん。“保護者”の颯太がそう言うんなら、きっとそれがいいんだろうね」

 芹沢さんはそう言うと、いつの間にかコスプレ以外の話で盛り上がっている三人組に呼びかけた。

「ほらほらー? 意気投合してるのはいいけど、そろそろ行くよー?」

 僕は芹沢さんには聞こえないような小声で呟いていた。

「どっちが保護者なんだか…」

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