プロローグ:過去は捨て現代
―――――――――――――――――――もうやめてよ。」
泣きながら言ったそれがたった一人残してきた彼女の生まれて初めての我儘だった。俺はその意味が分からなかった。いくつもの可能性を探したがその言葉の意味が分からない。もしかしたら意味なんてないのかもしれないと考えて何度も考えるのを放棄しようとした。だがそれは許されなかった。寝て起きを繰り返す中それは何度も頭の中で繰り返される。いくつもの朝を迎えたところで忘れるわけがない。忘れたくも忘れられない。
物語があった。いくつもの戦いがあった。最初は希望も夢も愛も光もあった。しかし次第に光は闇へと変わった。希望は絶望へ、夢は後悔へ、愛は不信へ......
何度も裏切り何度も裏切られた。そしてその度人間への嫌悪感がひしめいていく。
虐殺も繰り返してきた。この手で命を消すのは意外と簡単で人を殺しているとむしろ喜びすら感じたこともあった。
世間一帯からしたら俺は百戦錬磨の強者。でも本当はただの快楽殺人鬼。
そのことに気付くのは遅くはない。
ある時、とある実業家の子供の暗殺の依頼を受けそれを実行した。
その時その子が血だらけで途切れ途切れで言った言葉が心に残っている
『やっと..死ねる...ありがとう...』
子供にはあまりにも過酷な世界で生きてきたことは確実。
なんでこんな子供が死ぬ事になったんだ?なんであの時やっと死ねるなんて言ったんだ?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?............
俺はすべてを放棄した。
俺の隣にいつもいた彼女も、共に戦ってきた仲間も、今まで殺してきた人々の罪も全部捨てた。
これでよかったんだ。
これで誰も死なない。
俺の物語は決して続けてはいけない――――――――――――――
それはただの願望......いや俺自身の...正義の味方だった時の俺自身の願い。
俺は日本に戻った。
平和な日々のオンパレード。いつしか消えた笑顔も取り戻し。いつしか無くした感情も思い出した。
ふと、彼女の事を思い出す
『コノハ、知ってる?この花の花言葉は"I love you"なんだって!!』
『ああ、知ってるよ......キクだろ?それ』
『じゃ、じゃあこれは?花言葉は"remembrance(記憶)"」
『......スターチス』
『なんで知ってるの!?』
『そんなの一般常識』
それを俺はクスッと笑いもう彼女と会えない事を思い出し少し暗くなる。
俺も最近、感情豊かになってきたと思う。昔のように何も考えていないことが少なくなってきた。最初は不気味だとか言われていたけれど今じゃそんな事も言われることが無くなった。
そして俺は周りの物語に身をゆだねるようになった。つまりモブになった。それが何より嬉しくて仕方なかった。
モブとは基本的に主人公を引き出たせる役の事だ。もう俺は重過ぎる荷は背負っていない。荷は常に軽く空をも飛べそうだった
しかし、俺はまだ気付かない。その軽い荷はただの贋作だってことを。真作はもうそこまで迫って来ていることを。
そしてやっと再スタートが切られた