既知
僕は、その言葉を聞いた瞬間、背筋がゾクッとした。
……これが「モモカのもの」って、なんで知ってるんだ?
この栞を見つけてから、ここには来ていない。それに、図書館の司書さん以外、誰にも話していない。
さらに、モモカのことを彼女の前で話したことなんて、一回もない。
なのに、モモカを知っている……?
「『なぜ……? 彼女は一体……何者……? 』ってところかな? 顔が青ざめてるよ? 大丈夫?」
彼女のこの言葉が、僕を震え上がらせた。
何故、僕の心の声が分かる……。しかも何故、正確なんだ……?
最初は、ただの偶然だろうと思っていた。しかし、最初に出会ったときも、前回出会ったときも、的を得ている。ここまでくると、当たりすぎてて、逆に怖い。
彼女に、心の中を除き見られているのだろうか。
とりあえず僕は、黙っているのも不自然だと思い、返事をした。
「あ、あぁ……いや……。別に、何でもないよ……」
「……もしかして……見られたくないものとか」
「いや、そういうわけじゃない!!!」
僕は、彼女の言葉に被せて話していた。
「……声荒らげてごめん。ほんとに、何でもないから……気にしないで……」
きっと不自然だったと思う。傍から見たら、何か誤魔化してるように見えるだろう。
「……そっか。……そう、なんだね」
彼女が「ふふっ」と笑った直後に、桜が舞った。まるで僕らを暖かく包んでくれるようだった。
「よかった……。忘れないでいてくれて、よかった……」
忘れないでいてくれて、よかった……?
一体、何を……? 何の話だろうか。
僕は、思わず彼女の顔を見た。
彼女は、何故か、優しい顔をしていた。
このあと、これ以上、あの栞の話をすることはなかった。
僕には疑問しか残っていなかった。
◇◇◇
「ねぇ、ヒュウガ! 」
僕を呼ぶ声がした。誰だろうと思いながら声のした方を見た。
するとそこには、いつもの桜の木がある公園の光景が、目の前に広がっていた。
「ん? 何? モモカ」
僕の視線の先には、二人の少年少女がいた。
あれは…………僕とモモカ……?
てことは、これは……昔の夢か何かか……?
「ここ! ここで本読もうよ!!! 」
幼いモモカが、ある桜の木を指差して言った。
「えぇー……なんで公園から遠いところなんだよー……」
「だって、ここだけ、周りに日陰がないんだもん! 」
「なんだよそれ……! 理由になってないぞ! 」
「えぇー! だってだってー! 周りがキラキラ光ってる桜の木なんて、初めて見たもん! きっと、ヒュウガのお母さんだって、見たことないよ!!!」
「えぇー……」
幼い僕は、嫌そうな顔をしていた。
この時のことは、よく覚えている。モモカは本当に、「あの桜の木の下で、本を読みたい」という顔をしていた。現に、僕は嫌だった。
僕が幼少期にしていたことは、外で元気に遊ぶより、室内で読書ばかり。そのため、運動オンチの僕にとっては、あの公園まで行くのが大変だった。
何故、わざわざあんな遠いところにするのか、幼い僕には理解できなかった。
「きっとヒュウガも、お気に入りの場所になるって!!! この、モモカちゃんが保証してあげるから!!! ね??? 」
モモカは幼い僕の手を引き、あの桜の木の下に連れていった。幼い僕は呆れたような顔で、モモカに手を引かれていた。
すると、次第に僕の視界が白くなり、僕は思わず目を瞑った。
◇◇◇
気がつくと、空にはキラキラと星が輝いていた。そして僕は、いつもの桜の木の下にいた。
また以前のように、夢を見ていたようだ。過去の自分を見ているような夢を。
昔からモモカは、自分の意思をはっきりと言うやつだった。決め事をするときも、たわいもない話しているときも、思ったらとにかく言う性格だった。
そのせいで、わがままっぽく聞こえてしまうこともあったが、幼い僕は、いつからか「いつものことだ」と気にしなくなっていた。
そのため、このときの僕は、モモカに流された。
最初は乗り気ではなかったが、次第に「悪くない」と思い始めた。今となっては、その木の下が居心地のよい空間となり、僕の読書スペースになっている。
結果オーライというか、なんというか。
そういえば、このあと僕もモモカも、眠くなって寝てしまった。気がついたら夜で、慌てて帰ったのを覚えてる。
最近、僕はモモカのことをよく思い出す。あれから七年も経ってるのに、何故だろう。
……あの日々はもう、返ってこない。
でも、本当は、あの日々を無くさなくて済んだかもしれなかった。
だって、あの日、モモカが倒れる前にやった鬼ごっこの鬼は……
モモカだったのだから。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!!
更新がだいぶ遅くなってしまい、すみませんでした*_ _)
まだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします!!!