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栞 Ⅱ

 あの日は、夏のよく晴れた日だった。

 日向と日陰の境目がはっきりとわかるほど日差しが強く、四方八方から聞こえる蝉の鳴き声がうるさいと感じたのは、よく覚えている。

 その日、まだ幼かった僕は、コウヨウとユカリ、そしてモモカの幼馴染三人と、公園で鬼ごっこをして遊んでいた。空の色が少し明るい藍色になるまで、ずっと遊んでいた。

 遊びつかれた僕たちは、家に帰るため、公園の入り口に目をやった。すると、救急車が赤いランプを光らせていた。救急車の方へ駆け寄ると、近所の人と救急隊員が何人かいた。

 僕は、小さいながらも大人の間をかいくぐっていくと、そこには応急処置をする救急隊員と、呼吸を荒くして苦しむモモカがいた。


「モ……モモカ……? 」


 僕は思わず声を漏らした。あまりの衝撃で、どんな声を出したかなんて覚えてない。だけど、きっと言葉になってなかったと思う。


 ────あんなに元気だったモモカがなんで……?


 その言葉が頭の中をぐるぐると回り、しばらく離れることはなかった。

 救急隊員がテキパキと処置を行うのに対して、僕はただ呆然としてることしかできなかった。

 その後、僕は母から聞いた。


「……モモカちゃん、あのあとしばらくして、死んじゃったんだって……」



 ◇◇◇



 図書館をあとにした僕は、公園には寄らず、まっすぐ家に帰った。そして自分の部屋に入ると、真っ先にベッドに飛び込んだ。

 正直、この心境でゆっくり本を読めるわけがない。混乱でしかない。

 僕は仰向きになると、右腕を額に当てた。

 なんで急にモモカの名前が…………?

 あれはもう、七年前の話なのに……なんで……?

 僕は、制服の胸ポケットに入れた桜の花の栞を取り出し、目の前に持ってきた。そして、押し花にされた桜の花をじっと見つめた。

 図書館で、「友人の」なんて言ったけど、あれはとっさに出た嘘。

 僕は正直、この栞がほんとにモモカのものかはわからない。確かにモモカはよく本を読んでいたが、どんな栞を使っていたかなんて、そこまで気にしていなかった。

 でも、僕は誰のか分からないこの栞を持っていないといけない気がした。特に理由とかないけど、そんな気がした。

 僕は、その栞を胸の前にあて、キュッと握りしめた。



 ◇◇◇



 翌日。

 僕は授業が終わると、真っ先にいつもの公園に向かった。昨日は行けなかったし、ここ最近、じっくり本が読めてない。だから「今日こそは」と、意気込んでいた。

 いつもの見晴らしのいい公園に入り、いつもの桜の木の下に座った。日差しが強かったのもあってか、木の下の木陰はとても涼しく、居心地がよかった。

 早速、僕は本を開いた。この本は読みかけだったため、お気に入りの四つ葉のクローバーの栞が挟んであった。


「あっ! その栞ーっ!!!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、僕は上を向くと、木の上のあの彼女に指をさされていた。


「その栞ってさー!!! …………って、うわああああああ!!!」


 少し興奮気味に話しはじめたと途端、彼女は足を滑らせた。

 僕は反射的に目を瞑って下を向いた。

「彼女が、僕に向かって降ってくる」なんていう少女漫画展開はなかった。

 その代わり、僕の左側に降ってきた。

 僕は、恐る恐る目を開くと、彼女は腰をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、彼女の顔を覗き込むように、少し前のめりになりながら言った。


「だ……大丈……夫……? 」

「まぁ、少し腕が痛いけど大丈夫〜!!!  えへへ〜足滑らせちゃったよ〜」


 彼女に、「あはははっ」と笑いながらそう言われた。しかし、彼女の右腕をよく見ると、少し赤黒っぽく見えた。

 僕は彼女の右腕に手を伸ばすと、彼女は引っ込めた。


「これ……ほんとに大丈夫なの……? 」

「だっ……大丈夫だよ〜……! これくらい、ほらぁっ……!」


 彼女はそう言うと両腕を胸の前で構え、「しゅっしゅっ」と言いながら、僕に向かって腕を前に突き出した。シャドーボクシングのつもりなのだろうか。

 彼女は左手を前に二回、右手を前に一回、をワンセットに何回か突き出す。僕は最初は見ていられないかと思っていたが、だんだん微笑ましい気持ちになってきた。

 こういう一面もあるのか……。「THE 女の子」って感じするなぁ。

 そんな、たわいもないことを考えていた瞬間であった。ゴキっという鈍い音が聞こえるのと同時に、彼女は固まってしまった。


「…………」


 なんとも言えない空気が漂った。

 沈黙が続いた。そしてしばらく経つと、彼女の左手は胸の方へ曲がって、右肘の方へゆっくり動いた。すごい痛いのか分からないが、その速さはとてつもなくゆっくりであった。

 僕はそんな空気を何とかしようと、恐る恐る口を開いた。


「……だ……大丈夫?」

「……うん! 大丈夫! ほらー! 」


 彼女の右腕を見ると、先程見えたような気がした、赤黒い色……ではなかった。はっきりとした肌色であった。

 あれ……?

 さっきは赤黒かった気がしたのに……。

 僕の気のせい……か?


「私の腕なんてどうでもいいの!!! そんなことより!!!」


 彼女はそう言うと、僕のチャックの空いた鞄に手を突っ込んだ。


「えっ……ちょ……! な、何してんだよ!」


 僕は、少し声を荒らげた。

 見られて困るようなものは、特に入っていない。だが、さほど親しくない相手に、何の断りもなしに鞄を漁られるのは、なんとなく嫌な気分になる。

 彼女は、何かを見つけたのか、鞄から取り出し、僕に見せた。

 それは、図書館で見つけた、桜の栞だった。



「これ、モモカのでしょ?」


投稿するのが大幅に遅れました……。

約1ヶ月ぶりの投稿です……。


内容はその分、ボリュームがある(?)と思います!

次話もよろしくお願いします!!!

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