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一週間後

 彼女に出会ってから一週間が経った。

 あの日と同じような時間帯にあの桜の木の下に行くのだが、あれから会うことはなかった。


 僕は、今日も桜の木の下で腰を下ろし本を開いた。しかし、あの日のことが気になって集中できなかった。

 そもそも、桜の木の下で一人になって本を開く。それが僕の習慣だ。あの日、彼女に会ったことが特別だった。ただそれだけのこと。

 なのに、なぜか落ち着かない。無駄にソワソワしてしまう。

 心のどこかで、彼女に会って話がしたい、とでも思っている自分がいるのだろうか。


「『いや、でも僕は、初めて会った子に会いたいだの話したいだの思ったことがない。……やっぱり、今読んでいる小説のストーリーに影響を受けているな』……ってとこかな? 」


 僕はとっさに辺りを見回すと、あの日と同じ場所で手を振る彼女がいた。思わず僕は立ち上がり、木陰から出るように後ずさりをする。


「ふふふっ、びっくりした?」


 彼女は楽しそうに笑うと、あの日のように木から降り、僕の目の前に現れた。

 彼女が先程言っていたことは、僕の心境そのものと言っていいほどのものだった。初めて会った子に会いたい、話したいといった感情はこれまで抱いたことはないし、今、僕が読んでいる小説は現実世界が舞台で少しファンタジー要素が入っている。

 彼女は何者なんだ? 僕の心の中が読めるのか……?


「……ぷっ……あっははは、あっはははは!」


 彼女は突然、笑い出した。

 少し不審に思った僕は彼女を見ると、腹を抱え、ひーひーと言いながら笑っていた。

 ……ん? 何か面白いことでも思い出したのか?


「顔だよ、かーお! 」


 そう言って彼女は右手の人差し指を立て、頬に当てた。

 …………え? 顔が面白いの?


「全部顔に出てるの!! すっごいわかりやすくって……」


 僕は、彼女にまた笑われた。


「…………ええ? 」

「ぷっ……もう、その顔やめてっ……くくくっ」


 やはり僕は、また笑われた。


「……そんなに面白いのか?」

「うん。だって、君……」


 彼女がそう言いかけたとき、僕は無意識に彼女の顔を見た。この時の僕は、まだ何も知らなかった。事が本格的に動いたのはこの時からだっただろう。


「全部分かっちゃうんだもん」


 彼女と目が合った瞬間、彼女は少し悲しそうな顔をした気がした。そして、パチッと電流が流れるような感覚を感じるとともに、僕の目の前が真っ白になっていった。



 ◇◇◇



 太陽は一段と輝き、蝉の鳴き声はあちこちから飛び交う。右を向くと、まさに夏と思わせるような入道雲がぬぅっとたたずんでいた。芝生や遊具があるところから見て、どうやら公園のようだ。

 ………何なのだろう……何か違和感を感じる。


「みんなどこだー? 絶対、見つけてやるからなー!」


 ふと下を向くと、ある少年の声とともに、僕の足の下を通り過ぎる少年の姿が見えた。キャップを被っていて顔は見えなかった。

 ……ん? 足の下?

 よくよく周りを見ると、周りには木の枝があちこちから伸びていた。僕の手は落ちないよう、近くの枝を握っていた。木の上に登っているのか。

 僕は周りを見渡した。木の上からか、公園の景色はもちろん、低木林が集まっている裏などの隅までかなり見えた。どうやら、眺めのいい場所にいたみたいだ。

 そんなことより……今、僕はなぜここにいるのだろう……。

 肝心なことが分からないまま、僕はしばらく木の上にいることにした。


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