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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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「こちら、早川優衣さん」


店長が、作業中の従業員1人1人に紹介してくれる。


「よろしくお願いします」


緊張しながらも、丁寧に挨拶をする。その時、1人の男が飛び込んできた。


「おはようございまーす!」


自然に、その声のする方を振り返る……。


「あれ、早川優衣!」


「お、大谷ーっ!?」


「あれれー、お知り合い?」


2人を交互に見る店長。


「おう! じゅんぺー、ちょうどよかった。早川さんにタイムカードとロッカー教えてあげて」


「えーっ、店長! 新しく入ってきたちょー可愛い子って、もしかして早川優衣!?」


「そっ。ちょー可愛いだろ」


(ちょー可愛いだなんて……、そんな〜っ♪)


店長の褒め言葉に、若干有頂天になる優衣。


「まじかよ! 俺、ちょー期待してたのに」


そこで、優衣は気付いた。


(ってことは、イケメン2人の内の1人が大谷? ぎぇーーーーっ!!)


「こっちこそ! がっかりだわっ」


2人の間に、険悪な空気が流れる。


「まぁまぁ、とにかく混み合う前に一通りのこと教えてあげて」


大谷の肩をポンっと軽く叩いて、店内に入っていく店長。


(まじかぁ。大谷に教えてもらうなんて、プライドずたずただよ)


納得のいかない現状を、優衣は素直に受け入れることができない。


「こっち……」


無愛想な大谷に、無言で付いていく。


従業員専用の部屋に入ると、大谷は自分のタイムカードと無記名のタイムカードを続けて差し込んだ。


「はいっ、これ名前書いて」


「…………」


差し出されたタイムカードを、無言で受け取る。


「なんか怒ってる?」


優衣の顔を覗き込む大谷。


「別に……」


「やっぱ、怒ってんだろ!?」


「あのねーっ! あんな公衆の面前であんなふうに侮辱されたら、誰だって気分悪くなるでしょ」


「大げさだなぁ、冗談じゃん。それに、そっちだって言いたいこと言ってただろ」


「それは……、大谷が言うからじゃん!」


どっちも引かない言い争いを続けている最中、背後のドアが勢いよく開いた。


「じゅんぺー! 新しく入ってきた子、どんな感じー!?」


そう叫びながら、また1人の男が飛び込んできた。


「あっ、ひろ先輩! こいつ、早川優衣」


大谷による簡単な紹介が終わると、ひろ先輩と呼ばれるその男は、思いっきりの笑顔で優衣に握手を求めてきた。


「ゆいちゃーん、よろしくーっ」


(うわっ、チャラーい!)


「あっ、よろしくお願いします」


心の内を悟られないように、一応その手に応える。


「俺、星隆校3年の工藤裕(くどう ひろ)。まじで可愛いね〜♪」


(星隆校ーーっ!! イケメンのもう1人っ!??? 終わった……)


優衣は静かに、恋物語の幕を引いた。

そのあと、異常な程明るい工藤は、その場で着替え始めた。


「あっ、ゆいちゃん、ロッカーはそこね。制服は中に入ってるけど、女子はこの奥の更衣室で着替えてね」


「はい、ありがとうございます」


着替えが終わった工藤は、引っ掛けていた靴をトントンと履きながら店の中へと入っていった。


「書いた?」


「あっ、うん」


優衣が手渡したタイムカードを、ラックに戻そうとする大谷。


「あれ、一番上しか空いてねーじゃん」


「本当だ」


「届くか?」


「届きます!」


「いや、無理だろー」


「全然、大丈夫っ」


大丈夫ではなかった……。

身長156cmの優衣にとってその場所は、背伸びをしてやっと届くという高さである。身長180cm以上ある大谷はそのカードを簡単に抜き取ると、自分のカードと置き換えた。


「入店時刻ってのは、1分1秒を争うからな」


(へぇーっ? そんな気を遣ってくれるなんて、意外……)


優衣は、少しだけ肩の力を抜いた。


「大谷がここでバイトしてるなんて、全然知らなかった。いつからやってたの?」


「1年の夏ぐらいからだったかなぁ……。まぁ、尊敬すべき先輩ってことだな」


「はいはい……」


それから優衣は、店長から接客の指導を受け、憧れていたカウンターに初めて立った。


「いらっしゃいませ、ハンバーガーとコーラですね」

(キャーッ! 私、Mバーガーのお姉さんじゃーん♪)


イケメン2人は大きく外れたけれど、取り合えず初日はいい感じで終わった。

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