表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
8/54

『ユイ、ユイ!』


「う〜ん、zzz……」

(くすぐったぁい……。耳が、くすぐったいよ〜っ)


熟睡している優衣の耳元で、必死に呼び続けるおじさん。


「も〜、くすぐったい、てば!」


勢いよく、寝返りを打つ優衣。枕の上に居たおじさんは、ベッドに転落した。


『イタタタッ!』


今度は優衣の頭をよじ登って、もう一度名前を呼ぶおじさん。


『ちょっと、ユイ!』


(えっ、誰か呼んでる?)


重い瞼を少し開けてみると、額の上から覗きこんでいるおじさんと目が合った。


「んっ!? ……ギャーーーッ!!」


悲鳴に近い声をあげ、起き上がる優衣。

おじさんはまた払いのけられ、今度は床に落下。


『ウ〜、イタタタ、モー駄目ダ』


完全にノビてしまった。


「あっ!」


その姿にハッとして、優衣はようやく目が覚めた。


『酷いジャナイカァ』


腰を押さえながら、ゆっくりと立ち上がるおじさん。


「ごめんなさ〜い、ふぁ〜っ……」


優衣はあくびをしながら両手を上げて、身体を思いっきり伸ばした。


『ソンナ事より大変ナンダヨ! ワタシの部屋が、何者かによって荒らされてルンダッ』


「えっ!?」


起き上がって、本棚を覗いてみる。


「あぁ、これは……、弟の陽太が、お父さん達に見つからないようにっておじさんを隠してたの」


『隠しテタ? ナルホドーッ! ワタシはてっきりカラスの野郎の仕業だと思ッテ……』


「カラスは入ってこれないから安心してっ。あっ、私、学校に行く支度しなくちゃ」


急いで部屋のドアを開けて、廊下に出る。


シーーーン……。


なぜか、家の中は静まり返っていた。


「えっ! ちょっと、今何時?」


振り返って、開けっ放しになっている自分の部屋の時計を確認する。


「ご、5時ーーーっ!?????」


すぐに部屋に戻り、再びベッドに潜り込む優衣。


「ちょっとおじさん、まだ5時じゃない! もう少し寝るから起こさないでね」


おじさんは自分の部屋に戻って、カリッカリッと軽快な音を立てて角砂糖を食べている。


『ユイ、アリガトー。コレは、最高級品ダナ』


「う〜ん、zzz……」


それから優衣は、2時間ほど眠り続けた……。その間に、律儀な陽太がおじさんに挨拶をしに入ってきていたが、意識はなかった。


やがて、いつもの慌ただしい朝に……。


「おじさん! お母さんが入ってきたらすぐに隠れてね」


『アイヨ』


おじさんは窓の外を眺めながら、後ろ姿で優衣を見送った。


ピーカーーッン!

昨日の荒れた天気が嘘のような真っ青な空を、夏雲が気持ちよさそうに泳いでいる。


「優衣! 今日からバイトでしょ!? あとは私がやっておくから」


水が噴射しているホースを受け取ろうとする沙也香。

放課後、校庭の花壇に水をあげるのも環境委員の仕事である。色とりどりの花に繋がる水のアーチが、キラキラと虹を映しだしている。


「大丈夫、水やりの時間はちゃんと計算してあるから。沙也香だって、今日はアトリエでしょ?」


「まぁ、そうだけど。私はまだ余裕あるから」


沙也香の両親は、どちらも医者。

1人娘の沙也香は将来も有望だと期待され、塾に家庭教師、更には英会話教室……。一週間のスケジュールは、ビッチリと組み込まれている。ただ、週に一度、沙也香の強い希望で、絵画教室アトリエに通えるようになった。


今日は、そのアトリエに行く日。だから、沙也香は機嫌がいい。

そして優衣も、今日はMバーガー初出勤。夢と希望に包まれ、授業中も休み時間も心はうわの空……。


(イケメン2人かぁ♪)


水やりの仕事を終えると、逸る気持ちでMバーガーへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ