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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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勢いよくリビングに入ろうとした優衣は、ドアの前で立ち止まった。聞き捨てならない会話が聞こえてきたからだ。


「母ちゃん。姉ちゃんヤバいよ! 1人で喋って1人で笑ってんだぜ」


「嫌だ〜、本当に? そういえば、今日の優衣、なんだか変だったわよね」


母親と陽太が、優衣を病気だと疑っている。


「まじでヤバいって! まぁ、姉ちゃんの人生、クソみたいだからなぁ」


(まずーい! このままだと私、病院に送られちゃうよーっ。やっぱり、陽太には話しておくべきだね。うん、うん……)


陽太への告白を心に決めて、ドアを開ける。


「おかわりーっ」


茶碗を差し出す優衣に、


「食欲はあるのね」

「うんうん」


母親と陽太の憐れんだ視線が突き刺さる。


「あっ、お母さん。私、バイト決まったから」


「バイトって、Mバーガーの?」


「そうそう! 今日、面接に行ったら、明日から来ていいって」


「あら、良かったじゃない」


(あれっ、お母さん? バイトは反対してたのに……)


「姉ちゃん、頑張れよ」


「了解! 明日から、私の世界変わっちゃうかもーっ♪」


「良かったな」

「良かったわね」


なぜか優衣は、2人の声援を素直に喜べない……。


「あっ、そうそう。お母さん! うちに角砂糖あったよね?」


「あるわよ。食器棚の引き出し……、何か飲むの?」


「ううん、ちょっとね」


開いたティッシュに角砂糖を3つくるみ、嬉しそうに階段を駆け上がっていく。そのあとに続くかのように、陽太も上がってきた。


(そうだ! 陽太に言わなきゃ)


立ち止まって振り返り、自分の部屋に直行しようとしている陽太を引き止める。


「ようちゃん」


「なんだよ、気持ち悪いなぁ」


「ちょっと、見せたいものがあるんだけど……」


「えっ!? どーせ、くだらないもんなんだろーっ」


「うーん……、びっくりするぐらいファンタジー系なものかなっ」


「えーっ!! やっぱお前、頭おかしくなっちゃったんじゃねーの!?」


「姉に向かってお前!? 全く、近頃の中学生ときたら、礼儀は知らないし、姉より先に恋はするし、ほんと非常識!」


「普通だろっ」


「まぁ、いいや。とにかく来て!」

陽太を引き連れて、おじさんの居る棚を覗き込む。


『zzz……』


「あっ、寝ちゃってる」


おじさんは、スヤスヤと眠りに就いていた。それを目の当たりにした陽太は……、あわあわヘナヘナと、その場に座り込んでいる。


「なんだよこれ〜、小人〜!?」


「シーッ、起きちゃうよ。小人じゃなくて、妖精みたい」


「嘘だろっ」


「自分で、そう言ってたもん」


「まじかよ〜っ……。でも、どうしてこんな変な妖精が姉ちゃんの部屋に居んだよ」


「そこのバス停で見つけたんだけど、この雨の中ですごく困ってるみたいだったから連れて来ちゃったの」


「すげぇじゃん! 姉ちゃん、人助けしたのかぁ。あっ、人じゃないかぁ」


「まっ、まぁね」


優衣を見る陽太の目が、一瞬にして変わっている。

それから陽太は少しびびりながら、眠っているおじさんを夢中になって観察し始めた。


「姉ちゃん。このことは絶対に父ちゃんや母ちゃんには内緒だぞ!」


「やっぱり、まずいよね」


「まずいに決まってんだろ! 俺が拾ってきたあの可愛い子犬だって、父ちゃんはその日のうちに交番に連れてっちゃったんだぜっ」


「そうだったね。陽太が大泣きしてたのにねっ」


「あいつら大人は冷血人間だ! この変な妖精だって、あいつらに見つかったら研究所とか保健所に連れていかれるぜっ」


「確かに……」


「とにかく、この変な妖精は俺達で守らないと!」


「うん、そうだねっ」


陽太の妙な正義感に、優衣は感心して同意する。


そのあと陽太は、眠っているおじさんを隠すように本を5冊程立て掛けた。そうして、自分の小細工を満足げに眺め、自分1人で納得して自分の部屋に戻っていった。


優衣は、おじさんの枕元に角砂糖を置いてから、明日が期限のレポートに取り掛かる。

眠りに就いたのは、午前1時過ぎ……。その夜、おじさんが目覚めることはなかった。

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