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地平線がほんのりと赤い色に染まり、暗闇がじわじわと明けていく……。
泣きながらおじさんを見つめる優衣の胸に、おじさんとの日々が鮮やかに蘇る……。
雨降りのバス停で出逢った、調子のいいおじさん……。
大好物の金平糖を、美味しそうに食べるおじさん……。
自分を天才だと自慢する、自意識過剰なおじさん……。
ふわふわおっぱいが好きな、ちょっとエッチなおじさん……。
ポケットの中から嫌みを言う、子供のようなおじさん……。
大谷にやきもちを妬く、可愛いおじさん……。
優衣との別れを辛いと言ってくれる、素敵なおじさん……。
優衣は今、おじさんの全てがたまらなく愛おしい。
朝焼けで真っ赤に染まった空が、朝露に濡れる紫色のラベンダー畑をゆっくりと映しだす……。深い青と燃えるような赤、鮮やかな紫色のグラデーションに包まれた幻想的な世界……。
涙でいっぱいの優衣の瞳に映るおじさんは、涙ををこらえて優しく微笑んでいる。
優衣は、手のひらを引き寄せておじさんを胸に抱きしめた。
心と心が繋がる、あたたかい感覚……。
おじさんに出逢えた奇跡に感謝する……。
荷物を抱えた2人の妖精が待合所から出てくると、おじさんは優衣の手のひらからスーッと下りていった。
緑色のジャージを着た背の高い妖精から手渡された荷物には、優衣が編んだ帽子と母親が作った靴下がきちんと重ねられている。
「おじさ〜〜ん! エェーンッ……」
『ユイ……、ワタシの大好きな笑顔で見送ってオクレ』
「こんなに悲しいのに、笑える訳ないじゃーん! ヒック、ヒック……」
おじさんは優衣を愛しそうに見つめながら、荷物を背負った。
『ユイ……、アリガトー』
「嫌だよ、エェーーンッ……」
おじさんは泣きじゃくる優衣を気にしながら、2人の妖精のあとを追っていった。
3人の妖精達が、朝陽に向かって歩きだす。
(素直じゃない私に、たくさんの大切なことを教えてくれたおじさん……。私は、おじさんに何もしてあげられないの?)
優衣は、涙を拭いて立ち上がった。
(せめて、お礼くらい……。お礼だけは言わなきゃ!)
優衣は、おじさんの後ろ姿に向かって大きな声で叫んだ。
「おじさーーーんっ! おじさん、ありがとーーーーーっ!! おじさんと出逢えてよかったぁーーーっ! おじさーーんっ、だーい好きだよーっ!」
優衣の声が赤い空に響き渡ると、右端を歩いていたおじさんは真っ赤な目をして振り返った。
笑おうとする優衣の瞳からは、涙がこぼれ落ちる……。
優衣は泣きながら、思いっきり手を振った。
おじさんも涙を拭いながら、手を振っている。
『ユイーーーッ! 幸せになってオクレーッ』
朝の太陽が眩しい光の矢を放ちながら燦然と輝いた時、それぞれの任務を終えた3人の妖精達は遥か遠くに消えていった。
まるで眠りに就くかのように、その場に倒れ込む優衣。
おじさんと出逢ったこと、おじさんと過ごした日々、おじさんとの記憶は全て失った。




