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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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玄関に掛けてあった紺のレインコートを羽織りながら、優衣は外に出た。激しい雨の中、バス停に向かって走りだす。

滴を拭いながら誰も居ない待合所の中に入り、濡れたベンチの下を覗き込んだ。


「わぁ〜、やっぱり」


目を細める優衣。

そこには大量の雨が流れ込み、あたり一面大洪水になっている。


(小人達、流されちゃったのかな〜っ!?)


目を凝らして、茶色い泥水の中を注意深く探してみる。


「小人さぁ〜ん……」


暫く探してみたけれど、今朝見掛けたあの小人達は見つからない。

諦めた優衣は、一度腰を思いきり伸ばしてからベンチに座った。


(やっぱり、見間違えだったのかなぁ?)


滝のように降り続ける雨を眺めながら、混乱している頭の中を整理する。


『……イヤァ、参ったナァ』


「え?」


優衣は、その声のする方を見た。

これと言って変わった様子はない。そう思って、視線を雨に戻そうとしたその時、


(えーーーーーっ!?????)


まるで雷神のように、眼球が飛びだしそうになった!


あの、その、3人の小人のうちの1人が、優衣の座っているベンチの端っこにチョコンと座っている。

立ち上がると7〜8cmぐらいだろうか!? その小人は、白い2本線の入った青いジャージを着ている。

更に驚いたのは、思わずおじさんと呼んでしまうほど年季の入った顔だ。


(あれ、このおじさんどこかで……)


優衣は、そのおじさんの顔に見覚えがある。

正面を向いたまま、横目でキョロキョロと様子を窺う優衣。

おじさんは激しく降り続ける雨を眺めながら、何か独り言のようなものをブツブツと呟いている。


「あの〜」


優衣は勇気を出して、声を掛けてみた。


『…………』


聞こえないのか!? それとも、無視しているのか!? 反応はない。

その時、黒い空に光が走った!


ピカッ、ゴロゴロ、ガッシャーン!!


おじさんの頭をやっとのことで覆っている髪の毛は逆立ち、涼しげな目はまん丸に……。完全に固まっている。


(へぇ〜、このおじさん、雷が苦手なんだぁ)


優衣はクスッと笑いながら、そのおじさんの顔をまじまじと見た。


(そうだ! 今朝見た夢の中で私を案内してくれたあの人だ! 服装のせいかなぁ、顔も少しだらしなく見えるけど、あの案内人に間違いないよ)


優衣は、再び挑んでみた。


「あのーっ、夢の中で私を案内してくれたおじさんですよね?」


『…………』


またもや、反応はない。

次の瞬間、黒い空に更に強い光が走った!!


ピカーーッ、ゴロゴロッ、バリバリバッキーン!!!!


おじさんは更に目を見開き、両手で耳を塞いで、もうパニック状態に陥っている。


「こんなところに居たら危ないのに……」


優衣は独り言のように、小さな声で言った。


『ヘッ!?』


(えっ、今のは聞こえたんだぁ?)


意外なところで反応され、調子が狂う優衣。

ひどく怯えるおじさんが、少し可哀想になってきた。


「あのーっ、ここはとても危険だと思うので、よかったら(うち)に来ませんか?」


『いいのカイ!?』


(早っ!)


その反応の早さに、優衣は驚いた。

おじさんは目をウルウルさせながら優衣を見つめ、何かを考えている。


「どうしたんですか!?」


『イヤァ、それは有り難いのダケレド、アナタの親御さんが何とイウカ……』


「お父さんやお母さんには内緒で、私の部屋に連れていきますよ」


『そうカイ!? ソレナラお言葉に甘えようカナッ』


(即答!? しかも、もう荷物まとめてるし)


おじさんの行動力に圧倒される優衣。


『サァ、早くイコーッ!』


おじさんは優衣を見上げていながら、上から目線でそう言った。


小心者で調子のいいちっさいおじさん……。優衣はなぜか、このおじさんがとても愛しく思えてもう放ってはおけなかった。


「そういえば、おじさんみたいな人が、あと2人居ましたよね?」


『アイツらなら、ソレゾレ自分達の持ち場に向かってイッタ』


(自分達の持ち場!?)


意味不明な言葉に、眉をしかめる優衣。深く考えていたら頭がおかしくなりそうなので、(ま、いっか)と立ち上がった。


「とりあえず、ここに入ってて下さい」


そう言いながらおじさんに近付いていき、レインコートのポケットを開く。


『アイヨ』


おじさんは、ポケットの中に飛び込んだ。


(軽っ……)


少し膨らんだポケットを押さえながら、待合所を出る。

激しい雨の中、来た道を一気に戻る。

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