表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
4/54

「こんなにいい天気なのに、夕方から荒れるんだよね」


昼食を終えた瑞希が、教室の窓から顔を覗かせ空を見上げる。初夏の陽射しが、眩しく降り注いでいる。


「えっ、まじ⁉︎ 今日、5時からバイトの面接なのに」


パックジュースを手に、瑞希に近付いていく優衣。


「面接って、Mバーガーの?」


「うん」


顔を見合わせ、同時に晴れた空を見上げる。


「何なに、どうしたの?」


沙也香が、2人の中を割って入ってきた。未だA組に馴染めない沙也香は、このB組で過ごすことが多い。


「優衣、今日バイトの面接なんだって。でも、天気が怪しいねって言ってたところ」


瑞希の言葉に、大きく反応する沙也香。


「そうそう! 朝のニュースで、激しく荒れる恐れがあるって言ってた。とりあえず傘は持ってきたけど」


沙也香も身を乗り出して、同じように空を見上げる。


「うわぁ〜、最悪。今朝、テレビ見る余裕なんてなかったしなぁ。傘も玄関に置いてきちゃったよ……」


うなだれる優衣。瑞希が沙也香の背後から顔を出した。


「じゃ、私の置き傘貸してあげるよ! あれ持ってるといいことあるから」


「ほんと!」


嬉しそうに瑞希を見る優衣。


「わ〜、いいなぁ」


沙也香は、羨ましそうに優衣を見つめた。


学校が終わると、優衣は空を気にしながらMバーガー駅前店に向かった。先程までの晴天が嘘のように、灰色の雲が覆いだしている。


「すみません。あの、バイトの面接に来た早川なんですけど」


緊張する優衣を、綺麗系の女性店員が店の奥へと案内してくれる。胸の名札にはチーフという肩書きが記されていた。


「あっ、早川さん? こっちこっち」


人の良さそうな男が、事務所から顔を出して手招きしている。


「店長の坂本です。とりあえず座って」


「はい、失礼します」


指示通り、応接用の黒いソファーに浅く座る。


星隆(せいりゅう)高校の2年生かぁ?」


「はい」


履歴書に目を通しながら、優衣の前にゆっくりと腰を下ろす店長。


「うちにも星隆の2年と3年が1人ずつ居るよ、男だけど……」


「あっ、そうなんですかぁ」

(まじでーっ!?)


当たり前の返事をしながら、期待に胸を膨らませる優衣。


「しかも、2人共イケメン」


店長が、自慢げな顔をして身を乗り出した。


「へぇ〜」

(ヤッホー♪)


他人事のように聞き流しながら、心ではガッツポーズを決めている。


「じゃあ、明日から来れる?」


「えっ、決まりですか?」


「そう。決まり」


「あっ、よろしくお願いします!」

(やったぁー! 何かが始まる、絶対始まる♪)


呆気なく採用が決まり、笑顔で握手を交わしたその瞬間、


「店長ーっ!」と、調理場の方から誰かが呼ぶ声がした。


「じゃっ、みんなには明日紹介するから」


そう言って、慌ただしく事務所を出ていく店長。残された優衣も、案内をしてくれた女性店員に挨拶をしてから店内に入った。


(明日からここで働くんだぁ。しかもイケメン2人……。どちらかと恋に!? なんてことも……♪ まじで、この傘凄いかも)


鞄からはみ出した傘を、ギュッと中に押し込んだ。ハイテンションで店の中を通り抜け、外に出る。


「えーっ、何これ!? ちょー不気味」


先程までの灰色の雲は黒い色に変化し、黒い空が真上まで迫っている。


「早く帰らなきゃ」


優衣は、急いでバス停に向かった。


バスに乗ってからも、黒い空は凄い勢いで追い掛けてくる。

ゴツッ、ゴツッ、ゴツッ……。大粒の雨も降りだし、窓ガラスを強く打ち付けている。不快な音と異様な景色に怯える優衣。


(瑞希達が言ってた通り……。荒れ過ぎだよ!)


家の近くのバス停に辿り着く頃には、雨はもう土砂降りになっていた。瑞希に借りた赤い傘を開いて、家のドアまで一気に走る。


「ただいまーっ」


バスルームに直行し、乾いたタオルで髪や制服の(しずく)をサッと拭き取る。そのまま2階に上がっていくと、サンルームの方から騒がしい音が聞こえてきた。母親がドタバタと、取り込んだ洗濯物と格闘している。


「あら、おかえり。傘なかったんじゃない?」


「瑞希に借りた」


「もーっ、いつも鞄に入れておきなさいって言ってるでしょ」


「だって、重いんだもん。それに……」


言い訳を考えながら、ベランダを叩きつける雨に目をやった。土砂降りの雨はもう、全ての景色を消してしまうほどの豪雨となっている。窓から見える白いバス停が、可哀想なくらいに痛々しい。


その時、


「あーーーっ!!」


優衣は、朝の出来事を思いだした。


(小人達!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ