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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第3章 真っ白い冬
31/54

幸せな時間はあっという間に過ぎ去り……、会話の途中だというのに駅に到着した。


「おはよー!」

「おはよう」


ハイテンションの工藤と、緊張気味の沙也香が合流する。そこからは4人で、スキー場行きのバスに乗り換えた。

大谷は素早く工藤の隣りの席をキープすると、またまた今日の決戦について語っている。初めは適当に流していた工藤も、大谷の挑戦的な態度に次第に熱くなっていく。


『ヘンナヤツラダナァ』


「あっ、おじさん!」


突然ポケットの中から顔を出すおじさんに、優衣は異常なまでにびっくりしてしまう。


『カンゼンニ、ワタシノコトワスレテタデショ!?』


「忘れる訳ないじゃない」


しらじらしく、おじさんに目配せをする優衣。


「えっ、なーに?」


ひそひそと話す優衣の声に、隣りに座っている沙也香が反応する。


「な、なんでもないよ!」


首を横に振りながら、さりげなくポケットを隠す優衣。


「私、滑れるかなぁ」


「そっか。沙也香、初めてだもんねっ」


「うん……。大谷、教えてくれるかなぁ」


「教えてくれるよ! 相当、自信あるみたいだから」


「あーっ、優衣。ひとのことだと思って、適当に流してるでしょ!?」


「そんなことないよ! この、おニューのウェアとボードで、今日は頑張るんでしょ」


「うん」


「健闘を祈ってるから」


「ありがとう。やっぱり、優衣の応援が1番のパワーになる!」


「うん……」


嬉しそうに優衣の手を握る沙也香。けれども優衣は、その細い手を握り返すことができない。


(沙也香、ごめん……。私、同じひと好きになっちゃった……)


優衣は、大谷への想いをはっきりと認識した。

誰にも言えない、伝えることのできない想いだということも……。


沈んでいく優衣の気持ちとは裏腹に、バスの中のテンションは徐々に上がっていた……。目の前に、真っ白に迫りくる壮大なゲレンデが出現。

歓声が湧き起こり、乗客達はもう興奮状態に……。逸る(はやる)気持ちを抑えながら、ただそこに停まるのを待つ。


バスを降りると、すぐにテンポのいい最新曲が流れてきた。

軽快に滑る若者達、笑顔溢れる家族連れ、ホワイトクリスマスに酔いしれる恋人達。

そこは、幸せそうな人達で賑わう白銀のパラダイス。


「着替えが終わったら、ここに集合ね」


仕切りやの工藤の指示に従い、優衣と沙也香はロッカールームに向かう。

更衣室に入ると、沙也香は個室に入って着替えを始めた。その隙に、人目の届かない温風ヒーターの脇におじさんをそっと下ろす。


『アッタカァ〜』


幸せそうに、目を細めるおじさん。


「着替えてくるから、ちょっと待っててね」


『アイヨ』


優衣も個室に飛び込んだ。

急いで着替えを済ませ出てくると、沙也香は大きな鏡の前で自分の姿をチェックをしている。


「おじさん、お待たせ」


まわりを気にしながら話し掛ける優衣。


『アッ、ワタシはココで待ってるから、楽しんできてオクレ』


「えっ、そんなこと言わないでよ! 最高の雪景色を、おじさんと一緒に見るんだから」


『イヤ、お気遣いナク』


「ダメ! 早く、いこ」


素早くおじさんをポケットに入れ、沙也香と2人で外に出た。


「キャーッ、無理かもー!」


沙也香は、立ち上がるのにも一苦労。とても滑れる状態ではない。


「取り合えず俺達は滑ってくるから、2人はここで練習してて」


(はぁーっ!?)


最早、熱血バトルのことで頭がいっぱいになっている大谷は、仕切りやの工藤を説得してリフト乗り場に直行しようとしている。


「全く、なんで大谷が仕切ってんの!」


不服そうに、その後ろ姿を眺める優衣。

沙也香は淋しそうに、


「優衣も滑ってきたら。大谷が居ないんじゃ意味ないし……」


そう言って、雪の上に座り込んだ。

優衣は、つい熱くなってしまった自分を反省しながら沙也香の隣りに移動する。


「私も久しぶりだし、2人で練習しよ! すぐに滑れるようになるよ」


「……うん、そうだよね。私、滑れるようになりたい!」


沙也香は、ボードを取り付けて立ち上がった。

それから2人は、華やかなゲレンデの麓にて地味な練習を続ける……。

その間、大谷と工藤が何度か通り過ぎていったが、勝負に夢中になっている為、完全に別世界に居た。


「少し休もっか」


「うん」


優衣の提案に、沙也香も頷く。

2人は、近くにあるレストハウスで休憩することにした。

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