表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
3/54

学校に到着すると、環境委員の生徒達がゾロゾロと正門の前に集まり始めていた。


「優衣ーっ、早く、早く!」


「あっ、沙也香」


美山沙也香みやま さやか、この春編入してきた転校生……、A組の環境委員である。


「はいっ、これB組の名簿! 他のクラスのは渡しといたから」


「沙也香ありがとーっ! ほんと助かったぁ」


瞳を潤ませ、長身の沙也香を見上げる。

名簿を受け取ったところで、朝の挨拶運動が始まった。


「おはようございまーす!」

「お早うございます」


「優衣ーっ、沙也香っ、おはよー」


体格の良い女子が、笑顔で近付いてくる。


「あっ、瑞希! 鞄お願ーい」


足元に置いていた鞄を、申し訳なさそうに手渡す優衣。


「また乗り遅れたの?」


「はい……」


市原瑞希いちはら みずき、同じ中学から来た優衣の親友……、バスケ部では副キャプテンを務めている。よほどの縁があるのか、優衣とはずっと同じクラス。その隣りに居るのは、2ヶ月ほど前にできた瑞希の彼氏・深沢、陸上部のエースである。


瑞季は「仕方ないなぁ」と呆れながら鞄を受け取ると、深沢と楽しそうに校舎の中へと消えていった。


本鈴のチャイムが鳴った。


当番の優衣は、まわりを気にしながら正門を閉め始める。

その時、遥か向こうから全速力で走ってくる男が視界に入った。


大谷純平おおたに じゅんぺい、優衣の夫として夢の中に登場した同級生。同じB組の生徒である。


大谷は、いつも優衣が乗ってくる一本あとのバスに乗って登校してくる。朝は時間に余裕のない優衣も、何度かこのバスに乗り合わせたことがあるが……、停留所から学校まで猛ダッシュしても、遅刻か!? セーフか!? 2分の1の確率。

朝から、心臓に負担の掛かる賭けである。


今、まさに、毎朝その勝負に挑む男が、凄い勢いで近付いてくる。


「おーい! 早川優衣、ちょっと待ってろ」


優衣に向かって叫んでいる。


(全く……、礼儀を知らないヤツだね〜)


見なかったことにして、急いで門を閉める優衣。

ギギー、ギギギー……。最早、人が通れる余地はない。


究極の状態の中、必死な大谷は自分の腕を入れて防御した。


「お前、クラスメートを見捨てる気かよ!」


息を切らしながら、優衣を睨んでいる。


「もう時間だから! 大谷は遅刻だよ」


キッパリと言いきり、最後まで閉めようとする。


「早川優衣、頼むよ〜。俺、まじでヤバいんだって」


急に、下手に出る大谷。

ふと、優衣の脳裏に、今朝見た夢が蘇った。


(やっぱり似てる……。けど、何かが違う。うん、全然違う。あの軍人は、こんな情けないこと言わないよ)


思わず笑いがこみ上げてくる優衣。

そんな不意をうち、大谷は腕に力を込めて反撃を始めた。


「ちょ、ちょっと」


片足を壁に掛けて、優衣も必死に防御する。

見苦しい2人の争いを、他の生徒達も笑いながら注目している。

踏ん張り続ける優衣に、余裕の笑顔で体制を整える大谷。

門は緩やかに開かれ、支えをなくした優衣は後ろにふらついた。次の瞬間、大谷はサッと門の中に飛び込んだ。


「俺の勝ちだな」


優越感たっぷりのドヤ顔で走り去っていく。


「もーっ、意味分かんない!」


1日の始まりに異常なまでの労力を使い、朝の任務は終了した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ