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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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“本日の花火大会は〜、予定通りに〜、決行致します〜”


部屋に居ても、リビングに下りてきても、朝から騒がしく流れる町のアナウンス。

同じ台詞を、何度も何度も……。


「もう、わかったから! 花火大会をやるんでしょ。浴衣を着て、カップルが……、はぁ〜っ」


ふてくされながら、氷が入ったグラスに勢いよくアイスティーを注ぐ優衣。


彼氏ができたら、浴衣を着て夏祭りに出掛ける。これが優衣の密かな夢であり、目標である。

今年も、願いは叶わず。


「姉ちゃん! 夏月が花火一緒に行かないかって言ってっけど」


通話中の携帯を耳に当てながら下りてくる陽太。

こうして、毎年、弟の彼女にまで気を遣われている。


「あっ、なっちゃん? ごめーん、 今日、バイトなのー」


電話の向こうに居る夏月に聞こえるように叫ぶ。


(そうそう! そうだった。バイトが入ってるから行けないのよ)


予定が入っていることに、優衣は少し救われたような気がした。

待ち合わせの時間を約束して、陽太は電話を切った。ダイニングテーブルに近付いてきて、優衣と向かい合うように座る。その時、


「あっ、そうだ!」


優衣は、いいことを思い付いた。


「ねぇ、陽太。おじさんを連れていってくれない? あの花火の迫力、きっと驚くよ」


「うん、いーよ。あっ、でも、夏月が……、夏月におじさんのことバレちゃうじゃん」


「あっ、そっか」


簡単に諦めて、食事を始める2人。


「あら、なっちゃんならもう知ってるんじゃないの?」


サラダを運んできた母親が、陽太の顔を覗き込む。


「えっ!? なんだよ! 母ちゃんと約束する前の話だろっ」


動揺を隠しきれず、開き直る陽太。


「なんなの! 逆ギレ?」


呆れて、ため息を吐く優衣。


「でも、なっちゃんが知ってる方が安心なんじゃない?」


母親の言葉に、ハッとして頷く優衣。


「うん、そうだよね。陽太、やっぱりおじさんを連れていってよ」


「はいはい、わかりました」


「私、おじさんに言ってくる!」


急いで食事を済ませ、サンルームへと駆け上がっていく。


「おじさーん!」


『アイヨ』


返事は、ポトスの大きな葉の後ろの方から聞こえてくる。その葉を避けて覗いてみると、おじさんはとても軽快な動きで体操をしていた。


(オモチャみたいっ)


クスッと笑う優衣を、横目で見るおじさん。


『ドーしたんダイ?』


「あっ、そうそう! 陽太が、おじさんを花火大会に連れていってくれるんだって」


『ハナビの大会? ソノ大会は確か、ユイはバイトで行けないんじゃナカッタノカイ!?』


「うん……」


淋しそうに応える優衣。


『ソレナラ、ワタシも行かないヨ! ヤラナケレバならない事も沢山アルシ』


体操を終えたおじさんが、優衣の方に歩いてくる。


「そっかぁ、それは残念。なっちゃんも居るから安心って思ってたんだけど」


『ヘッ!? ナッチャンって、ナツキの事?』


「そうだけど」


『ナツキも行くのカイ!?』


「おじさん、なっちゃんを知ってるの?」


『イヤァ…、シラナイ、シラナイ』


優衣から視線を逸らし、ポトスを見つめるおじさん。

白々しいその態度に、優衣はピンときた。


(陽太のヤツ。もう既に、おじさんとなっちゃんを会わせてるな!)


『ヤッパリ〜、ワタシも行こうカナァ』


「えぇーーーっ!???」


『ナツキと、アッ、イヤイヤ、ハナビっていうものを見てみたい気がスルシ……』


「だっておじさん、やらなきゃいけないことが、たくさんあるんじゃなかったの?」


『イイヤッ』


「はぁ〜っ!??? 何それっ」


結局、おじさんは陽太達に付いていくことになった。


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