13
「ところで、妖精さんはいつもどこに居らっしゃるの!?」
母親は、いきなり本題に入った。
「私の部屋だけど……」
危機を察した陽太が、優衣の前に出る。
「母ちゃん! おじさんを追い出すなよっ」
「そんなことしないわよ」
「じゃあ、父ちゃんには絶対に言わないよなっ」
陽太は、応えに詰まる母親に更に迫る。
「父ちゃんが知ったら、おじさんを交番に連れてっちゃうだろー」
「連れて行かないわよ」
黙って聞いていた優衣も立ち上がる。
「でも、研究所とかに送ちゃうかもしれないじゃない!」
「……確かに。それは、あるかもしれないわね」
「えっ、あるのーっ!」
「あんのかよっ!」
2人の驚きの声は重なり、おじさんの動きは止まった。
そこからの流れは、まるで変わった。
「そうねっ、お父さんには内緒にしましょう。いい! 2人共わかった!?」
「う、うん」
「わかってるよ」
母親が先頭に立って、仕切りだしたのだ。
「ただ、優衣の部屋っていうのはどうかしらねぇ。一応、女の子だし」
「お母さん、一応って……」
「あっ、そうよ! 陽太の部屋を使って頂くっていうのはどうかしら?」
「やりーっ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私のおじさんなんだからねっ」
「そうよねぇ」
『アノー……』
3人の顔を代わる代わる見つめながら、何か言いだそうとしているおじさん。
「なーに?」
「なんだよ?」
「なんでしょう?」
一斉に、おじさんに注目する。
『ヒジョーに、図々しいお願いなのデスガ……』
「うん」
「うん、うん!」
「はい」
『ワタシを、アノ透明の部屋に置いては頂けないデショウカ?』
「透明の部屋?」
意味不明な発言に、考え込んでしまう3人。
やがて、その意味に気付いた陽太が大きな声で叫んだ。
「もしかして、サンルームのことじゃねーのっ」
「えっ、サンルーム!?」
『ソッ、ソレ! サンのルーム』
ベランダに沿って広がるサンルームは、全面、頑丈そうな硬質のガラスで覆われている。一年中、太陽がいっぱいに降り注ぐその場所は、真冬でも洗濯物が乾かせる雪国にとって強い味方。
「なるほどねーっ」
優衣は、おじさんのその発想に感動した。
「でも、あそこにはカーテンを取り付けてないので、ゆっくり眠れないんじゃないでしょうか?」
おじさんの睡眠を心配する母親。
『イエイエ、星空を仰ぎながらグッスリ眠れマス。タクサンの緑にも囲まれて、モー快適デス!』
「そうですかぁ。まぁ、あそこならお父さんが行くことはないし、2人はいつでも妖精さんに会えるわね」
「うん、賛成!」
「俺も!」
「それでは、サンルームでゆっくり過ごして頂きましょう。そうと決まったら、みんなで大掃除よ!」
「えっ、夕飯は!?」
「そんなのは、あと! まずは、妖精さんのお引っ越しよ」
「えっ……」
「まじかよ」
『オ、お構いナク……』
母親に誘導され、全員急いで2階に上がっていく。
「陽太は窓ガラスを拭いてちょうだい。優衣は床ね!」
「人使い荒いよなぁ」
「ほんと、お腹すいたぁ」
母親は張り切って、バタバタと掃除機をかけ始め……。どこからかクッションを持ってくると、それをおじさんのベッドに作り変えている。それは、とても楽しそうに……。
今までにない3人の結束で、見違えるほど綺麗になったサンルーム。
『オーッ、ピッカピカーッ! オカーサン、このフッカフカのベッド最高デス』
「お母さん、おじさんがすごーく喜んでるよ」
「良かったわぁ」
疲れきった母親は、その夜、食事を作ろうとはせず……。夕飯は、デリバリーのピザ。
「なんだか体が怠くて……」
父親に言い訳する母親。
「早く休みなさい」
母親には甘い父親。
そして、何も言えずに黙ってピザを食べる優衣と陽太。
早川家の夜は、静かに更けていく……。




