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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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「ところで、妖精さんはいつもどこに居らっしゃるの!?」


母親は、いきなり本題に入った。


「私の部屋だけど……」


危機を察した陽太が、優衣の前に出る。


「母ちゃん! おじさんを追い出すなよっ」


「そんなことしないわよ」


「じゃあ、父ちゃんには絶対に言わないよなっ」


陽太は、応えに詰まる母親に更に迫る。


「父ちゃんが知ったら、おじさんを交番に連れてっちゃうだろー」


「連れて行かないわよ」


黙って聞いていた優衣も立ち上がる。


「でも、研究所とかに送ちゃうかもしれないじゃない!」


「……確かに。それは、あるかもしれないわね」


「えっ、あるのーっ!」

「あんのかよっ!」


2人の驚きの声は重なり、おじさんの動きは止まった。


そこからの流れは、まるで変わった。


「そうねっ、お父さんには内緒にしましょう。いい! 2人共わかった!?」


「う、うん」

「わかってるよ」


母親が先頭に立って、仕切りだしたのだ。


「ただ、優衣の部屋っていうのはどうかしらねぇ。一応、女の子だし」


「お母さん、一応って……」


「あっ、そうよ! 陽太の部屋を使って頂くっていうのはどうかしら?」


「やりーっ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私のおじさんなんだからねっ」


「そうよねぇ」


『アノー……』


3人の顔を代わる代わる見つめながら、何か言いだそうとしているおじさん。


「なーに?」

「なんだよ?」

「なんでしょう?」


一斉に、おじさんに注目する。


『ヒジョーに、図々しいお願いなのデスガ……』


「うん」

「うん、うん!」

「はい」


『ワタシを、アノ透明の部屋に置いては頂けないデショウカ?』


「透明の部屋?」


意味不明な発言に、考え込んでしまう3人。

やがて、その意味に気付いた陽太が大きな声で叫んだ。


「もしかして、サンルームのことじゃねーのっ」


「えっ、サンルーム!?」


『ソッ、ソレ! サンのルーム』


ベランダに沿って広がるサンルームは、全面、頑丈そうな硬質のガラスで覆われている。一年中、太陽がいっぱいに降り注ぐその場所は、真冬でも洗濯物が乾かせる雪国にとって強い味方。


「なるほどねーっ」


優衣は、おじさんのその発想に感動した。


「でも、あそこにはカーテンを取り付けてないので、ゆっくり眠れないんじゃないでしょうか?」


おじさんの睡眠を心配する母親。


『イエイエ、星空を仰ぎながらグッスリ眠れマス。タクサンの緑にも囲まれて、モー快適デス!』


「そうですかぁ。まぁ、あそこならお父さんが行くことはないし、2人はいつでも妖精さんに会えるわね」


「うん、賛成!」

「俺も!」


「それでは、サンルームでゆっくり過ごして頂きましょう。そうと決まったら、みんなで大掃除よ!」


「えっ、夕飯は!?」


「そんなのは、あと! まずは、妖精さんのお引っ越しよ」


「えっ……」

「まじかよ」


『オ、お構いナク……』


母親に誘導され、全員急いで2階に上がっていく。


「陽太は窓ガラスを拭いてちょうだい。優衣は床ね!」


「人使い荒いよなぁ」

「ほんと、お腹すいたぁ」


母親は張り切って、バタバタと掃除機をかけ始め……。どこからかクッションを持ってくると、それをおじさんのベッドに作り変えている。それは、とても楽しそうに……。


今までにない3人の結束で、見違えるほど綺麗になったサンルーム。


『オーッ、ピッカピカーッ! オカーサン、このフッカフカのベッド最高デス』


「お母さん、おじさんがすごーく喜んでるよ」


「良かったわぁ」


疲れきった母親は、その夜、食事を作ろうとはせず……。夕飯は、デリバリーのピザ。


「なんだか体が怠くて……」


父親に言い訳する母親。


「早く休みなさい」


母親には甘い父親。

そして、何も言えずに黙ってピザを食べる優衣と陽太。


早川家の夜は、静かに更けていく……。

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