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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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「ただいま……」


玄関を上がると、客間の方から母親の話をする声が聞こえてきた。


「あれ、お客さん?」


振り返って確認するが ……。そこにあるのは、母親のサンダルと自分の脱いだ靴。それらしきものは見当たらない。

静かに客間の方へと進んでいき、襖を少し開けてみた。


「ん⁉︎」


そこには、床の間に向かって楽しそうに笑う母親の姿が……。

不自然に思い、よーく見てみると、


「はっ!?」


なんと、母親の前に敷かれた座布団の上には、正座をしてかしこまっているおじさんが乗っている。


「わあっ!!」


「あら、優衣帰ってたの?」


遠のいていく意識の中、無言のまま何度も頷く優衣。


「おっ、お母さん! なんで⁉︎」


「まぁ、そんなに驚かなくたっていいじゃない」


「だってぇ」


「優衣がお連れしたんですってね。サンルームに居らっしゃったから、今、客間にお通ししたところよ」


「お通しって、ちょっとお母さん!」


母親の腕を引っ張って、キッチンに連れていく。


「お母さん、この状況分かってる!?」


「状況って、妖精さんのこと?」


「妖精だなんて、ありえないでしょ!」


「だって、実際あそこに居らっしゃるじゃない」


「それはそうなんだけど……。でも、おかしいでしょ!」


「まぁね。あっ、お待たせしたら失礼よ」


母親は嬉しそうに優衣の手を取り、急いで客間に戻った。


「なんだか騒々しくてすみません」


おじさんに軽く頭を下げて、元の位置に座る。母親の行動を理解できない優衣、そしておじさん。

そんな異様な空気の中、その話は始まった。


「お母さんのお友達にも、妖精さんと一緒に暮らしてるっていう子が居たのよ」


「えっ!!」

『ヘッ!?』


おじさんと顔を見合わせながら、優衣も母親の隣りに座り込む。


「その子、毎日楽しそうに妖精さんの話をしてくれて、お母さんにも会わせてくれるって約束してたんだけど……」


「お母さんも会ったの?」


「それがね……。ある日を境に、その子は妖精さんの話を一切しなくなってしまったの」


「えっ、どうして!?」


「お母さんも不思議に思って色々と聞いてみたんだけど、何も覚えてないみたいだった」


「どういうこと?」


「逆に、どうかしちゃったんじゃないの! なんて笑われちゃったのよ」


「ひっどーい!」


「でも、優衣のところには来てくれたのね……」


母親が、嬉しそうにおじさんを見つめている。


『ソウでしたカァ』


照れながら、納得しているおじさん。


「あっ!」


何かを思いだした母親は、急に立ち上がった。


「ちょっと出掛けてきます」


そう言って玄関の方に走りだし、サンダルを引っ掛けて外に出ていってしまった。


『ユイとそっくりダナァ』


「やめてよ、あんな天然じゃないし」


緊張が緩んだ客間に、2人の笑い声が響き渡る……。

突然、優衣は我に返った。


「おじさーん! なんで見つかっちゃったのーっ」


『スマナイ、スマナイ……。ベランダから入る風が気持ち良くて、ツイツイ昼寝ヲ』


「もう、心臓が痛くなっちゃったよーっ」


『ワタシもダヨ』


「……取り合えず、着替えくるわ」


『ヘッ、置き去りカイ!?』


心細そうに、優衣を見つめるおじさん。


「お母さんなら大丈夫、おじさんを歓迎してるみたいだし」


『ソウなのカイ?』


「うん! だから心配しないで、ここに居て」


『……アイヨ。早く戻ってきてオクレ』


深く頷いて、2階に上がっていく。

急いで着替えを済ませ、再び客間に戻ろうとしているところに陽太が飛び込んできた。


「おじさーん!」


「何よ、いきなり! おじさんなら客間に居るけど」


「客間って、下の?」


「あっ、うん。実はおじさん、お母さんに見つかっちゃって……」


「バカヤローッ! それが、どういうことだかわかってんのかよっ」


涙混じりの声で、怒鳴り散らす陽太。


「だから……」


「あれほど気を付けろって言ってたのに、おまえは本当にバカヤローだな!

ほんと、クソヤローだ! ウワァ〜ッ」


顔をクシャクシャにして、泣き叫ぶ陽太。


「うわっ、相変わらず泣き虫だったんだ。男のくせに引いちゃうわー」


「うるせぇんだよ!」


「もー、とにかく来て」


暴れる陽太を、客間まで引っ張っていく。


「触んじゃねーよ!」


「ったく。どんだけガキなのよ。ほらっ、あそこ!」


2人の視線の先に居るおじさんは、座布団から下りて畳の匂いをクンクン嗅いでいた。


「おじさーーーんっ!」


久しぶりに再会した恋人を見るかのように、感激する陽太。


『オッ、ヨータ。お帰りー』


そして……、


「ただいまー」


母親も戻ってきた。

ひきつった顔で、優衣を睨む陽太。

再び座布団に上がり、正座をするおじさん。

母親はそのままキッチンに入っていき……、


カラッ、カラッ、カラッーーン*。.


何かが器に移される綺麗な音を響かせた。

3人は、ただその音に耳を傾ける……。

暫くすると、ウキウキと嬉しそうに母親が客間に戻ってきた。


「お待たせしました〜」


そう言いながら、おじさんに差し出したものは……。ガラスの器に入った、色とりどりにキラキラと輝く金平糖。


『ウォーッ!』


瞳を輝かせながら、感激しているおじさん。優衣と陽太は、もう何がなんだかよくわからない。


「お友達が言ってたことを思い出したんです。その妖精さんの好きな食べ物は、金平糖だって」


『驚きデス! イヤ〜ッ、久しぶりダナァ』


「私も、つい先日、駅に行く途中にあるケーキ屋さんで見つけたんです。もう懐かしくて……、どうぞ召し上がって下さい」


『デワ頂きマス』


おじさんはカリッカリッ音をたてて、とても美味しそうに食べ始めた。


「なんで!? おじさんが好きなのは、角砂糖じゃなかったの?」


『勿論、カクのサトーサンも好きダケド……。コンペーサンは、モー神ダネッ』


優衣は、なんとなくショックだった。


「どっちも同じようなもんじゃねーの?」


陽太は、どうでもいいと呆れる。


「あら、陽太帰ってたの?」


母親は、ようやく陽太の存在に気付いた。


「えーっ、気付いてなかったのかよー」


陽太も、なんとなくショックだった。


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