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ちっさいおじさんに出逢うと、本当に幸せになれるのか?  作者: ハナミヅキ
第1章 紫色の夏
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「あれーっ、今日はお揃いでご出勤?」


店頭でビラ配りをしていた店長が、2人を見てニヤニヤと笑っている。


「偶然会っただけですよ」


慌てて否定する大谷。


「そうなんです! 学校でたまたま一緒になって」


優衣も、思いっきり否定する。


「若いっていうのは、いいね〜」


1人で暴走する店長。


「は!」

「だから、違いますからーっ」


2人の反論を無視して、笑顔で通行人に紙片を手渡している。


「聞いてねーし!」とボヤきながら、店に入ろうとする大谷。

優衣も続いて、店長を通り過ぎようとした。


「あっ、そうだ。ちょっと」


呼び止める店長の声に、2人の足が止まる。


「優衣ちゃん! 明後日、花火大会の日なんだけど、もう予定入っちゃってる? 誰かに誘われちゃってるかなぁ」


「うわっ、店長! 早川優衣にそんなこと聞いちゃう?」


「なんなのよ!」


バカにする大谷を睨み付ける優衣。


「あっ、やべーっ!」


大谷は思いだしたかのように、店の中に駆け込んでいった。


「……あの、特に予定はないですけど」


体裁悪そうに答える優衣。


「ほんと! それならラストまで入ってもらえないかなぁ」


「あっ、はい、わかりました」


あっさりと引き受けて、急いで店の中へと入っていく。


「えっ、1分! これって遅刻ーっ!?」


なんと、タイムカードの時計は午後1時01分を指している。


「まじか……」


肩を落としながら自分のカードをラックからサッと抜き出すと、そこには既に12:58の数字が記されていた。


「あれ?」


着替えが終わった大谷と目が合う。


「感謝しろよ」


大谷は、照れくさそうにロッカーを閉めた。


「うん、ありがと」

(なんか……、嬉しいかも⁉︎)


優衣も思わず笑顔になる。


「いらっしゃいませ。チーズバーガーとコーヒーですね」


カウンターに立つ優衣。


「次のお客様どうぞ。……えっ!!」


目の前に、財布で顔を隠している女子高生が立っていた。隣には、静かに微笑む沙也香の姿。


「どうしたの!?」


「もう馴れてきた頃かなぁって思って」


ヘヘッと笑いながら、瑞希が顔を出す。

2人はハンバーガーとコーラを注文してから、空いているテーブルに向かっていった……。


「お友達でしょ? 今、落ち着いてるし……、休憩してきてもいいわよ」


隣りで接客していたチーフが、目でOKサインを出している。


「あっ、ちょっと待って」


優衣を一端止めて、ポテトのLサイズを用意してくれた。


「ありがとうございます!」


満面の笑みでユニフォームの帽子を外し、ポテトとジュースを抱え、2人のテーブルに近付いていく優衣。


「もーっ、ビックリするじゃーん」


瑞希と沙也香を交互に見ながら、椅子に座った。


「ビックリさせたかったんだもーん」


満足げに、瑞希がハンバーガーを頬張る。


「これ、あちらの綺麗なお姉さんからの差し入れ」


小声で説明する優衣。


「まじっ」

「やった」


大きなリアクションで、2人はカウンターの中に居るチーフに会釈をした。


「なんか、いいなぁ〜。ここに大谷も居るんだよね?」


そう言いながら、沙也香が店内をキョロキョロと見まわしている。


「えっ? 大谷は調理場担当だから、ほとんど奥に居るけど」


「そうなんだぁ」


「大谷がどうかした?」

「……なんで!?」


優衣と瑞希の声が重なる。


「えっ、別に、なんでもない。気にしないで!」


「……気になるよね〜っ」

「なる、なるっ」


優衣と瑞希が顔を見合わせる。


「うーん……、実は私……」


「うん、うん」

「なに、なにっ」


「あの……、大谷のこと……」


「好きなの!?」


ざっくりと聞く瑞希。沙也香は照れながら頷いた。


「あの大谷?」


「うん、B組の大谷!」


驚き過ぎた優衣からは、もう言葉が出てこない。


「いつから?」


冷静に、分析を始める瑞希。


「B組に行くようになってからかなぁ。なんていうか、優衣をからかう大谷を見てるうちに少しずつ……」


恥ずかしそうに告白する沙也香。


「そっかぁ、ビックリしたよ!」


正気を取り戻した優衣は、オレンジジュースを一気に飲み干した。


「ところで、優衣は大谷のことどう思ってるの?」


沙也香の唐突な質問に、再び動揺する優衣。瑞希も興味津々で見つめている。


「どうって……、別になんとも思ってないけど」


「それなら優衣は、私を応援してくれるわよね!?」


「するけど……、でも、本当に大谷でいいの?」


「うん。大谷がいいの」


瑞希は黙って、ポテトを食べ続けている。


「実は、優衣にお願いしたいことがあるんだけど……」


瞳をキラキラと輝かせながら、両手を合わせる沙也香。


「なーに?」


「あのね……、大谷の連絡先を聞いて欲しいの」


「連絡先?」


「だから、携帯とか〜」


「えっ、無理、無理、無理っ! 私が聞くのはおかしいでしょ。沙也香が自分で聞いた方がいいって」


「だって私、聞く機会がないんだもん。優衣、お願ーいっ」


沙也香には、日頃何かとお世話になっている。初めての頼み事を断る訳にはいかない。


「まじで?」


「うんうん、まじで」


仕方なくその頼み事を引き受けて、優衣は仕事に戻った。

それからバイトの終了時刻まで、聞き出すチャンスを狙っていたけれど……、タイミングを外しまくり、収穫のないまま店を出る。


「はぁ〜っ。やっぱ、聞けないよー」


行き交う人々で賑わう駅。

オレンジ色に燃え盛る夕焼け空が、優衣の瞳に眩しく映る。


(明日、さり気なく聞くしかない!)


気持ちを切り替えてバスに乗る。

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