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「あれーっ、今日はお揃いでご出勤?」
店頭でビラ配りをしていた店長が、2人を見てニヤニヤと笑っている。
「偶然会っただけですよ」
慌てて否定する大谷。
「そうなんです! 学校でたまたま一緒になって」
優衣も、思いっきり否定する。
「若いっていうのは、いいね〜」
1人で暴走する店長。
「は!」
「だから、違いますからーっ」
2人の反論を無視して、笑顔で通行人に紙片を手渡している。
「聞いてねーし!」とボヤきながら、店に入ろうとする大谷。
優衣も続いて、店長を通り過ぎようとした。
「あっ、そうだ。ちょっと」
呼び止める店長の声に、2人の足が止まる。
「優衣ちゃん! 明後日、花火大会の日なんだけど、もう予定入っちゃってる? 誰かに誘われちゃってるかなぁ」
「うわっ、店長! 早川優衣にそんなこと聞いちゃう?」
「なんなのよ!」
バカにする大谷を睨み付ける優衣。
「あっ、やべーっ!」
大谷は思いだしたかのように、店の中に駆け込んでいった。
「……あの、特に予定はないですけど」
体裁悪そうに答える優衣。
「ほんと! それならラストまで入ってもらえないかなぁ」
「あっ、はい、わかりました」
あっさりと引き受けて、急いで店の中へと入っていく。
「えっ、1分! これって遅刻ーっ!?」
なんと、タイムカードの時計は午後1時01分を指している。
「まじか……」
肩を落としながら自分のカードをラックからサッと抜き出すと、そこには既に12:58の数字が記されていた。
「あれ?」
着替えが終わった大谷と目が合う。
「感謝しろよ」
大谷は、照れくさそうにロッカーを閉めた。
「うん、ありがと」
(なんか……、嬉しいかも⁉︎)
優衣も思わず笑顔になる。
「いらっしゃいませ。チーズバーガーとコーヒーですね」
カウンターに立つ優衣。
「次のお客様どうぞ。……えっ!!」
目の前に、財布で顔を隠している女子高生が立っていた。隣には、静かに微笑む沙也香の姿。
「どうしたの!?」
「もう馴れてきた頃かなぁって思って」
ヘヘッと笑いながら、瑞希が顔を出す。
2人はハンバーガーとコーラを注文してから、空いているテーブルに向かっていった……。
「お友達でしょ? 今、落ち着いてるし……、休憩してきてもいいわよ」
隣りで接客していたチーフが、目でOKサインを出している。
「あっ、ちょっと待って」
優衣を一端止めて、ポテトのLサイズを用意してくれた。
「ありがとうございます!」
満面の笑みでユニフォームの帽子を外し、ポテトとジュースを抱え、2人のテーブルに近付いていく優衣。
「もーっ、ビックリするじゃーん」
瑞希と沙也香を交互に見ながら、椅子に座った。
「ビックリさせたかったんだもーん」
満足げに、瑞希がハンバーガーを頬張る。
「これ、あちらの綺麗なお姉さんからの差し入れ」
小声で説明する優衣。
「まじっ」
「やった」
大きなリアクションで、2人はカウンターの中に居るチーフに会釈をした。
「なんか、いいなぁ〜。ここに大谷も居るんだよね?」
そう言いながら、沙也香が店内をキョロキョロと見まわしている。
「えっ? 大谷は調理場担当だから、ほとんど奥に居るけど」
「そうなんだぁ」
「大谷がどうかした?」
「……なんで!?」
優衣と瑞希の声が重なる。
「えっ、別に、なんでもない。気にしないで!」
「……気になるよね〜っ」
「なる、なるっ」
優衣と瑞希が顔を見合わせる。
「うーん……、実は私……」
「うん、うん」
「なに、なにっ」
「あの……、大谷のこと……」
「好きなの!?」
ざっくりと聞く瑞希。沙也香は照れながら頷いた。
「あの大谷?」
「うん、B組の大谷!」
驚き過ぎた優衣からは、もう言葉が出てこない。
「いつから?」
冷静に、分析を始める瑞希。
「B組に行くようになってからかなぁ。なんていうか、優衣をからかう大谷を見てるうちに少しずつ……」
恥ずかしそうに告白する沙也香。
「そっかぁ、ビックリしたよ!」
正気を取り戻した優衣は、オレンジジュースを一気に飲み干した。
「ところで、優衣は大谷のことどう思ってるの?」
沙也香の唐突な質問に、再び動揺する優衣。瑞希も興味津々で見つめている。
「どうって……、別になんとも思ってないけど」
「それなら優衣は、私を応援してくれるわよね!?」
「するけど……、でも、本当に大谷でいいの?」
「うん。大谷がいいの」
瑞希は黙って、ポテトを食べ続けている。
「実は、優衣にお願いしたいことがあるんだけど……」
瞳をキラキラと輝かせながら、両手を合わせる沙也香。
「なーに?」
「あのね……、大谷の連絡先を聞いて欲しいの」
「連絡先?」
「だから、携帯とか〜」
「えっ、無理、無理、無理っ! 私が聞くのはおかしいでしょ。沙也香が自分で聞いた方がいいって」
「だって私、聞く機会がないんだもん。優衣、お願ーいっ」
沙也香には、日頃何かとお世話になっている。初めての頼み事を断る訳にはいかない。
「まじで?」
「うんうん、まじで」
仕方なくその頼み事を引き受けて、優衣は仕事に戻った。
それからバイトの終了時刻まで、聞き出すチャンスを狙っていたけれど……、タイミングを外しまくり、収穫のないまま店を出る。
「はぁ〜っ。やっぱ、聞けないよー」
行き交う人々で賑わう駅。
オレンジ色に燃え盛る夕焼け空が、優衣の瞳に眩しく映る。
(明日、さり気なく聞くしかない!)
気持ちを切り替えてバスに乗る。




