死は平等に訪れないようです。
再びセンターこと詰め所に戻ってきた。
とりあえず帰ってきた感。
先ほどと変わらず長さんがしゃべり続けている。
「おっ無事に戻ってきた」
「ただの球換えだ。問題ない」
無愛想な山さん
「さっきは死んで帰ってきたじゃん(ゲラゲラ」
長さんはイジリ役ぽい。
ムスーっとする山さん。
それはさておき、死んだときの事は聞いておきたい。
さっきの山さんの話でも簡単に殺されるみたいだったし。
「あの、一つ質問が」
「なんだ新入り」
ノリノリな長さん。
「自分達って、死んじゃったらどうなるんですか?」
「お、そこか」
「お前って前は何の種だったの?」
「人間でした」
「あー人間かー」
「死んだら誰かに蘇生してもらわないとならない種だよな」
「自分の居た世界では殆ど蘇生は無かったです」
「たしか蘇生率は、死後5分で50%、
10分たったら1~2%程度だったと思います」
「えらいキッツいな」
「それ、死んだ後に戦闘が長引いたらもう無理じゃね?」
「ですです。なのでとても気になって・・・」
「これまでの話を聞くと、簡単に死んでしまうようですし・・・」
「確かにそりゃ敏感にもなるわなー」
「でもそれについてはもう怖がらなくていい」
「というか、逆の心配をした方がいい」
「というと・・・」
「お前はもう勝手に復活し続ける」
「死なないって事ですか?」
「死ぬ死ぬ言っておいてなんだが、死なないってのは語弊があるな」
「破壊されれば一時的に散じるが、時間が経てば
お前がさっき出てきた穴に再生されるって感じだ」
「へぇ・・・少し安心・・・できました」
「いや、安心なんて出来るもんじゃないぞ」
「例えばだ、このダンジョンが無くなったしても、
土の中で復活し続けるって事だぞ」
「え、それ怖くないですか?」
「逆の心配をしろと言ったろ」
「呪いと言ってもいいくらいだ」
「せいぜいダンジョンが無くならないようにキリキリ働けよ(ケラケラ」
「はい・・・」
働かざるを得ない状況って事か。
ニートの道が封じられた。
「長さんはまた脅かして・・・」
「そんな怖がらなくても、ここはそうそう潰れないから大丈夫」
「それより、楽しみを見つけられるよう頑張ってね」
そこで白さんのフォロー。
ええ人や。
「あと、やはり死んだら持ち物は無くなっちゃうんですかね」
普通に考えればそうだが、一応確認。
「ん?基本的には無くなったりしないよ?」
「えっ?そうなんですか?」
「当たり前だろ。誰も持ってかなきゃソコに捨てられてるし、
持ってかれてもそいつを殺せば奪い返せる」
「あ、そういう意味で・・・」
聞き方が悪かったな。
ゲームみたいにドロップしないなんて無いよな。
「もちろん、身体の一部として一緒に作られたものは、身体と一緒に消えけどな」
「えっ、そんな事があるんですか?」
「俺らの付けてる腰袋なんかがそうだな」
「身体の一部に感じられくらいになると、
文字通り身体の一部になるらしい」
なんだよあるじゃん。ゲームみたいなの。
そのシステムつかって装備を整えれば強くなれるじゃん。
「とはいえだ」
続ける長さん。
いかにもこちらの期待に水を差しそう。
「そこまでなるには結構時間がかかる」
「それこそ何年も、何十年もだ」
「その間、日常的に肌身離さずつけて使い続ける必要がある」
「その間は死ねないんですね・・・」
ハードル高そう。
「いや・・・んー・・・」
「それが出来るならそれがいいかもな」
「でも気をつけてても死ぬときは死ぬからなぁ(ヘラヘラ」
死ぬ死ぬ軽いな。そんな日常的なのか
「結局のところ、身体の一部にまでなるモノってのはだな・・・(ニヤリ」
「落ちててもだーれにも拾われずに回収し続けられる、
まさにゴミだけなわけよ(ゲラゲラ」
「あー・・・なるほどー・・・だから腰袋なんですねー・・・」
納得した。納得したけど脱力もした。
ずーっと何十年も雑魚キャラやってる未来が見える。
「ロクなものしか持たないのは、戦闘をさける上でも重要」
山さんが真剣な顔で話す。
「確かになー」と長さん。
白さんと銀さんも同意してるようだ。
死の感覚が軽いのか重いのか、少し分からなくなってきた。
「死んでもいい様にしていながら、死なないようにはするんですね」
「そりゃまぁそうだ」
「でもさっきデスルーラしてきたみたいな・・・」
「アレはあくまでも冗談だ。そんな軽く死ぬ奴は居ない」
あれ?長さんから笑いが消えた。
あれ?なんか空気がおかしい。
「山さん、戻ってきたばかりで悪いけど、
新入りにB1Fの案内してこない?」
「そうだな。それがいいだろう」
長さんと山さんが二人で何か納得している。
「えっ、何か怖いんですが・・・」
「心配は無用だ。来い」
この有無を言わさない雰囲気。
なにか地雷を踏んだようだ。
また山さんの後ろをスゴスゴと付いていく俺。
なんかもうこれ慣れた。
「B1Fも色々な設備があるが・・・今日は一般冒険者区画を回る」
「B1Fは地上から入り込んだ動物や魔物が多い」
「オーク、盗賊、虫、ネズミ、狼・・・いろいろだ」
「そいつらはこちらから手を出さなければ問題ない」
ふむ、おなじみの雑魚仲間だな。
「問題は冒険者だが」
「これもさっさと逃げれば大抵は問題ない」
「勝てそうな冒険者でも逃げた方がいいんですか?」
「・・・お前がそれを望むなら、やってもいい」
なにやら含みがある言い方するな。
「しかし俺達は、人間の眠気を誘う術にまず耐えられない」
「そして寝たらそれで終わりだ」
あー・・・たしかに睡眠耐性なさそうな気がする。
というか、この体は精神操作系全般に耐えられない気がする。
「はい!俺もさっさと逃げます!」
素直な俺。
まぁ、そもそも戦う理由もないしな。
逃げるのが初めに来る選択肢なのは抵抗はない。
というか、これまで生きてきた世界でも、逃げるのが最善策だったしね。
そのままダンジョンを歩いているとオークやゴブリン達に出会ったが、
山さんの言うとおり素通りできた。
ダンジョン内も案外怖くないな。
しばらく歩くと、山さんが一つの扉の前で立ち止まった。
「ここだ」
「お前に見せておきたかった奴がここに居る」
「えっ、誰かに会うのが目的だったんですか?」
「まあな」
と言うと、山さんは扉を開けた。
そこには、フードを被った人間の彫像があった。
彫像の前には祭壇があり、香が焚かれた跡がある。
彫像に会いに来るとは、殊勝というか趣があるというか、
上から目線ぽくなってしまうが、ちょっと感心した。
「ここのお香を取り替えるのも俺らの仕事のうちだ」
「清掃の時にもされるが、巡回時に消えていたら換える」
「はい」
「新しいお香は像の横に置いてあるが、在庫が少なくなっていたら言え」
そう言って山さんが彫像に近づくと、彫像から人型の霊が1体出てきて山さんに殴りかかった。
「えっ!ちょっ!襲われてますよ!」
しかし、そんな事は気にも留めない山さん。
片手で顔へのクリーンヒットを避けながら、古いお香の掃除と交換をやってのける山さん。
手馴れたものだ。
最後に小さく呪文を唱えると、手の爪の先から小さな火が出て香に火がついた。
うーん、山さんはほんとプロってる感あるな。
簡単にやってるように見えるけど、自分はここまでスムーズに出来る気がしない。
というか、この幽霊はなんなんだろう。
お香を取替えに来た俺らコボルトにも襲いかかってくるなんて・・・
仕事を終えた山さんは幽霊の射程距離から少し離れると、話し始めた。
幽霊は彫像から出たり入ったりを繰り返している。
「この幽霊はな、呪いでこの彫像に魂を縛り付けられた哀れな人間だ」
「呪いですか・・・酷い事しますね」
「まぁな。しかしこいつにかけられた呪いはもっと悪意のあるものだ」
「B1Fという比較的アクセスしやすい場所に置かれたせいで、冒険者によく殺されるんだ」
「そして殺されてもすぐ復活する。そしてまた殺される」
「しかし、この場所から逃げることも許されていない」
「毎日毎日殺され続け、それがこの先もずっと続く」
「うわぁ・・・死ねないってほんと怖いですね」
「そうだな」
「そしてあまり殺されすぎると、心が壊れてこの幽霊みたいになるんだ」
「えっ!この幽霊って初めからこうじゃないんですか!?」
「俺も聞いた話でしかないけどな」
「銀さん曰く、昔は話も出来たそうだ」
「今でもたまに穏やかな日はある。言葉は忘れちまったみたいだがな」
「・・・」
この、彫像から出たり引っ込んだりしている自動人形みたいな幽霊にも、昔は自我があったなんて・・・衝撃的すぎて言葉が出ない。
「嫌な物を見せたな」
と言うと、山さんは幽霊に一礼しながら扉を閉めた。
「だが、お前には死に続けるとどうなるか知ってもらいたかったんだ」
「はい・・・覚えておきます・・・」
呆然とする俺。
ああは絶対に成りたくない。
でもたまに死ぬのは避けられないらしいし・・・
やばい、どうしていいか分からない。怖い。
「ま、お前はまだまだ大丈夫だから心配しすぎるなって」
と言って山さんは俺の頭をぐしゃぐしゃやった。
ぐしゃぐしゃやられながら、山さんの顔を見ると、
こちらの不安を和らげるかの様に、少し笑っていた。
「じゃ、見るもの見たし帰るか」
「はい・・・」
また山さんの後ろをついて帰る。
まだ不安が頭から離れない
道も早く覚えないとだしなぁ・・・
「あとな」
しばし沈黙が続いた後、山さんが話し始めた。
「俺がさっき死んで戻った時、やはり気分が重かったんだ」
「しかしお前があそこに居た事で、気持ちが切り替えられて楽になった」
「お前には感謝してる」
くそ、このオッサンコボルトは何を言ってるのか。
ちょっとこっ恥ずかしいくなるだろ。
うー。
にしても知れば知るほど、ウキウキするような未来は見えないなぁ。
職場環境が悪くない事だけが救いか。