管球交換をしました。
サキュバス館はB15Fにあるらしい。
先輩の山さんと2匹、エレベーターでダンジョンを下っていく。
エレベーターとはいっても、六畳間くらいの広さがある。
俺が知っているものよりだいぶ大きい。
そして、エレベーターに乗って気付いたのだが、
これまで居たのはB1Fだったようだ。
「ウチらの居たところは随分と浅いとろこだったんですね」
コボルトは雑魚とはいえ、地下1階のイメージはあまりない。
採掘などもする種族で、もう少し深いところのイメージ。
また、群れを成す魔物であり、初心者冒険者向きではない。
Lvデザイン的には、フィールド上の位置にもよるのだろうが・・・
「あそこは防災センターも兼ねてるからな」と山さん。
*防災センターは火報盤や非常用放送設備などがある管理施設。
*大抵は避難階(直接外に出られる階)に設置されてるよ!
コボルトとか関係なかった!
ただの施設運営上の理由だった!
どうやら、ダンジョンに対する考え方を改めたほうが良いようだ。
そうこうしている間にB15Fについた。
エレベータを降りると、また何も無いエレベーターホールに出た。
「誰も居ないですね」
「ダンジョンなんてそんなもんだ」
「それにここはまだ従業員用の通路だからな」
「ほら、あそこの壁。あの先が一般冒険者も来るエリアだ」
というと、山さんは示した壁に向かい、扉の小窓から向こうを確認。
わきにあるパネルを操作して壁を動かした。
壁は横にスライドするように動き、何も無い小部屋が現れた。
「お前も入れ。閉めるぞ」
山さんは小部屋に入るとそう言い、俺はそれに従った。
そして入ってきた壁が閉められ、完全な密室になった。
「完全に閉まったところでもう一方の壁をあける」
そう言うと、反対側の壁に近づき、
また小窓で確認してからパネルを操作して壁をあけた。
「いちいちめんどう臭い事をしていると思ったか?
しかし冒険者と鉢合わせすると、そっちのが面倒だからな」
「いや、なるほどと関心していたところです」
「それに、カギじゃないんですね」
「カギなんか持っていたら、冒険者に乱獲されるしすぐ開けられる」
「ここでは魔力のスペクトラムと暗証パターンによる認証方式をとってる」
「あーなるほど・・・魔力スペクトラムですか。
そういえば生体認証だと種族によっては使えないですもんね」
「それもある。しかし一番の理由は、
相手を切り刻もうと考えている相手に生体認証は無力だからだ」
「なるほど・・・」
指紋認証を解除するために腕を切り落とされたという海外ニュースを思い出した。
人間と魔物の間では、さらに上を行く無慈悲な関係だもんな・・・
やはり、とんでもない世界に来てしまったようだ。
壁の先は一本道の通路になっていた。
逆から来ると、何もない行き止まりになっているように見える。
また、壁の先の通路はこれまで通ってきた通路よりも明るく、広くなっていた。
灯りも油を使ったランプを模したカバーがついている。
先ほどの空間を知っていると、確かにお客様向けのエリアだと感じる。
「球の交換が必要なのはこの少し先だ」
と言うと、山さんはまた歩き始めた。
そのまま進み、幾つかの小部屋と交差点を超えた。
道が分からなくなって、もう一人では帰れそうに無い。
「それにしても、誰も居ませんねぇ」
「居たら大変だよ」
「そうなんですか?」
「お前・・・危機感足りないな」
「ここまで来れる冒険者なら俺らなんて瞬殺だよ瞬殺」
「えっ!?」
「冗談でもなんでもないぞ。気配を感じたら必死に逃げろ」
確かに・・・サキュバスって下級とはいえ悪魔だし、
そんなのが顕現しちゃっている領域って、
もう並の冒険者が来るところじゃないよね。
軽い気持ちで付いてきた事を後悔した。
それにしても・・・(スンスン)
石やカビの臭いに混じって、うっすらと
これまでと違った匂いがする気がする。(スンスン)
なんだろう・・・お風呂屋さんと、アロマっぽい何か・・・?
(スンスン)
「気付いたか」
「臭いに敏感なのはダンジョン管理上とても重要な適正だ」
「お前は見込みある」
「えへへどうも・・・」
「なんの臭いなんですかねコレ」
「コレはサキュバスさん達の術の一つだな」
「サキュバスさん達も直接の近接戦闘は得意ではないから、
様々な術を用いて精神支配しやすくしているらしい」
「何も対策していない冒険者は、出会う前に支配されてるな」
「えげつないっすね・・・」
「悪魔だからな(笑」
「あと、生きたままの人間ってのは
悪魔にとって使いでのある素材らしいんだよ」
「傷つけずに無力化するのは、そういった事情もあるらしい」
「人間を素材扱いですか・・・」
「そこはお互い様だよ」
「っと、着いたぞ」
等間隔につけられたランプの一つが消え、辺りが暗くなっている。
「下になってやるから、お前が交換してみろ」
そう言うと、山さんは俺を肩車して持ち上げた。
「えっ、俺がですか!」
「カバーを外して球を交換するだけだ。何も難しくない」
「へい・・・」
いきなり振ってくるなこの人・・・
えーと、カバーを外すには・・・なんだ持ち上げるだけか。
で、出てきた電球を外すと・・・
*JDハロゲン、E11
なんか出てきたが、細かい事は考えずに今は作業に集中しよう。
形は見慣れないが、普通の電球と同じくねじったら取れた。
「ほら、新しい球だ。古いのよこせ」
山さんから新しい電球をもらい、外した穴にねじ込んでいく。
「ハロゲンは熱くなるから、さっと付けてすぐ手をはなせ」
山さんの言葉を理解しきる前に、新しい電球が光りだした。
ギュッと止まるまでねじ込もうと、力を入れてねじった瞬間・・・
「あぢぃ!」
点いたと思ったら一瞬で触れないほど熱くなった。
「ハロゲンの表面は200℃を超える」
「素手で無理だと思ったら専用工具を用意しろ」
工具持ってこなかったのは山さんでしょうに・・・
一応、交換は終わったのでカバーを戻し、作業は終了した。
「ダンジョン管理はこの管球交換作業が一番多い」
「すぐに慣れる」「帰るぞ」
後ろを向き、帰りだそうとする山さん。
「あれ?サキュバス館には寄っていかないんですか?」
「お前はそれが目的で付いて来たのか」
「用も無くテナントを見に行くのは良いことではない」
「しかし・・・ダンジョン内を知っておくのは良いことだ」
「ついてこい」
そう言うと、別の方向に進み始めた。
やれやれ、やっとか。