同僚が居ました。
暗がりから這い出して同僚コボルトに近づくと、
彼はすぐこちらに気付いて顔を向けた。
反射的に会釈して挨拶する俺。
「コンニチハ」
数秒、彼は反応を示さず、
こちらを見つめたまま静止していたが、
状況を理解したようで、少しうなづいてから応えた。
「新しい奴だな」
俺は言葉が通じる事に少し安心して、嬉しそうに答えた。
「はい!」
「今しがた気がついて、記憶を確認していたところで・・・」
「あーあー言わんでもいい。大体分かってるから。」
彼はうざったそうに俺の言葉を遮った。
「何も言わずについて来い。」
そう言うとこちらに背を向け、灯りの脇の通路に入っていった。
言われた通り、先輩コボルトの後ろを付いていく俺。
その間も、次々に頭に疑問が浮かび、次々に解決していった。
(新しく転写されてくる奴ってよく居るのかな)
*ダンジョン主が管理する魔物においては珍しくはない。
*一から作ったり育てるより、
適正のあるものを転写する方が効率が良い。
(転写って事は、同じ人格の固体を幾つも作れるのかな)
*できる。量産型の魔物ではよくされる。
しかし、精神崩壊を避けるための配慮はされる。
(ほかにもダンジョンってあるのか)
*無数にあるし、新たに作られもする。
(俺って欠員が出たから補充されたのかな)
*その可能性もある。拡張による増強の可能性もある。
(このコボルトも転写者なのかな)
*その可能性はある。他の可能性もある。
(はっきりした解答がでてこないな)
*与えられる基礎情報は個々の事象まではカバーしていない。
(つかえねーな)
*転写の仕事をする側の立場で考えたら当たり前だろ。
そうこうしている内に、通路から20畳ほどの小部屋に出た。
先ほどのザ洞窟という空間とは違い、部屋全体が明るく、
床も壁も平らに整備されており、
明らかに人為的に作られた空間であった。
木や石、金属、骨など材質は様々であったが、
テーブルや椅子、棚などの家具もあり、床には敷物まである。
そこでは3匹のコボルトが机の周りで談笑していたが、
私達に気づくと1匹がニヤけながら先輩コボルトに話しかけた。
「山さん、そっちから来るって・・・またデスルーラっすかw」
「チッうるせーよ。そんな事よかこいつだ。新しいのらしい」
みんなの目がこちらに向いた。
「あ、ども、本日配属された新人です。
日本から来ました。よろしくお願いします。」
とりあえず無難な挨拶をかます俺。
「ニホンってのは分からないが転写者か。よろしくな」
「俺は長って呼ばれてる。そこのが山さん。
こっちのが銀さんと白さん」
「他にあと何匹か居るが、そこは追々」
「まぁ同じ仲間だ。気楽にやろう」
あっさり仲間として受け入れられたようだ。
チョロいな異世界。
長さんが話しを続ける中、山さんは戸棚から何かを取り出すと、
先ほど入ってきた通路とは別の出口から出て行こうとしている。
「あれ?山さんまたどこか行くの?」と長さん。
「サキュバス館に向かう通路の球が切れてたから交換してくる」
なんだよそのサキュバス館って!俺も行きたい!
「仕事を見てみたいので、ついていっていいですか」
と仕事に積極的な新人アッピルの俺。
「ん・・・そうだな。ついて来い」
という事で、サキュバス館の見学・・・ではなく
先輩のお仕事を見学する事に成功。