それはとても暖かく
16話です
深い深い森、あの後一目散に逃げて行ってしまった結果、こんなところに来てしまった。空を見上げると、大きな木が月の光を阻み、辺り一面は暗闇に包まれていた。
「早くここから出ないとな。」
俺を含めて全員が怪我をしている。いつまでもこんなところで迷子になってる暇はない。
「誰か!誰かいませんか!」
大声で叫ぶ。が、返ってくるのは木の隙間を通る風の音、もちろん人の声など聞こえてこない。
「ケケケ……」
森の奥から出てくるのは人ではなく木を模した魔物。倒すことは出来なくもないが、こっちにはけが人がいる。出来ることならば戦いは避けたいが。
「祐介、ここは俺がやってやるよ。」
そう言ったのはグリン。しかしグリンの腹からは血がしたっていた。幾ら何でもグリンにやらせる訳にはいかない。
「いいよ、休んでろ。俺がやる。」
俺はグリンをなだめると、深緑の剣を手にとる。
こいつらには無理はさせたくない。俺がやらないと。
ガサッ
すぐ横の草むらが揺れる。まずい、ここで二体を相手にするには流石にきつい。だが、やるしかない。
草むらから出てきたのは魔物ではなく、黄色い髪の少年だった。
「早くこっちに来て!その魔物は危険だ、早く逃げるよ!」
少年がそう言うと「ついてきて!」と言って走り出した。もしかしたら助かるかもしれない。
「グリン、沙月を抱えたまま走れるか?」
あの後沙月は気を失っていた。それをずっとグリンが抱えていた。
「なめんな、俺はそんなにやわじゃねぇ」
グリンは余裕、と言わんばかりに強気でそう言った。
本当はかなり苦しいはずなのに、あとで何かしてあげないとな。
「マーティは大丈夫か?」
マーティは元から走るのが苦手だ。それに加えて魔力が尽きかかっている。いまの状態では歩くだけでも辛いだろう。
「大丈夫だ、みんなの足手まといにはならん。」
マーティは疲れを見せずそう言った。
「行くぞ!」
俺たちは、少年の後を走ってついて行った。
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「だ、大丈夫?」
少年の後をついて行った先は、森の中にある小さな村だった。パルノン村よりも小さく人も恐らく数十人しかいないだろう。
「あぁ…なんとか。それより、ここは…?」
少年はこっち、と手招きをしついて行った先は小さな家だった。
「ここが、僕の家」
と言って、中に入る。
中は小さな灯りがあるだけだった。
「とりあえず、怪我をしてる人はそこの布団で休んでて。」
そう言って俺はマーティとグリン、沙月を寝かせる。
俺は少年に話を聞くことにした。
「僕の名前はフラム、森の見回りをしているときに君たちを見つけた時はびっくりしたよ。でもよかった、みんな無事で」
この前も同じようなことがあった、あの時と違うのは仲間がいるってことだ。
「君たちに何があったかは聞かないよ、ただ君たちはすごく疲れてるみたいだし、しばらくここで休んでいていいよ」
ろうそくの灯火がゆらゆらと揺れる。
「なあ、この村って」
あっ、といった顔でフラムは言った。
「ごめんごめん、ここはルーフス村だよ。村っていっても人は全然いないけどね。なにせ森の中にある村だから。」
「ふーん。」
助かったという安心感で、ひどい眠けが襲ってきた。
「すまないが、今日は」
「あぁごめんごめん気が利かなくて。君の布団も用意してあるから今日は泊まっていっていいよ。」
そういって布団の方に目を向ける。マーティたちはすでに眠っていた
「ありがとう」
そう言って俺は布団の中に入る。するとすぐに俺の意識は沈んでいった。
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「おはよう、目が覚めた?」
目を開けると、いい匂いがする。コトコトと何かを煮込んでいる音がした。
「何を煮込んでるんだ?」
フラムはへへっと笑い
「今日の朝イノシシを狩ってきたんだよ。いつもは鳥を狩ってるんだけど、今日は人がいるからね。頑張って狩ってきたよ。」
「すまない、何から何まで世話になってしまって」
俺は頭を下げる。
「いいよ、僕もイノシシ食べれるから。大丈夫大丈夫。」
フラムはそう言うと
「さぁ出来た!みんなの分用意するから、その間に起こしといて。」
いいやつだな、と俺は思った。
「すまない、いつかお礼は必ずする。」
「うめぇ!こんなに美味いものは久しぶりだ」
「うむ、流石とれたてといったところか」
「…………美味しい。」
沙月はまだ傷が塞がっていないが、グリンとマーティは、寝たことで体力が回復したようだ。
「はは!そんなに美味しそうに食べてくれると、僕まで嬉しくなるよ。よかった。作った甲斐があったよ」
本当に美味しい、この世界にきてこんなにら温かいものを初めて食べた気がする。俺たちは一心不乱に食べ続けた。
「ふう、腹がふくれた。」
「あっという間に食べちゃったね、びっくりしちゃった。」
フラムはそう言って笑う。
「何かお礼がしたいんだけど何か困ってることはないか?」
「うーん」フラムは指を口に当て考える
「ごめん、僕はそんなに困ってることはないんだ。んー……そうだね、じゃあ長老に聞いてみようよ」
「フラムがいいならそれでいいんだけど。」
正直、長老という響きはそんなに好きではない。前のようなことがあったら誰でもそうなる。
「じゃあ決まりだね、行こうか!」
「マーティ達は待っててくれ。ちょっと行ってくる」
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「ふむ、お礼がしたい……ですか。そうですね。フラム、確か明日が試練の日だったな。」
「え、……そうですけど。」
うむ、と長老は頷くと
「では祐介どの。フラムの試練の手助けをしてやってはくださらぬか。」
試練か、まぁ俺も強くなったことだし
「いいですよ、それで試練というのは?」
長老が頷く
「はい、この村では16歳になった男は村の外にある洞窟の中の村代々の紋章を持ってくるというものです。前までは何の危険もなかったのですが、最近は魔物が出始めてですね。大変危険になったので。」
「そういうことなら、全然いいですよ。」
「ちょっと待ってよ!僕の意思は!?」
フラムは困惑の表情で言った。試練というものだから一人で行くつもりだったらしい。
「魔物が出る以上仕方ないだろう。祐介どのについて行ってもらいなさい。」
「わかりました……いくよ!祐介」
「ちょっと待ちなさい。私は祐介殿と話すことがある。フラムは先に帰っていてくれ。」
「わかりました!」
フラムは声を荒げて長老の家から出て行った。
「すみませんな、フラムが。」
「いえ、それで話というのは?」
うむ、と長老は頷く
「実はフラムはいじめられっ子でして、その理由が中性的な顔立ちをしているという、くだらない事なのですが。それでフラムは一人で試練に合格して男だということを証明したかったのでしょう。」
なるほど。初めて見たときも中性的な顔をしていると思ってはいたが、まさかいじめられていたとは。どの世界にもいじめをやるくだらない奴がいるもんだ。
「それで話というのは極力フラムに魔物を倒させてやって欲しいのです。そうすることであの子は自信を持つことが出来ます。なんとかお願いできないでしょうか。」
なんだ、そんなことか、
「構わないですよ、なにせフラムは俺たちの命の恩人ですから」
ありがとう、と長老が言って俺はフラムの家に帰る。
「あ!大丈夫だった?」
フラムは心配そうに言う。なんでこんな優しい奴がいじめられるんだろう。俺はフラムのためにも明日の試練は頑張ろうとより一層思った。
「あぁ。大丈夫だ。明日の試練頑張ろうな!」
その後、明日の試練の打ち合わせをして、その日は終わった。
そして、試練当日
最近いつも眠いです
17話で会いましょう