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創世のクレシア  作者: 奏愛
第1章
7/17

〜物事の起こり始め、結果、そして転機…[青年の場合]〜



時は現在(いま)に戻る。



コマートシティを出てから、青年は一言も喋る事はなかった。

ただひたすらと笑みを浮かべ、ただひたすらに一人の軍兵と共に、ただひたすら黙って王都を目指して歩いているだけだった。

「…………」

マセラマ軍兵の一人である彼は、何故か居心地が悪かった。

青年が気味悪く思えたのだ。

それと同時に、妙な胸騒ぎもして気持ちが悪い。

ーー分からなかった。

その感覚が何であるのか、想像も付かない。

彼の頭の中にある疑問符が青年に対してなのか、それとも別のものに対してなのかは見当も付かなかったが、どうにもこうにも息苦しい。

一言も喋らない、というのも原因の一つなのだろうが、特に話す事も無ければ、話しながら連行しろという規則(ルール)も無い。

むしろ、話すという行為は自ら隙を作る原因にもなりかねない。

もしかしたら連行している相手は凶悪犯なのかもしれないのだ。

そんな相手と話をするなど、逆に危険である可能性が高い。

万が一にも和気あいあいとお喋りをしようものなら、自分の首の方が危うい。

ここは黙って王都まで連れて行くのが妥当だと彼は考えた。

そうだ。

少しの気の緩みも許されない。

連行中はいつも以上に気を引き締めなければ。


……とは言うものの。

「……………………」

チラリ、と横目で青年を見ると、はぁと彼は溜息を吐く。

青年は相も変わらず、ただひたすらに微笑(わら)っていた。

ここに来る間、ずーっとだ。

怖がる様子もなければ、暴れる様子もない。

文句の一つでも出るかと思っていたが、その予想はものの見事に裏切られた。

毅然とした態度でいられた方がまだマシだ。

(何をヘラヘラ笑っている……⁉︎)

釈然としなかった。

彼自身、気付いてはないだろうが、実は物凄くつまらなかったのだ。

何かもっとこう、張り合いがあってやりがいのある相手を連行したかったのに……などと、彼は何とも自分勝手な事を考えていた。

(俺はマセラマ軍兵だ。貴様を連行しているのだぞ?)

彼の妄想はその域に留まらず。

無意識の内に、苦み潰した顔になっている事さえ彼は気付いていない。

「ーー軍兵殿」

突如とした声に体をビクッ、と震わせる兵士。

青年と兵士、二人は揃って足を止めた。

ここに来て初めて青年が口を開いたのに対し、

「……な、な、何だ?」

こちらの方が立場的には上であるのにも関わらず、彼の声は震えていた。

語尾なんてうわずってしまった。

これではまるで立場が逆である。


「俺から一つ、軍兵殿に頼みたい事があるんだ」

「……へっ?」

「お願いですよ」

「お、お願い……?」

「そう、お願い♪」

ニコニコと笑うと、青年はあっけらかんと言い放った。

「出来たらこの場で、俺達を解放して欲しいんですけど♡」

「は……?」

「あのごろつきはもちろん除外して、俺と彼女の二人を、今すぐ解放してくれると非常に嬉しいんですよ」

「んなっ……⁉︎」

いきなりとんでもない事を口走る青年に、兵士は絶句する。

「なななななななな何を言って……っ⁉︎」

そして必要以上にうろたえる。

「俺としてもその方が助かるし、このままホイホイと連れて行かれるのは性に合わないし。何より俺の立場が……」

「だっ、駄目だ!」

青年の言葉を遮る。

マセラマ軍兵たる者、ここはしっかりと言い聞かせねば!と、彼は体の下の方でぐっと拳を握り、キッと青年を睨み付けた。

「そういった自分勝手な発言に伴う行動は、マセラマ軍兵であるこの俺が断固として許さんっ!!」

「え? 駄目なの?」

「当たり前だ! そんなの上が許すはずがーー」

「こんなに頼んでも駄目?」

「駄目と言ったら駄目だっ!!」

「何があっても?」

「駄目だっちゅーにっ!」

「だって俺は……」

「聞く耳持たぁーんっ!!」

きっぱりと言い放った兵士の言葉に、青年はしゅんとして、

「そっか。駄目か……」

カクンと肩を落として、青年の顔から僅かに笑みが消えたのを見ると、兵士は勝ち誇った表情になる。

(ふっ。所詮は小者よのぉ……)

兵士は心の中で高らかに笑っていた。

そんな彼を尻目に、青年は何やら懐の辺りをゴソゴソし始めていた。

何かを探してるようだが。

すると懐からある物を取り出し、兵士に見せ付けるかのように『それ』を差し出した。

「俺さぁ、こういうの持ってるんだよね」

「……あ?」

青年の言葉に心の中の高笑いを途中で止め、怪訝そうな顔で青年を見る兵士。

「これがあっても、俺のお願いは聞いてくれないわけ? ねぇ?」

「なっ……⁉︎ お、お、お前は……っ⁉︎」

『それ』を見た瞬間、彼の顔から一気に血の気が引いた。

そして焦点が合わないまま、ふらりとよろめいた。

その後の記憶はほとんどなかったーー



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