〜久しき友との和やかな時間[2]〜
王都。
全ての中心となる場所。
ここに大陸の名はない。
王都こそが大陸であり、1つの王国であるのだ。
大陸の名が付くのは、東西に位置する2つのみ。
東大陸ーールカナルカ大陸。
西大陸ーーラースナウナ大陸。
どちらからも王都までの道程はさほど距離はなく、1日もあれば東西の行き来も決して不可能ではない。
それ故、この王都を含めた東西をも統べる者はたった1人。
ラルス・ヴロダイン・グランデュア国王。
彼を頂点とする世界。
それで全て賄われていた。
それで全てが取り仕切られているはずだった。
彼の1人息子、第一王位継承者が行方不明となるまではーー
「……という事は、スティア様は魔法が使えるんですよねッ?」
「え、ええまぁ……そういう事になるわね」
漆黒の瞳をキラキラと輝かせながら身を乗り出し、ほんの数センチの距離まで近付くリリィに対して、
(な、何?なになに……この子は?)
思わずスティアはたじろぐ。
「凄いです!ソンケーですッ!」
1人テンションが上がるリリィ。
忘れているようだが、今は宵時。
普通の人なら既に夢の中にいる時間だ。
「あたしの周りに魔法使える人ってなかなかいなくて……だから凄い新鮮で!!!」
「そ、そう……」
もはや顔の引きつりさえ、眠気に勝っていた。
「でもリリィの占いだって、魔法みたいなもんだろ?」
と、ジェイドが言う。
「いえいえ!占いと魔法じゃあ根本的に違うんですよー」
「へぇ、そうなんだ」
「そうですよ!」
こほんと1つ咳払いをすると、リリィはおもむろに立ち上がった。
「簡単に説明すると、占いはその人の未来の出来事や運命を予知したり予言したりする、いわば潜在能力みたいなもので……魔法は自らの魔力や精神を以って、大地やモノに干渉したり精霊の力を借りたりする自発的能力ッ」
手を腰に当て、反対の手の指を立てて説明する姿は、彼女の幼さからは想像も出来ない。
「つまり!占いと魔法は、ぜーんぜん違うものなんですよぉ?」
「なるほどなぁ」
納得するジェイドの隣で、スティアは1人感心していた。
「詳しいのね」
珍しく素直に言葉にする。
あくまで理論上の話なのだが、知識としてそれらを知り、理解するにはそれ相応の時間と経験を要する。
見れば10代半ばに届くかどうかの少女が、その原理の相違を言葉で示しているのだ。
スティアも、彼女自身の能力の知識を全て網羅し理解している訳ではないが、ここは感嘆の息をもらしてもおかしくはない。
「そりゃそうですよぅ」
リリィが言う。
「みんな知ってて当たり前なんですから☆」
「え……」
「スティア様って変な事おっしゃるんですねー」
「あ……」
そうだった。
そう言えばつい数刻前にも、同じような事を説明されたのを思い出す。
と同時にスティアは眉間にしわを寄せた。
ーーならば、何故?
スティアの中に一つの疑問がよぎる。
彼は何故知らなかったのか。
「そう言えばそうよね……」
「俺もついド忘れ♪」
ちらりと目線を彼の方に向けるも、ニコニコと相変わらずの笑みを浮かべているだけ。
彼女に合わせてくれていたのか、はたまた素なのか。
「…………」
とにもかくにも、変に疑われずに済んだのだ。
(掴めない男……)
そう心の中で呟くと、彼女は小さくため息を吐いた。