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創世のクレシア  作者: 奏愛
第2章
12/17

〜術師という名の生業は誰しも[2]〜


スティアは絶句した。

まるで彼女の周りだけ、時が止まったかのようにも感じた。

世界の住人全て?

産まれた時から?

あらゆる仕組み?

刻まれている?

例外はいない?

ジェイドの言葉が頭の中で反芻する。

「…………」

言葉が出てこない。

彼の言葉に理解が追いついていないのだ。

(ーーあり得ないわ……)

愕然とした。

知識や記憶というものは本来、人が生きていく過程や、他の人間との関わりをもって初めて身に付いていくものである。

それもなく、この世に生を受けた時には既に、この世の全ての知識やあらゆる仕組みを知っていると?

産まれたばかりで、言葉もままならない赤子まで?

それも、ただの一人の例外もなく万人に共通しているなどと……

信じられなかった。

「信じられないのも無理はない」

ジェイドは静かに言う。

「だけど、これがこの世界全土に共通する律法なんだ」

「……そう」

それだけを声にするのが精一杯だった。

そのまま口を紡いだ。

(何だか……)

どうやら、この世界そのものが大きな謎に包まれているようだ。

(……とんでもないとこに来ちゃったみたいね)

心が締め付けられる思いだった。

何から考えていいのかも分からない。

考えなくてはならない事がたくさんありすぎて、頭の中を何かがグルグルと駆け回ってる感じだ。

自然と彼女の中に焦燥感が生まれてくる。

自分はここにいて大丈夫だろうか?

何も知らないことで、逆に危険なことにならないだろうか?


「それはそうと……」

ふと何かを思い出したかのように、ジェイドが口を開いた。

「君、これからどうするつもりなんだ?」

「どうするって言われても……」

彼の言葉に、嫌でも無理矢理現実に戻された気分がする。

スティアはとりあえずの言葉をつむぎ出した。

「元の世界に還るわよ」

そんな方法などないに等しいが、今はこれしか出る言葉が見つからなかったのだ。

「って事は、少なくともそれまではこの世界で生活していくわけだよな?」

「まぁ、事実そうなるわね」

まるで他人事のように彼女は言う。

「ならやっぱり先に、軍登録は済ませておいた方がいいな」

「軍登録って、さっき貴方が言っていた、国に職業を登録するとかってやつよね?」

「そう」

いつもの笑みを浮かべながら彼は頷く。

「この世界で生きていくなら、軍登録は今後必ず必要になってくる。なら今の内に軍登録を済ましても無駄じゃない」

「今の内にって……まさか今から?」

「こういうのは早めの方がいいからな」

「ちょっと待って。今からって、外はもう真っ暗じゃない」

彼女の言う通り、だいぶ話し込んでいたせいか、ここに来た時より明らかに外は暗くなっていた。

だが、

「大丈夫」

ジェイドはにっこり笑うと、続けて言った。

「王都は年中無休だから♪」




「ーーよって汝を魔術師と定める上で、当初の条例に基づき、今後国家からの出動要請が出た場合は速やかに……」

あふ。

ジェイドに言われた通り王都まで軍登録に来たのはいいものの、先程から『認定証』を読み上げるという名目で延々と長話しを聞かされている。

時間も時間なわけで、いい加減スティアもあくびを堪えるのを止めにした。


ここに来る前。

一度は牢獄に容れられた所に、まさかもう一度自ら足を運ぶのは……と少し躊躇していたスティアだったが、ジェイド曰く、

『無罪放免になった俺達はもう用済みだから、心配ご無用♪』

……らしいが、彼の言葉に思わず、

ーーそういう問題?

と、突っ込みを入れてしまったものだったが、確かにそんな心配などこれっぽっちも必要ではなかった。

軍登録に必要な検定も名ばかりのもの。

自ら希望した生業の素質があるかどうかを見極められ……それで終わり。

あまりにもあっけなさ過ぎて、少々意表を突かれた気分にもなったが、それ以前に、面倒な事があまり好きではない彼女にとっては好都合な事だった。

しかし……

(何でたかだか認定証を読み上げるのに、こんなに時間が掛かってるのよ……?)

何を言われているかなど、もはや覚えているわけでも耳に入ってきてるわけでもないが、さすがに飽きてきた。

検定よりこちらの方が、明らかに時間が長い!

心なしか、認定証を読み上げている神官(プリースト)も眠そうに見えるのは気のせいだろうか……

「ーー以上により、汝をここに魔術師と定め、認定する」

「はぁ、どうも……」

差し出された認定証という名の紙切れ一枚を、さも面倒臭そうに両手で受け取ると、一礼もままならぬ内にきびすを返した。

(……やっと終わった……)

あふ。

目尻にうっすらと溜まっている涙を指で拭うと、スティアはあくびを噛み締めながらさっさとその場を後にした。


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