1
やるせない感情で、滑りそうになったグリップを掴み直した。
一体、何がおこったのかと自分の周りを見回した。
あかいうみ。
あかぐろいうみ。
鈍く光る刀身を見、
先ほどまでと違うことを理解した。
あの訳のわからない少女―里沙―の声が、至極遠くにきこえる…
事の発端は少女が空から降ってきたところからだ。
最近、異常気象やら猟奇事件なんかが多発していた。
漠然と
「地球もそろそろ危ないかな」なんて考えてた。
そして、空から里沙が降ってきた時点で確信した。
あ、終わった。と。
まさか始まりだったとは…
里沙は自分の下にいたオレを確認し、言った。
「貴方は勇者への道を歩くのよ!」
そして日本刀を差し出した。
受け取らないと刺されそうな勢いが怖かった。
ごつん。
「聞いてるの、勇太?」
後頭部に受けた適度な痛みと、里沙の声でオレは現実へとつれもどされた。
「意外と冷静ね。」
「いやいや、パニクっててわけわかんないだけよ?」
血の池地獄に浮かぶ犬の化物の死体を見ながらオレは返す。
「もっとこう、叫んだりしながら倒すかと思ってたわ。」
里沙はそう言いながらオレの手から刀をもぎ取った。
「その暇もなく必死だったんだよ。」
そう言いながら、オレは里沙へと視線を移す。
「そんなものかしらね。」
里沙は刀の血を脱ぐっていた。
「まぁ、さすが木枯らし丸よね。あんな使い方でも刃こぼれしないなんて。」
「あんなで悪かったなぁ。」
里沙が鞘に戻す刀が鈍く光った。