愛する姉上様8
【デパート】
僕は、デパートに着くとサービスカウンターに急いだ。
「あ、星君。ちょっと買い過ぎちゃったわ」
「どれ?」
「こちらでございます。お持ちになれますか?大丈夫でしょうか?」
「ちょっとって…」
両手に持ちきれないほど有るぞ…なんとか持てたけど…
「星君のお洋服も買ったわよ」
って、満面の笑みだけど…
「あ、まだ買いたい物が有ったわ」
へ?もう無理…これ以上持つ手は無いよ…口にくわえないと持てませんからっ。
「それ、今日必要なの?」
「そうね~また今度にするわ」
「で?車じゃないの?」
「あら、そうだった、車で来てたんだわ」
これだよ…
「じゃあ、駐車場に運んで、また買い物?」
「今度で良いわよ。今日は帰りましょう」
「了解」
「あ、少しぐらい持てるのに~」
「良い。これぐらいなら僕が持つよ」
【車】
帰り道ブラームスの第3シンフォニーがかかってる。
車を運転しながら嬉しそうだけどね。
それにしても姉上の天然ぶりには…
まあ、この程度で驚いてたらね…ハハ…
これで車を運転するんだから…コワイ。
【陽の部屋】
〈ベッドにテディベアが有る〉
僕は、姉上の部屋まで荷物を運んだ。
「有り難う。はいこれ、星君の」
「僕の…こんなに沢山?」
「見てたら、みんな欲しくなっちゃったの~」
「有り難う」
って着替えようとしてるし…
僕は、慌てて部屋を出た。
いくら姉弟でも弟の前で着替えるなよな。
いつまでも子供だと思ってるんだからなあ…
【星の部屋】
〈ベッドにテディベア〉
袋から、出してみた…
夏物のスーツとジャケットに、ワイシャツとネクタイ…靴まで有るぞ…
よくサイズわかったな…今度のリサイタルに着て行くか。
うーん…スーツより、ジャケットだな。
【レッスン室】
〈ピアノを弾く陽。曲はショパンのアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ。静かに部屋に入る星〉
僕の一番好きな曲だ…
久しぶりに聞くな…
〈曲が終わる。余韻。振り返る陽。微笑んで〉
「好きでしょう?」
「うん。一番好き」
「留学してた時、星ちゃんに聞かせてたのよ~」
「???」
「テディベアの星ちゃん」
「あはは、熊さんに僕の名前つけてたのか」
「そうよ」
「良いなあ、いつも聞いてたんだ」
〈微笑む陽〉
いつも一緒に居られたんだね、あのテディ。
【星の部屋】
〈ベッドのテディベアを取る星〉
僕の名前をつけてピアノ聞かせてたって?
それで、お土産がこの子か…
そう言えば、小さい頃いつも一緒だった熊さんがボロボロになって、お寺に納めたんだった。
あの時は、随分泣いたっけな…
【陽の部屋】
〈テディベアを抱いて昔を思い出す陽〉
(小さい頃いつも熊さんを持っていたわね~)
【幼い頃、城咲家の庭】
〈花壇の花を見ている8才の陽〉
「お姉しゃま、どこ?お姉しゃまー」
「ここよ~」
〈熊さんの手を持って歩いて来る3才の星。熊さんを引きずっては、引っ張り上げて歩く〉
「お姉しゃま、お花見てたでしゅか?」
「お姉しゃま、じゃなくて、お姉ちゃまでしょ」
「お姉ちゃま」
「あらあら、熊さん引きずったら汚れちゃうわ」
〈サッサッと汚れを払う陽〉
【レッスン室】
「熊さんもピアノ聞くでしゅ」
「良いわよ」
〈微笑んでからピアノを弾き始める陽。曲は、ショパンの子犬のワルツ。熊さんを抱っこしてる星〉
「熊さんも、良い子にしてるんでしゅよ」
【現在、陽の部屋】
「フフフ…大きくなったわね~」
【キッチン】
〈日曜日の朝〉
何だか良い匂いがするぞ。
「星く〜ん。クロワッサンが焼けたわよ〜」
「美味しそうだね」
僕、クロワッサン好きなんだよな。
【リビング】
僕が猫達と遊んでいると、姉上が顔を出した。
「出かけて来るわね~」
僕は、アマデウスを抱いて玄関までついて行った。
「暑くなってきたから、髪を切ろうと思って」
「え?あんまり切らないでね」
「わからないわよ、バッサリ切るかも」
「えー、やめてよ」
ずっと長くしてたのに…あ、行っちゃった。
「皆んなでお留守番だな」
「ニャー」
【美容室】
「今日は、どういたしましょうか」
「そうね~」
「いつも通りでよろしいですか?」
「お任せします」
【城咲家のキッチン】
猫達にご飯をあげた。
ニコロは、自分のご飯を、適当に食べておいて、フレデリックのご飯を取って食べている。
「コラコラ、それはお兄ちゃんのだろ」
冷蔵庫の中を見ると、鳥と茄子が有る…
茄子のチーズ焼きと…鳥は、ハーブで焼くかな…
ローズマリーまだ有るかな?
【庭】
庭に出てみると、まだ少し有った。
ローズマリーは、気まぐれに花を咲かせたりするからね。
6月とは言えまだそれ程暑くないからな、今年は。
「ごめんね、少しだけちょうだいね」
気まぐれなローズマリーを入手 。
【キッチン】
後は、マカロニサラダと、野菜たっぷりのスープでも作るか。
鳥をハーブで焼いていると、足の周りに猫達。
しばらくすると、3人(3匹)で玄関に向かった。
帰って来たな。
玄関の方で声がする。
「ニャー、ニャー」
「ただいま~迎えに来てくれたのね~、良い子にしてた?」
「ニャー」
「星君も、良い子にしてた?」
「ニャ?」
猫達と一緒に、キッチンに来た。
「美味しそう~良い香りね~」
髪は、それ程切らなかったみたいだ。
ホッ…
「星君の好きなチーズケーキ買って来たの、後で食べましょう」
「うん」
「あなた達のお土産は、これよ~」
姉上がオモチャを出すと、皆んなそれぞれ思い思いの場所に持って行った。
アマデウスは、自分の身体より大きなオモチャを引きずって行く。
持ったままキャットタワーに登れなくで必死になっている姿が可愛い。
食事をしている時は静かにしていた猫達が、チーズケーキの匂いで、そばに来た。
「お前達は、ダメだぞ」
人間の食べ物は猫には味が濃いので、食べさせると長生きしないから、猫には猫用の物しか食べさせないようにしているんだ。
【レッスン室】
〈ピアノを弾く陽。曲はショパンのバラード第1番。ソファに座って聞く星〉
この時間が一番好きだ…
来月のリサイタル、何弾くんだろう?
あまり、そういう事は聞かないんだ。
聞かなくても自然とわかったり、姉上が話してくれたりするから、僕の方からは聞かない。
当日プログラムを見るまで知らない、なんて事も有るよ。
僕は音楽家じゃないし、姉上はプロだから、音楽の事には口を出したくないんだ。