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 それまでの順調な探索が嘘のように、線路を進むにつれてそれらは襲ってきた。エルヴンが駆逐したとは言っていたが、どっこい。案の定、である。

 もう本当に嘘つき。

 バシュッ、バシュッ。

 ああ、無残にも押し返される機械の群れよ。

 ジルは無言で合掌する。

 頭の上を鉄の塊が通過し、壁にめり込む。前方から突っ込んでくる魔導人形は、目の前で賽の目のように亀裂が入り吹っ飛んだ。今まさにジルの背中に、付き立てられようとする大剣も、肉に届く前に脇から突風が。恐ろしい圧力に耐えることもできず、ガキン! と真っ二つだ。

 死屍累々。左右に積みあがってゆく亡骸の山。その間をエルヴンと二人、ひたすら歩む。

「怠い」

 ちっと舌打したのも最初だけ、エルヴンは退屈そうに二の腕のストレッチを始める。

 何たる余裕か。周りなど、なんのその。寝違えて筋を痛めたという。

「ベンチなんかで寝るもんじゃないな。硬くていかん」

「それ絶対、私から寝床を奪った罰ですから。冷たい地べたに弟子を寝かせるなんて、どこの鬼の所業かと思いましたよ」

「寝袋は譲っただろう。いちいち細かいことを持ち出すな」

「……、ねぇ。今結構、私たち切羽詰まった状況じゃありません?」

「ああ、だから昨日の礼も含めて徹底的にやり返しているが?」

 ギロリ、と睨まれる。余裕をかましているなどと思ったが、前言撤回。ジルにそう見えないだけで、結構本気だった。

「俺の後ろを取った罪は重い」

「裂かれた服、お気に入りでしたもんね?」

「おまえ、今大人げないとか思っただろう。バラすぞコラ」

 振り返って眉を顰める。彼の横っ面を狙った槍玉は宙に舞いあがり、みるみる粉砕して胡散した。

 ジルは半眼だ。鉄壁すぎて、呆れるしかない。

 昨晩、怒りのまま拳を振り上げなくてよかった。一発だけ殴れればと思ったが、それすら出来ず挽き肉にされていたかもしれない。

 もう線路は終点。目的のアンプランル研究宮まで通じているかは正直、疑問におもっていたが、運よくアンプラル研究宮の前身たるルプラス研究宮へたどり着くことができた。

「いや、目的地と違うし」

 違う違うと手で、エルヴンに合図するも聞こうとしない。

「バッグ、貸せ」

「……はい」

 取り出されたのは、名札。赤い首紐のついたプレート部分にはカードが嵌っている。

 ホームの出口は、両開きの自動ドアになっていた。電気が流れていない為、傍に立っても開くことはないだろう。名札を手にしたエルヴンは、ドアの脇を目指した。

 あるのはカードをかざすポート。壁面に設置されていた。名札を押し当ててみる。

 ガコン。

「えぇぇー、」

 開いた。結構簡単に開いたのが、すっきりしない。

「行くぞ」

「いう傍から、置いていかないで! まだ事情呑み込めてません!」

 見向きもせずルプラス研究宮への門をくぐってしまったエルヴンを慌てて追いかける。

「ねぇ、エル、」

 言い募る前に舌打ちされて、ジルはムッと眉を寄せた。

 そうはいっても説明しておかなければ後々が面倒くさい、と踏んだのだろう。先ほどの名札をエルヴンがジルに示した。

 古すぎて字が読めないし、写真も掠れて男か女かも分からない。

 ジルは手に取って表裏を確かめた。外側には磁気テープもチップも見当たらない、只のプラスチックカードだった。

「内蔵式だ、フィルムが中に挟まれている。内部に仕込まれた暗号キーを、使用者自身の魔力で活性化させてポートに飛ばすんだ。ポートはとんできた魔力を同源として、起動スイッチが入る。その上で、暗号キーがポートに設定されたものと同一であるかチェックが入る。合えば、こうして開いて進むことができる」

「電気を必要としていないってことですか?」

「この認証機を含めて、研究宮の大部分がな。当時のルプラス研究宮は世界でも飛びぬけた最先端魔導施設だ。機密が漏れれば、国を揺るがす。であれば、魔導に携わる者以外が施設に侵入できないよう最適化しない理由はない」

「でも、メトロは電気じゃ、」

「メトロは管轄が違う。それに、あくまでメトロにとっては研究宮はホームの一つ。電車は誰が利用したっていいだろう」

「はぁ、」

そういうものかと、ジルは顎に手を添えた。

「しかし、三百年もしぶとくモグラが生き残ってるとは思わなかった。電線は魔導線に比べてもろい。当時の技師どもが想定した耐久年数なぞ、とっくに過ぎただろうに」

 言いながら、ジルの視線が後ろに向いているのにエルヴンは気付いた。

 三百年を生き繋ぎ、暴走した魔導人形たちはどうなのかと心配なのだろう。

「自立式は、体幹に魔力を溜めた核がある。それが切れるまでは稼働し続ける。本当ならば、ルプラス研究宮が破壊されてアンプランル研究宮をこさえるとき、研究宮内の不足する魔導装置の動力源にするために回収されていた。が、メトロを残していたことといい、当時想定するよりも魔力が余ったんだろうな」

「放置されたってことですか」

「もしかしたら、アンプランル研究宮の完成から数年まで、閉鎖されるまでは交通手段として意図的に機能を残していたのかもしれないが」

 エルヴンによって容赦なく破壊された鉄塊は、もう襲ってこない。ぎぎぎと呻くものもいたが、生きている個体も行動範囲に制限があるのだろう。ルプラス研究宮には入れない仕組みのようだ。

 彼らは元はこのメトロ、あるいはルプラス研究宮の入り口を守るガーディアンだったのたろうか。終点の遺跡に近づくにつれて、襲ってくる数が多くなっていった。プログラムした人間は当の昔に死に絶え、地上の誰も彼らの存在を知らない。

 忘れられた遺跡の中で、暴走してまで働き続ける人形たちを哀れにも思う。

 ジルは、立ち止った。カメラのシャッターを切る。旅行記に魔導人形の写真までは載せるつもりはないが、何らかの形で彼らの存在を示してやりたい、残してやりたい気持ちが強かった。

 ごうっという轟音が、振動とともに体に伝わる。びっくりして壁に手を付くジルの目を強烈な閃光が焼いた。

 入り口の向こう、人形たちの背後。金色の光を帯びた箱が、パアーっと眩く光を撒き散らし走る。長い箱の列が線路に転がる鉄塊を無残にも引きちぎっていく。幸か不幸か、光の刺激に目がやられて、ジルはその惨状まで確認することはできなかった。

「タイミングが良かったな。モグラだぞ」

「エルヴン卿! カメラっ」

 目元を抑えたまま、ジルは叫んだ。

「諦めろ。もう通り過ぎた」

 暴走電車はホームを素通りし、瞬く間に闇のかなたへと呑まれていく。

「勿体無い……」

 とはいえ、あれだけ強烈な光量だと使い捨てカメラではうまく写すのは無理だっただろう。

 思い直して、ジルは溜息をついた。

「線路の上で鉢合わせしなくて良かった、と思うことにします」

 負け惜しみではない。断じて。いかな破壊神エルヴンであろうと、あれには適わない。挽き肉エンドを回避できたただけでも御の字だ。

「おまえ、今けしからん事思わなかったか?」

「別に」

 曖昧に笑ってやる。

 エルヴンは、ちっと舌打をして先を歩いた。


 三百年前に破壊されたルプラス研究宮。

 なぜかその内部に自分たちはいる。白い疑似大理石上のタイルを歩きながら、腑に落ちない面持ちで、ジルは後に続いた。

 地下から地上階のエントランスまで、一気にエスカレータで上った先は、広いドーム状のホールだった。

 入り口というのに、動物の巨大な骨や天球儀、精霊のオブジェが飾られたさまはまるで博物館を思わせる。床は真っ白でピカピカに磨き上げられ、天球儀の周りは噴水になっていたが、プールされた水に淀みやごみが浮いている様子もない。

 綺麗すぎるので水ではなく酸の類かと思い、エルヴンが目を離した隙にコインを落としてみたのだが、反応なし。只の水だった。そしてエルヴンには、はたかれた。

「大人しくしてろ」

 服の首根っこを捕まれ、同じ目線まで持ち上げられる。

 いつもフードを被っているのに、それがない頭部は平凡の一言に尽きるのだが、浮かぶ表情はジルにしても到底、筆舌に尽くしがたかった。

「軽率な行動をとりましたです。はい。ジルは反省しています」

 棒読みで目を逸らすジルに、エルヴンはちっと舌打して放した。一人、無人の受付へと赴いていく。

 ジルはちょっとだけ反省したものの、無遠慮にあたりを見て回ってはうずうずと、手を出したりひっこめたり、好奇心の権化と化してまたうろつきだした。

 基本、触らなけれな怒られないだろう。

 受付のブースを何やら漁っているエルヴンを尻目に、客向けの案内板を見つけたジルは、お? と、見入った。

 簡単なフロアガイドがマップ付で記されていた。

 旧ミズガルズ王国の文字は分からないが、複数言語での記述のため幸運なことにジルにも読める部分がいくつかあった。

「ミズガルズ王国最大最新の魔法のテーマパーク、ルプラス研究宮へようこそ! って、」

 思いっきり、休日の家族連れとかいったキャッキャした観光客を当て込んだ文面。なんか緩い。

 凶悪な魔導人形のお出迎えを受けた手前、胡散臭いものをみる目つきでジルは、文章を追った。

 分かったことには、ここはやはりアンプラル研究宮遺跡ではなく、ルプラス研究宮遺跡だった。イメージから受け取る限り、どうも重厚な研究施設というよりは、いや勿論そういう側面もあっただろうが、オープンな学芸施設であったようだ。

 国民の暮らしに魔導がどう関わっているかのガイドや、最新の魔道研究でできるだろう未来像がオブジェ化された施設。すくなくとも、このエントランス一帯は、楽しげな博物館といった雰囲気で包まれていた模様。

 魔導とは軍事的利用が当たり前と、捉えていたジルは面食らった。三百年前の人のすることは分からないと思ったが、そもそも昔は魔術や魔導が一般的にありふれていたのだ。今とは違い、こういう日常生活に根差した魔導施設があるのも普通のことだったのだろう。

「そんな訳あるか」

 こちらの考えていることを読み取ったかのように言葉が飛んできて、ジルは顔を引きつらせた。

「絶対、テレパス能力ありますよね?! ないって言ったのに、エルヴン卿の嘘つきっ」

 振り返り叫ぶと、ああ? と不機嫌そうな声。

 薄紫色のローブ姿のエルヴンが、こちらも振り返ってジルを睨んだ。

 となりには、もう一人。エルヴン卿よりは大分背の低い、制服を着た女性だ。

 彼女の視線もまた、ジルに向いた。ふわりと微笑まれば、ジルは目を見開くしかない。

 ぱっつんストレートの前髪に腰まで流された薄茶の長髪。化粧気のある口元には薄紅が、頬の赤みはチークだとジルは思った。目も薄茶の淡い色味で、瞳がどういうわけかかなり大きく、エントランスは地上で窓もあり開放的で明るいのに、夜の動物を思わせるほど光彩が緩んでいた。

 何処から出てきた? 喉が乾く。体が固まって動けなかった。

 エルヴンが、ちっと舌打した。

「お前、何か言ったか? テレパス?」

 ジルは女性から目を離せないまま、ゆっくり首を横にふった。


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