ユートピア
これから向かう場所は賑やかで、とてもいいクニです。
ぼくのクニより平和で牧歌的でしょう。
ぼくはその雰囲気が大好きで、今日この日をとても楽しみにしていました。
「おはようございます。ぼくはエヌ国の視察官です。今日はたくさん勉強させてもらいます」
「ああ、おつかれさまです。私ども自慢のクニです。どうぞご堪能ください」
今日案内をしてくれるこの人はエフさん。
この平和で、賑やかなクニを誰よりも知っている人で、だからかとても穏やかな表情をしたいい人です。
「それでは案内いたしましょう。まずはこちらへ」
ぼくはクニに足を踏み入れた。
独特の匂いが鼻をくすぐる。
これでこそ、ここに来たというものだ。五感で実感する。
「騒がしくてすみません」
「いえいえ、賑やかなのはいいことです」
そしてぼくはエフさんに案内してもらう。
このクニは飢えることがないこと。
最新鋭の治療を常に受けることができて、病気の心配がないこと。
きちんと戸籍が登録されていて、それぞれの住居が用意されていること。
そしてこのクニでは男女の差別はなく平等に管理されていて、ストレスがまったく無くなるように注意がされていること。
「男女の差別をすべて無くすなんて珍しいクニですね」
「私たちから見ますと男も女も似たようなものですし、ならそこに差別が生まれる事もないんですよ」
「ははぁ」
感嘆してしまいます。
このクニを管理する立場のエフさんは、自分の職務に誇りを持って、向上心に満ち溢れているようでした。
なるほど。
このクニはまさに理想郷のようです。
ユートピア、というやつでしょう。羨ましいですね。
「エヌ国の視察官としての質問とかはありますか?」
「いえ、恥ずかしながら全部エフさんに言われてしまいました」
本当に恥ずかしいです。
「いやぁ、私もつい饒舌になってしまいまして」
「彼らを愛しているんですね」
「はい」
エフさんは暖かな目を住民たちに向けました。
しばらく雑談をしながら入り口の門に戻ると、ぼくたちはここで別れることになります。
「それではお疲れさまでした」
「はい、お疲れさまでした。アッ、そう言えばエフさんにはご家族はいらっしゃるんですか?」
「はい。嫁と息子が二人」
「あれ、ぼくと同じですね」
「ははは!これはご縁があるようで!」
「ええ、面白いものです。」
「公務員なのです。ご家族も安心ですね」
「いえ、いつも家に帰れば「家計が」「家族サービスが」とうるさいものです」
「エヌ国の公務員は給料が低くて休みもあまりない。有名ですからね」
「そうですね。....そう考えるとこのクニは幸せなものです。なにせ働かなくてもいいのですから」
働かなくてもご飯がもらえて遊ぶ自由もあって、しかも病気になったらタダで治してもらえるのですから。
「はは!たしかにそうですね」
そうしてぼくとエフさんはわかれました。
今回も楽しい視察でした。
王城に戻ると、ぼくは報告をします。
「今日も我が国唯一の養豚場は平和でした」
ありふれたアレです。
これ、ジャンルは何でしょうか。