ここはどこ?
目が覚めるとそこは、寺の本堂のようなところだった。
お坊さんのような老人がいた。
老人が口を開いた。
「よくきたのぉ。 今から君は神じゃ。」
-------------------------------------------------------------------------
「ちょっと待ってください。 状況が理解できないんですが・・・」
「そんなことはどうでもよい。 それよりこの服を着なさい。」
そういって白い袴を渡してきた。
「いや、その状況がわからなくて・・・ まず、ここどこですか?」
「人間道での汚れを落とすための場所じゃよ。」
「人間道って何ですか? 汚れって何ですか?」
「君は質問が多いのう。 そうやって他人に自分を見せつけたいと思う<自己顕示欲>をきれいに落としておかなきゃならんのう。」
「いや、他人に自分を見せつけたいとか思ってません。」
「まぁ、いい。 さっさとその服を着なさい。」
「いやいや、まだ僕の質問に答えていませんよね。 ここはどこですか?」
「人間道と神界の間じゃのう。」
「神界って何ですか?」
「質問には答えた。 もう一つ聞きたいのならその服を着てからにしろ。」
言われるがままに服を着た。
「じゃあ聞きますけど・・・」
「ちょっと待ちなさい。 質問は何個ありますか?」
「山ほどありすぎて数えられません。」
「それじゃ。 それこそが人間の汚らわしきもの<欲望>じゃ。」
「ああ、もう面倒だな。 じゃあ一つだけ頼みますよ。 バイトの説明をして下さい。」
「そうじゃのう。 じゃあ説明するからよーく聞いとけよ。」
~バイトの説明~
「この仕事は要は神様のお手伝いじゃ。
色々なところから集められた<願い>をその対象の善行や悪行に応じて振り分けていく。
そんな神聖なことをするので身を清めておかなくてはならん。
ここは君の人間道、すなわち人間時代の汚れを清める場所じゃ。
ここから給料は支払われる。
人間道の日本国の金でいう一万円を人間道の暦でいう一時間あたりに支払う。 食べ物と住む所も与えられる。
今君が来ている服は制服じゃ。
衣食住はあるというわけじゃな。
このバイトには昇格制度がある。
まぁ、ここで清めてからの話じゃがな。
最終的に正規雇用となる。
正規雇用、すなわち<神>になる。」
「すいません。 何点か突っ込んでいいですか?」
「無理じゃ。 さっさと汚れを清めるぞ。」
「あー、もういいよ。 好きにしろ。 給料が下がるとかどうこうあるけど食べていければそれでいいよ。」
「じゃあ、やるぞ。」
その後、冷水をぶっかけられたり、白いひらひらで頭を祓われたり、お経を読まされたりした。
「じゃあ、こちらに来なさい。」
酒樽が横に大量におかれた仏壇があった。
写真のはいていない写真ケースがあった。
「では始める。」
老人が合掌した。
「人間道より参りしものを案内する。」
仏壇におかれていた写真ケースに、老人が写真を入れた。
-俺の写真だった。
視界がぼやけた。
老人がお経を読んでいるが、その声が次第に遠くなっていく。
体が軽くなったような気がした。
それと同時に寒気もした。
目の前の景色が一変し、とある公園の風景が映った。
子供が両親と手をつないでいる。
その後ろ姿が見えた。
子供が歌を陽気に歌っている。
親が子供のほうを向き、微笑む。
また景色が一変した。
今度はとある高校の風景が映った。
看板にはたくさんの番号が書かれている。
その番号を見ながら万歳をするものや、泣き崩れるものもいた。
どうやら高校受験の合格発表のようだ。
視界の中央にはある男がいた。
彼は番号を見た。
自分の受験票と番号の書かれた看板を何度も見る。
その後、彼は泣き崩れた。
また景色が一変した。
今度は高校の廊下の風景が映った。
男子生徒がほかの生徒にいじめられている。
髪を掴まれ、腹部を何度も蹴られる。
男子生徒の机を廊下に持ち出し、窓から放り投げた。
「生意気な面しやがって。 お前の居場所なんかねぇよ。」
また景色が一変した。
今度はとある家の風景が映った。
おしゃれな服装をした女性と、泣き叫ぶ女性がいた。
彼女らの間には、うつむいている男性がいる。
どうやら喧嘩をしているようだ。
「何であなた、浮気したのよ!」
「う・・・うるさい。 もうこの家を出る。」
そう言って、男性とおしゃれな服装をした女性が家を飛び出していった。
また景色が一変した。
先ほどの家の風景が映った。
ちゃぶ台の上に置手紙があった。
[さようなら。 自分のことは自分でしなさい。]
また景色が一変した。
とある会社の風景が映った。
「今日限りでこの会社は倒産だ。 じゃあな。」
ぐるぐるぐるとこれらの風景が繰り返された。
突然白い光で視界を奪われた。
先ほどの風景が消えていく・・・
目が覚めるとそこは、雲の上だった。
白い袴を着て、木の杖を持ち、白いあごひげを蓄えた老人がいた。
老人が口を開いた。
「さぁ、人間道の呪縛から解放されたぞ。 頑張りなされよ。」
主人公はいったいどうなってしまったんでしょうね。