銭湯に行こう
わたしは小学四年生。この町唯一の銭湯の近所に、わたしの家がある。
毎日、わたしはおとうさんと一緒に銭湯に通う。
なぜなら、わたしのお家には、お風呂がないからだ。
どうしてお家にお風呂がないの?と、わたしはおとうさんに聞くと「お風呂は広いほうが良いだろう」という。
それにしても、毎日おとうさんと銭湯に通うのは、おとうさんは好きだけど、なんだか恥ずかしい。
わたしは小学四年生。わたしはおとうさんとお風呂に入りたいけど、おとうさんはもう、わたしと一緒にお風呂に入らないという。
「友達はおとうさんと入るって言ってた」
と、おとうさんに言うと「内は内、外は外」と言う。
だから、おとうさんは男湯で、わたしは女湯だ。
銭湯の暖簾をくぐると、そこからは、男湯と女湯の下駄箱に別れている。
下駄箱で別れるときのおとうさんは寂しそうに見える。
なんでだろう?
たまにおとうさんは石鹸を忘れる。
おとうさんの大きな声が聞こえる。
「お~い。石鹸投げてくれ」
男湯と女湯の洗い場との間には、高い壁がある。
わたしは、おとうさんの声のする場所に「えい」と投げる。
……
どうやら誰かの頭に当たったらしい。おとうさんが誰かに謝っている。
おとうさんごめんね。
たまにおとうさんはシャンプーを忘れる。 おとうさんの大きな声が聞こえる。
「お~い。シャンプー投げてくれ」
わたしは、おとうさんの声のする場所に「えい」と投げる。
……
どうやら堅気じゃない人の頭に当たったらしい。
おとうさんがんばれ。
たまにおとうさんは垢すりを忘れる。
おとうさんの大きな声が聞こえる。
「お~い。お前の垢すり投げてくれ」
おとうさんは好きだけど、それは嫌!
たまにおとうさんはひげ剃りを忘れる。
おとうさんの大きな声が聞こえる。
「お~い。ひげ剃り投げてくれ」
何故かわたしのお風呂セットにひげ剃りが入っている。
おとうさんの仕業だ。
わたしは、おとうさんの声のする場所に「えい」と投げる。
……
翌日、学校に行ったわたしは、
「ひげ」
というあだなになっていた。
「そろそろ上がるぞ~」
おとうさんの声が聞こえる。
わたしは着替えが遅い。だからおとうさんはその間マッサージチェアでくつろいでいる。
わたしがもっと小さかったとき、おとうさんと男湯に入ったときに見た。
何故か女湯にはない。
男湯ってなんかずるい。
そんな昔の事を、わたしは思い出していた。
そのとき、
「いっしゃいませ。お二人ですか?」
「はい。大人と子供一人ずつ」
今のわたしは銭湯の番台に座っている。
おわり