ジャラララ!!
「さて、成宮くん。君がここに来ているということは珍しくやる気になった。
条件を飲んで勝負することを決意したということで間違いはないかね?」
剣崎に問われて、成宮は興味無さそうに窓の外を眺めた。
――好きに受け取るがいいさ
俺は挑まれた勝負からは逃げない
だが、決して自分からは挑まない
そのスタンスだ
これまで一度だって曲げたことはない
剣崎というのは、悪い奴だ。悪の親玉と考えてください。
成宮が主人公。カッコイイ青年。20前後。なんせカッコイイ。
「まあ、事前に知らせが行っていると思うが……、なにせどでかい勝負だ。
改めて説明をさせてもらう。
また、その内容は記録させてもらう。
あとで聞いていないなんていわれても困るからな。
おいっ!」
と、剣崎に言われて黒服が二人の間に割って入る。
黒服というのはモブキャラだ。個性なんて要らない。
剣崎の手下A~Jくらいが全員黒服だ。
その黒服が説明を始めた。
「今回特殊ルールとしては、
一週間の相談期間、
一週間の準備期間が設けられたことです。
相談期間中は、一切投稿サイトでの活動が出来ません。
準備期間中はその制限は外れます。どのような活動でもお好きに。
ただし……、勝敗を決するのは、あくまで準備期間終了後からの1ヶ月間、つまりは本戦期間です」
と黒服は淡々と成宮に説明する。
成宮は煙草をふかしながら、退屈そうにそれを聞く。
「今回の勝負は月刊ランキングブリッジです」
黒服が続けた。
事前に聞いていた情報だ。
ここで、この勝負についてルールを説明する必要があるだろう。
麻雀に詳しいものは、雀頭が一組、面子が二組の計八牌によるドンジャラだと思ってくれたらいい。
牌の変わりに使われるのは小説投稿サイトに投稿された作品。
準備期間から勝負終了までの一ヶ月と1週間の間に連載が開始された連載作品、あるいはその期間に登録された短編小説が牌になる。
刻子と順子。
刻子とは本来、同じ種類の同じ数字が三枚集まったもの。
333や四四四というものと考えてくれ。
このルールでは、同一ジャンルの月刊ランキングに入った作品が刻子として扱われる。
推理の98位、推理の14位、推理の3位が集まれば刻子となる。
順子というのは、本来は123や三四五のようにみっつの同じ種類の数字が連続して並んだもの。
今回のルールではジャンルに関わらないシリーズ作。投稿サイトにあるシリーズ管理機能によって纏められた作品。
順子を為すには、その順番が連続している必要がある。
例えば5作あるシリーズで、月刊ランキングに入ったのが2作目、3作目、4作目だったとするとそれは2、3、4と連続しているので順子になる。
だが、1作目、3作目、4作目だと1と3が連続しているので順子とは認められない。
それと雀頭というのは、二作で完成する刻子のようなもの。
同一ジャンルでの月刊ランキング作が2作あれば雀頭となる。
ちなみに面子とは刻子か順子として三つ揃った状態の牌(作品のこと)。
頭がひとつと2面子の八枚が揃えば手役が付く。
そうならなければブタ。つまりは役なしで負けが必死だ。
今回の勝負の縛りは厳しい。
既に登録されている作品は、勝負の対象外だ。
そして、今まで活動していた作家名を出すことは禁じられている。
全員が新人作家という立場で勝負しなければならないのだ。
何を賭けているのか?
負けたほうに属する作家は今後この小説投稿サイトでの活動ができなくなる。
相手の軍門に下れば別であるが、その場合、今までのジャンルを捨てることになる。
そういう過酷な勝負だった。
今回の悪玉である剣崎は異世界トリップ、異世界転生、VRMMOもの作家を従えている。
成宮は、それ以外の作品。ハイファンタジーやVRMMO以外のゲームトリップもの。その他もろもろ。
勝負の一ヶ月の序盤でひとつの山を持ってきて読者を獲得する。
手馴れたものだった。
テンプレともいうべきストーリがあるのでプロットを作るのにもさして時間はかからない。
オリジナリティというものは、それぞれ持っている。
剣崎は安心して、作家たちの作業を見守っていた。こいつらの力があれば勝てる。
準備期間として設けられた一週間。
剣崎陣営ですべきことは、たったひとつといっても過言ではない。
なにしろ剣先陣営のほとんどは、累計作家だ。
であれば、ストック。書き溜め。それに尽きる。
あとはタイミングを見計らう。
月刊ランキングぐらいやすやすと入って来るだろう。
しかも、ファンタジーとSF(VRMMO)に強い。
雀頭も、ふたつの面子もファンタジーとSFから引っ張り出せばいい。
一方である。
異世界トリップ/転生、VRMMOを封じられた成宮陣営では、作家達への講習会が行われていた。
数少ない異端の累計ランカー。モデルを出したら怒られるし、作品読んでないからあれなんですけど謙虚さが凄い人とかが講師を努める。
この投稿サイトでの王道をいかに外して読者をひきつけるか。
そういったことが、享受された。
成宮陣営にはマイナーな作家が多い。だがそれは作家としての力量が劣っているということではないのだ。
ジャンル負けというのがその本質。
SF作品書いても受けない。本格ミステリーを書いても受けない。
その中で、恋愛や戦記などで評価を得ている作者は少なからず居る。
そこからノウハウを引き出す。
あとはジャンル会議。
ファンタジーや恋愛は確かに強いジャンルだ。SFもVRMMOが勢力を誇っている。
どのようなジャンルで月刊ランクインの作品を出して刻子と雀頭を作るか。
それが問題だ。
勝負開始、つまり月刊ランキング集計期間の一週間前。
剣崎の陣営は徐々に新作を投稿しはじめた。
その作品達はスロースターターなものが目立つ。
一週間かけてじわじわと読者やポイントを伸ばし、それからポイント爆発を狙っているのだろう。
ホットスタートを得意とする作家達は、逆に投稿を控えた。
何故なら、数話の投稿でお気に入りが沢山増えてしまい、集計期間外でのポイントが勿体ないからだった。
遂に訪れた、集計期間の初日。
一斉攻勢をかけるかと思われた剣崎陣営だったが、初日に登録された作品はたった数作。
しかし、それらはホットスタート、序盤の勢いが素晴らしい作品ばかり。
瞬く間に話題になりポイントを掻っ攫っていく。
更新タイミングも秀逸だった。
初日に時間をずらして数話を投稿する。
異世界やハーレム、主人公最強に釣られた読者達が一斉にお気に入りに登録しだす。
評価ポイントを入れる。
またたくまに日間ランキングを駆け上がった。
さらに攻勢は続く。二日目も、三日目も、数作ずつ新連載が始まる。ハズレの無いテンプレ展開。
それでいてどこか独自の魅力オリジナリティを持っている。
小説投稿サイトへ働きかけて、元々のアカウントとは異なるアカウントを手にいれ作者名を変えているが、自然とあの作品を超えた、あれに似ているけど、上を行っているとすざまじい評判を生む。
日間上位ランキングに載り、さらにポイントを得る。正の方向の循環。
雪だるま式にポイントを増やしていく。
二週間が経ったころ、早くも累計入りする作品も出初めてた。
ファンタジーだけでも10作品ほどが月刊ランク入賞間違いなしという位置につけていた。
これだけ揃えば、役としては十分である。
成宮のほうはというと、その手の内を明らかにしない。
成宮陣営は息を潜めている。
残り一週間。
「どや! 残りの期間でうちを逆転するのは無理でおまっしゃろ!?
どうや、成宮はん、あきらめてうちの軍門にくだりなはれ。
文才のある作家はようさんおるんや。
そいつらにテンプレ書かせるんや!
それで、どないでっか?
複数作品の書籍かも夢やないでぇ」
下品に笑う剣崎。だが、成宮の瞳の輝きは消えていなかった。
「そろそろだ……」
と不気味に呟く。
「な、なにがそろそろなんや? 降参か?」
剣崎が問うが、成宮は黙ったまま。
しばらくして成宮は、
「時は満ちた」
それだけ言い残して去っていった。
黒服の一人が突然叫んだ。
「剣崎様! 日間上位に異変が!!」
「なんや!」
「成宮陣営の作品が続々とランクインしております」
「ジャンルは?! その他か? それともエッセイか?」
「いえ、、、恋愛です!」
「恋愛やと!? どういうことだ!
確かに恋愛は強いが……、読者層はそれほど広くないんやろうが!」
「いえ、恋愛なんですが、トリップ要素を入れたり、ファンタジーを絡めたり」
「そんなもん、規約違反で通報や、恋愛ジャンルにするためには、恋愛要素が90%以上ないとあかん。
ジャンルを変えさせろ!」
「いえ、解析班の調べではどれも90%を超えてきています」
集計の日。
「勝負あったな。こちらの手役(手役)は……。
月刊ランクに入賞した恋愛作品計10作。どれも上位だ。
それを組み合わせた恋愛一色だ。
ファンタジー一色で組み合わせたファンイツよりも達成困難だといわれている。
俺たちの勝ちだ」
「成宮、おのれ~! どんなイカサマを使いやがった!?」
激高する剣崎に対して成宮は涼しい顔をして言う。
「なに、2ちぁんねるに書き込み続けただけさ。それがまとめブログの『スコップまとめ』に掲載され読者を呼び込んだ。
あとは、別の投稿サイトで二次創作を投稿しておいて、そこから読者を引き込んだがね……」
「なんやと! 別サイトからの引き込み、それに自演工作! ルール違反やないか!」
「どちらもこの小説投稿サイト外でのことだ。
そちらも『呟いたったー』で更新報告とかしてただろう?
それと同じこと。規約には反していない(作者注:ほんとかどうか知りませんし、2ちぁんねるでの自演工作は見苦しいですし、作者としては決してやってはならないことですよ。別サイトからファンをつれてくるのはどうなんでしょうね。知りません)」
「くそが!」
剣崎は吐きすてた。だが、勝負に負けたのは事実。
剣崎陣営の作家達――テンプレの異世界転生や、チート、VRMMOの担い手達――はサイトを去った。
あるものは成宮陣営にくだり、現代異能バトルなんかを書いたりした。
勝負を期にランキングは一変した。それまで、日の目を浴びることが無かった作品がランキング上位を占めるようになった。
だけど、読者達はそんな小説を求めていなかった。
じきにアクセス数もユーザ数も減っいった。
その小説投稿サイトはオワコンという烙印を押された。
新しく出来た『テンプレ作家になろう』というサイトにユーザを奪われて、閉鎖に追い込まれましたとさ。
※この作品はふぃっくしょんであり、実在の小説投稿サイトやユーザ、作品、テンプレや異世界転生などには一切かかわりございません。