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しるし(詩集)

夏みかん

作者: ごり

母が居る病室に行く


サイドテーブルに乗ったおかかのおにぎりと夏みかん



半分以上食べてあった



「わぁー珍しい、食欲あるじゃん」



母は言った



「パパがね、初めて私の欲しいものを持ってきてくれたの」


「ふーん」



「美味しくていっぱい食べちゃった」



私は父が嫌いだった


調子よくて都合が悪いとすぐ逃げて



面倒くさいことは全て母に押し付けて



騙されて巨額の負債を背負った時も



アイツは消えた



私と妹は祖父母のところに避難したけれど



母は1人で家に残り闘った

債権者だかヤクザだか脅されても怯まなかった



夕方になり看護士が言った

「食べかけのおにぎり傷んじゃうから捨てて貰っても良いですか?」



母は一瞬寂しそうな顔をして頷いた




「夏みかんは明日食べるから」


母はそう言ったけれど



明日食べることはなかった



翌日母は亡くなった



父が呟いた

「俺が死ねばよかった、俺が苦労ばかりかけたせいで…俺が俺が死ねばよかったんだ」


私は冷めた目で父を見ていた


まただよ また調子よくセリフを吐いてる

お前はうわべだけなんだよ

いつも いつも いつも





でも 父を見て私は気付いていた

たぶんずいぶん前から気付いていた



まんまなんだ

私は父と同じ


嫌な事からすぐ逃げて 楽な道に走って きれいな言葉で仮面を被り 実は冷たい女



父と同じなんだ




だから私はあなたが嫌い

私は私が嫌い




脱け殻のような母が居たベッド

サイドテーブルに夏みかんが半分残っている




食べようかな


酸っぱいと涙が流せるかな




私は母が逝ってからまだ泣いていない






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― 新着の感想 ―
[良い点] 思いがそのままかかれていてとてもいいと思います。 [一言] あなたの作品は、素晴らしいと思います。
[一言] 自分の言葉で正直な気持ちを詩に書いているので心打たれます。本当に悲しいと涙は目のなかで止まっているのかもしれません。後からきっとこぼれ落ちるかも知れません。 母への愛と父への反抗心。いつかは…
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