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ラッキーキャットウォーク  作者: もんかる
第一話【トラジという名前の猫】(シズネ編)
4/17

④生き物を乗せて生きる生き物

※トラジは猫のため人間の言葉がわかりません。トラジのわかる言葉を「」で表現し、通じない言葉を『』で表現しています。

 なんだかんだで半日くらい歩いたり休んだり休んだりしてるけど、街ってココのこと?

 なんか、人がすげぇいっぱいいる所にたどり着いた。

 いまだに東がどっちかわかってないし、相変わらず晴れてるのに突然雨が降ったりしてきたけど、なんか着いた。

 石やレンガ、木造の建造物が多く並び、石畳のガタガタな道はめちゃくちゃ歩きづらい。雑草や小石まみれの森よりは歩きやすいけど……。

 すごい賑やかで、歩いていく人々は誰も俺なんか見ないでどっかに歩いて行ってしまう。

 つーか蹴られそうになって危ない。


「へぐっ!」


 思ったそばから蹴られましたけど!


『あ? 今なんか蹴ったか?』

『蹴るなら私のお尻を貸しますよ隊長』


 見ると、オレンジ色の髪をしていて身長が低く柄の悪い青年と茶髪のボブヘアーで隣の青年より少し背が高い女性が、こちらを見つつ二人でやりとりしている。


『んっだよ、猫かよ』

『ヴァトラ隊長! このねこちゃんすっごいかわいいんですけど!』

『いや、不気味だろうが。俺様でさえ全然魔力を感じないぞ』

『不思議なねこちゃんですねぇ』


 青年は俺を見下ろし、女性は腰を降ろして俺に手を伸ばしてきた。

 とりあえず、わかることがある。

 青年は俺を絶対にバカにしてて、女性はかわいがってくれる様子だ。


『バーカ、さわったらなんかの菌が移るぞ』

『えー、でもかわいいのにー』

『ウチのブサ猫の方がまだマシだ』

『あの子はあの子でかわいいですけどー』

『エルド、もういいだろうが。置いていくぞ』

『放置プレイもいいですよねぇ』

『クソボケがっ!』


 もうなに話してるのかマジでさっぱりわからないし。

 なんか青年は顔つき目つき態度が超怖いし、一方の女性は笑ってるのになんでか気持ち悪いから逃げようっと。

 このまま絡まれてたらイタズラされそうで怖いし……。

 二人の視線が違う方を向いている隙にそそくさとその場を離れた。

 街って怖いなぁ。


「あんた、どっから来たんだい?」


 どこからか猫の声がした。今度はなんなんだよ。

 上の方……かな?

 見上げると、建物の二階の開いた窓から見下ろすふさふさなデブ猫が一匹。


「あのー、どっから……だろうね?」


 答えてあげたい気持ちはやまやまなんだけど、どこから来たのか俺も知りたいからね。


「あんたおもしろいねぇ。魔力感じないし。ちょっとお話しようじゃないの」


 デブ猫は窓から軽やかなステップで下まで降りてきて、俺を手招いた。

 お前そんな動きできるのか……!?


「道の真ん中は危ないから、こっち来なさい」


 連れてこられたのは薄暗い路地裏。

 なんかカツアゲとかされそう。


「さって、退屈なあたしのヒマ潰し相手になってちょーだいな」


 デブ猫は雌猫で、白くてふさふさな毛並みはちゃんと手入れされている高貴な感じだった。


「三回まわってワンって鳴けば許してくれる?」

「いや、イジメしようとかそういうんじゃないから」

「飛んでも小銭の音しないよ?」

「カツアゲでもないよ!」

「じゃあなに」

「あんたこの街の猫じゃないんだろ? 色々教えてあげるっていう親切さね」


 確かにそれは親切だ。すっげぇ胡散臭いけど親切だ。


「この街はライアンフットっていうんだよ。規模的には中の上くらいかね」


 中の上ってどんくらいよ。むしろ大の大ってどんくらいすごいわけ?


「そんでもって、ここの街を支配しているのが街の名前にも付いているライアンって男さ」

 うん、街の情報はなんとなくわかった、気がする。

「それで?」

「あんたからは魔力が感じられないけど、この街に入る時に異変は感じなかったかい?」

「うーん、お腹すいたくらいかな」

「突発的なものじゃないよそれ!」


 このデブ猫、結構ツッコミが鋭いな。デブなのに。


「この街の外層は、下級の魔物は触れるだけで御陀仏級の強い結界が張られてるのさ」

「結界?」

「まぁ、目で見えるものじゃないからね。人間と特殊な刻印を付けた一部の生き物以外はこの街に入れないってことさね。あとはあまりにも力のある魔物か……かねぇ」

「そうか、じゃあ俺はあまりに力のある猫だったのか」

「あんたどんだけポジティブなんだい? 結界はその生き物の魔力に反応するから、あんたは反応すらしなかったってことだろうね」

「つまり、力のある猫ってことだね」

「脳天お花畑か」


 なかなかひどいこと言うなこのデブ猫。そんなチョウチョ見たくらいではしゃいで追いかけまわしたりなんかしないよ、タブン。


「魔力っていうのは魔法を使うためのエネルギーだよ。世の中には魔法を使えない生き物なんていないわけで、つまり魔力がない生き物はいないってことだね」


 それはシズネもそんなこと言ってたよね。


「んで、まぁ、魔力を隠すことも当然できるんだけど……あんたのソレは隠すとかそういうの以前な感じなんだよね」

「ほうほう」

「魔法っていうのはあんた、わかるかい?」

「あのー、バビューンってやつだろ?」

「……まぁ、そういうのもあるんだろうけどね。魔法っていうのは、五大元素と光と闇の属性のどれかを持つ想像の具現化のことさね」

「あの、ちゃんとした言葉で話してもらえる?」

「ちゃんとした言葉だよ! あんた、なんかそういう普通ではありえないような現象に遭遇したことないのかい?」

「んー、アー」


 あの狼っぽいのがやってきた俺を捕まえようとした地面変動のやつとか?


「地面がなんかぐにゃっとしたやつ」

「わかりにくいけど、きっとそれは土の属性の魔法だろうね」


 地面だもんね。土だよねそりゃ。


「五大元素は火、風、土、雷、水からなってそれぞれに相性がある。今言った順に円を描くと右の属性に相性が良くて、左の属性に相性が悪い。光と闇は五大元素のどれにも相性が良いけど、光と闇同士はお互いに相性が悪い」


 言いづらいから言わないけど、この話の80%くらい理解できてないよ俺。理解できてないとこに関してはすっごい自信あるもん。


「生物にはそれぞれ得意な属性っていうのがあってね、例えばあたしは火の属性が得意なわけ」

「ひぇ~」

「焼くよ」

「すんません」

「魔法の発動条件は体内での魔力コントロールからの具現化が基本だけど、その他に魔法陣や呪文といったものがある。もっと違った方法もあったりするけど」


 コントロールとか言われてもさっぱりだわ。


「もうほとんど理解してないんだろうけど、最後にもうひとつ言うよ」

「はい……」

「人間以外の生物には得意な属性の他に、ひとつだけ特殊な能力が生まれた時から備わってるのが稀にいるのさ」

「特殊な?」

「例えば、物体を硬くする能力だったり、自分自身を透過させる能力、対象の心の声を聞くとか様々なものがあるそうだよ」


 しかも人間だけはそれがないのか……。


「デブ猫のは?」


 やべっ、つい口に出しちゃった。


「は? 焼かれたいのかいあんた。あたしのは内緒だよ。軽々と公言するようなことじゃないのよコレは」


 どうせ特殊能力なんてないんでしょ。だからごまかしてるんだよ絶対。

 まぁ、でももしあるとしたら――


「ご飯を食べると食べただけ太る能力とか?」

「太りやすい体質なだけでしょ! っていうかあんた、あたしはデブ猫じゃなくてブリエスっていう名前があるんだからね」

「デブリエス……?」


 ボウッ!

 あちっ!!

 いきなり足元が燃えた。

 つーか燃やされた……!?


「あんたの名前は?」

「と、トラジです、ブリエスさん……」

「せいぜい気を付けることさね。この街はあんたが思ってるよりずっと危険だよ」

「危険?」

「魔力のない猫ってのは希少だろうからね。この街の支配者には気を付けることさね」

「アイアン……」

「ライアンだよ!」

「わかった……と思う」

「それにしても、ここまで話してきて思ったんだけどね」

「なに?」


 突然ブリエスの表情が険しくなった。


「トラジ、あんた……この世界の生き物かい?」


 この世界……?


「……わかんないし、覚えてない」

「記憶喪失ってことかい、おもしろいね」

「おもしろくねーし」


 他人事だと思いやがって。


「いいかい、よーく聞きな」

「ん?」

「今あんたがいる世界は、とある生き物の上になっている」

「へ?」

「そして、それとは別に発展した世界がこの星にはあるんだよ」

「どゆ意味?」

「島くじらって知ってるかい? ……って記憶喪失なんだったね」

「うん、もちろん知りません」

「この星には島くじらという【生き物を乗せて生きる生き物】がいるのさ」


 い、生き……なんだって?


「あのさ、ちゃんとした言葉で喋ってくれる?」

「そうさね、この話はこの世界でも知らない人の方が多いんだがね。島くじらの亜種に空くじらという生き物がいるのさ。本来くじらは海に生息する生き物だが、空くじらは空を泳ぐ。そのため、地上の世界とは相容れない」

「つまり、ここの人たちの他に地上に人がいて、別の世界があるってこと?」

「そういうことさね。ま、【世界】と言ってるのはあたしたちの中の定義だから、下の連中があたしたちの世界をなんて言ってるかは知らないよ。だから、あたしたちが当然のように使っている魔法があるのかもわからないし、どんな魔物がいるのかもわからない。だからね、あんたはもしかして地上の世界の生き物だったんじゃないかって思うわけさね」

「どうなんだろう……」


 まるで見当もつかないし、あんま理解できないし。

 だって、地上の世界云々の前に、今いる場所が湖とか山とか森とかあるのに生き物の上だってことが一番信じられないもん。


「あんたはとても興味深いね。この先、あんたの記憶が戻ることを祈ってるよ」

「あ、どうも」


 返事の後、ブリエスは思い出したように空を見上げた。


「あぁ、それと空くじらは潮を吹く。天気が良いのに雨が降るのはそれが理由だよ」


 なるほど、それでお天気雨が多いのか。


「じゃあヒマ潰しの相手しくれてありがとね。話はここまでさね。あんたの名前、覚えておくよトラジ」


 結局ほとんど一方的に話されただけだけど、また一方的にどっか行っちゃった。

 なんだかんだ色々教えてくれて親切な猫だったなぁ。

 猫に悪い奴はいないってよく言うけど、ほんとだなぁ。

 さって、とりあえず腹ごしらえしないと死んでしまう。

 周りを見渡して、ご飯の匂いをたどる。

 なんかでっかい屋敷の方からイイ匂いが!

 匂いに釣られるままに屋敷の塀に上った。

 塀の向こう側は広大な庭になっていて、バカでかい建物がどどーんと立っている。


『ほう、珍しい猫だな』


 お、なんか三階らへんの窓の中から人の声がする。ご飯くれないかな。

 塀から庭に降りて、声のした方へ近付いてみる。


『おい、アレ、捕えろ』

『ハッ』


 ご飯あげてやれ、みたいなこと話してるのかな。

 ちょっとワクワクしながら、ルンルン気分で歩いていく。

 突然、窓からふわぁっとなんか落ちてきた。

 うおっ、網……!?

 ブリエスさんから色々と注意を受けたけど、別れてからものの1分足らずで人間に捕まっちゃったみたい。

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