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「要らない」は、最強  作者: 田中葵
第1部
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エピローグ

午後の会議が終わり、

人の気配が引いた休憩室は、少し広く感じられた。


長机の端に、あの段ボール箱がまだ置かれている。

「廃棄候補」の文字は、少しだけ滲んでいた。


桐島は箱の前に立ち、

中を覗き込んだ。


止まったままの置き時計。

欠けたマグカップ。

ロゴの古いクリアファイル。


どれも、数日前と変わらない。


日高が、遅れて入ってくる。


日高

「まだ、あるんですね」


桐島

「決裁が下りてない」


日高

「……そのままでもいい気がします」


桐島

「どうして」


日高

「要るとも、要らないとも、

 まだ言ってないから」


桐島は、時計を手に取った。

針は動かない。


桐島

「止まってる事実は、変わらない」


日高

「でも、それだけですよね」


桐島

「それだけだ」


佐伯が、二人の会話に気づいて近づいてくる。


佐伯

「これ、どうなるんですか」


桐島

「処分される」


佐伯

「……寂しくないですか」


桐島

「寂しさは、残る」


日高

「じゃあ、やっぱり冷たいんじゃ——」


桐島

「冷たいけど、嘘じゃない」


佐伯は、しばらく箱の中を見つめた。


佐伯

「“要らない”って、

 相手を消す言葉じゃないんですね」


桐島

「消さない」


日高

「ただ、関わらない」


桐島

「そう」


日高は、欠けたマグカップを一つ持ち上げた。


日高

「これ、持って帰ってもいいですか」


桐島

「要る?」


日高

「……分かりません」


桐島

「分からないなら、置いておけ」


日高は、少し笑った。


日高

「便利ですね、その基準」


桐島

「便利じゃない。

 静かなだけだ」


三人は、しばらく黙ったまま立っていた。


やがて、桐島が箱の蓋を閉める。


桐島

「要らないって言葉は、

 最後に使う」


日高

「最後?」


桐島

「欲しいも、要るも、

 全部終わったあとに」


佐伯

「じゃあ、それまでは?」


桐島

「事実を見る」


時計は、相変わらず止まっている。

それでも、時間は進んでいる。


休憩室を出るとき、

誰も箱を持ち上げなかった。


要らないとも、要るとも、

まだ言わなかっただけだ。

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