プロローグ
十一月の空気は乾いていて、大学のキャンパスを歩く学生たちの吐く息が白く揺れていた。鳥越翔太郎は二年生になって半年が過ぎ、講義とサークルとアルバイトを繰り返す生活に慣れつつあった。午前の講義を終えると、彼は学食へ向かう。そこは大学非公認の文芸サークルの集合場所で、六人の仲間がいつもテーブルを囲んでいた。
先に来ていたのは、高橋悠真だった。翔太郎の高校の先輩であり、大学に入ってからサークルに誘ってくれた人物だ。ノートを広げ、真剣な表情で原稿に目を通している。隣には村上健司が座り、批評の言葉を次々と投げかけていた。議論に熱心な彼は、サークルの中心的存在でもある。藤井美咲はその向かいにいて、静かに頷きながらも時折鋭い意見を差し挟む。彼女の真剣さは、場の空気を引き締める力を持っていた。
一方で、中村亮は少し離れた席に腰を下ろし、談笑しながら雰囲気を和らげていた。小川彩花はその隣で、議論には深く加わらないものの、居心地の良さを楽しむように微笑んでいた。六人の集まりは、真剣さと緩やかさが混じり合い、学食のざわめきの中で独特の空気を作り出していた。
翔太郎は自分の原稿を取り出し、仲間のやり取りを聞きながらページをめくった。表現が硬すぎるのではないか、場面の描写が足りないのではないか。そんな疑問が浮かぶたびに、彼は図書館へ足を運んだ。資料を調べたり、参考になる小説を読み返したりすることで、少しずつ自分の文章を整えていく。サークル活動と図書館は、翔太郎にとって切り離せない日常の一部だった。
夕方になると、翔太郎は駅前のコンビニへ向かう。アルバイトは生活費のためでもあり、日常のリズムを保つためでもあった。レジに立ち、客の注文を処理し、商品を補充する。単調な作業ではあるが、大学生活の一部として欠かせない時間だった。
講義、サークル、図書館、アルバイト。そんな繰り返しが、鳥越翔太郎の毎日を形作っていた。何の変哲もない日常が続いていくはずだった。




