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ドライりんご

作者: 夜々子
掲載日:2025/11/11










苦悩し、苦戦し、苦労し、そして、絶望。






勉強、勉強、勉強、勉強、勉強、勉強、勉強 、勉強という毎日を費やしていた女子高生は設定しておいた目覚まし時計の電子音と共に目が覚める。

座ったまま寝たせいか、体がバキバキになってしまったのでグッと伸びをすると同時に大きな欠伸が出た。

自分が今まで何をしていたのかは目の前に広げられたノートと乱雑に置かれた教材で瞬時に思い出す。

学校に登校する時間まであと2時間弱。

これだけ時間があれば7問ぐらいは解けそうだ。


でもその前に、





(のど、かわいたな…)





サイドテーブルに目をやると既に置物となってしまった加湿器に、また1階まで降りなければいけないなと面倒さを感じた。

彼女は机の隅に置いていた安っぽいプラスチックのコップに手を伸ばす。

求めていた水は半分ほど残っており、飲む量は少しだけにしようかと思ったがラストスパートだ、という気合いを込めたかったので一気飲みした。

飲み干した後、目の前の窓に映る朝焼けに思わず見とれていた。


夜の色は西に追いやられ、東から東雲色がやさしく染まっていくこの景色。

早起きした者だけが見られる"特別な空"だった。





(窓開けて見たいけど、寒いしなー……)





せっかく湯たんぽや体に巻き付けた毛布のおかげで保たれていた熱を逃がすような行為はしたくない。

下ろしていた足を上げ、ダンゴムシのように体を丸めると、こたつのような温かさにまたもや受験生にとっての敵が襲ってくる。

飲んだ水がぬるかったせいで未だ全く覚醒できていないので、数秒目を閉じてしまったらいつ瞼が開くかわからない。





(寝たらダメ、ねたらダメ……)





夢に入るまであと一歩、というところで彼女はヘッドボードにあったドライりんごが目に入る。


勉強する時に良い、と言われている小魚やブドウ糖を毎日食べているがとっくの昔に飽きていた。

それでも、勉強の役に立つのなら、嫌いになっていないのなら、食べるのをやめるのはもったいないと仕方なく続けている。


しかしこのドライフルーツのりんごだけは、毎日食べても飽きを感じたことは一度も無い。

昔から好きな食べ物だから当たり前だろう。


3ヶ月ほど前から自分へのご褒美として買い続けていたこのドライりんご。

一日に2個までと自分で決めていたが、少々値段が高いので最初は一日1個にするべきかと悩んだ。

しかし口に入れた瞬間、1個では無理だと直感し、2個までにしようと自分ルールを緩くした。


勝負の日が迫る中、勉強の邪魔になるような甘えは無くした方がいいとわかっていたが、好物にはどうしても抗えなかった。

食欲は人間の3大欲求のひとつなのだから仕方がない。


毛布の中から出ると体の熱が一気に冷めていくのがわかった。

大きく震えながら早足でドライりんごを取りに行き、ふわふわの毛布へ戻る。

戻る時に机に足をぶつけてしまったが、そんなことに構う暇も無いほどに体は冷えてしまっていた。

湯たんぽをお腹に挟もうとしたが、あの温もりはもう無くなっていたのでベッドに放り投げた。

震えが落ち着いてから彼女は毛布から手だけを出して、ドライりんごの袋を開ける。





(あ、もうあんまり無い……)





残しておいた大きめのドライりんごが2個入っており、今日の放課後に予定ができたなと思いながらどちらが一番大きいかを袋の中で吟味する。






(これかなー。なんとなくこっちの方が大きい気がする。)






彼女は一番大きいと感じた1個を袋の奥に入れ、もう1個を袋の中から取り出して一口で食べた。

口の中に最初に広がったのはドライりんごの周りに付いていた砂糖の上品な甘みだった。

ひと噛みすると、りんごのほのかな甘酸っぱさが砂糖とやさしく混ざり合っておいしい。

彼女はその味をもっと感じたくてまぶたを下ろすと、やさしい甘さはさらに強くなる。

だんだんと小さくなっていくドライりんごは喉の奥へ消えていき、最終的に大好きな味が静かに残った。






(もう1個食べたいなー……いやでも、我慢我慢……。)






あの幸せをもう一度口にしたいと脳みそは求めていたが、机の上の状況を見て、その欲は今日の夜にとっておこうと決める。


袋のチャックを閉めてヘッドボードへ戻しに行こうとしたが、やめた。

彼女は机の一番上の引き出しにドライりんごを入れる。


気づけば起床してから30分経っていた。

息抜きしてる時だけ、時間が過ぎるのが早い気がする。


彼女は巻き付けていた毛布を少し緩め、腕だけを出した。






(やるかー……)






勉強のゴールデンタイムと呼ばれている起床後の時間はほんの少ししかない。

それを30分無駄にしたなと彼女は一瞬思ったが、致し方無し、と気持ちを切り替える。


結っていた髪の毛を括り直しながら上げていた足を下ろし、背筋を伸ばす。


家を出なければいけない時間まであと一時間半。

家から遠めの高校にしたせいで朝勉の時間が減るのは少し嫌だった。

とは言っても、自分で選んだ高校なのだから文句は言えない。






(問4までは終わらせたいなー)






問1から問4までの問題文を見ながら時間配分を決め、問1から手をつける。

行きたいと心から思えた大学に通うことを夢見ながら、今日もあらゆる問題とにらめっこだ。





窓から差し込む日の光に照らされた彼女の姿は、美しく強い花が咲く前のつぼみそのものだった。















最後まで読んでいただきありがとうございます。

頑張る姿は誰だって応援したくなりますよね。

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