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第6話:エルフの少女

 ――虎穴に入らんずんば虎子を得ず。


 なんてことわざはサツマにもあるが、その洞窟に踏み入ることは、突然、未知の世界に降り立った貴政にとっては、まさしくそんな選択だった。もし先住者がいた場合、その邂逅は十中八九、手荒なものになるからだ。


 とはいえ、そうはならなかった。

 危険な敵はいなかったのだ。


 彼は抱えていたものを、そっと、やさしく地面に寝かせた。

 ふぅ、と一息ついた彼は、洞窟の開口部から差す光に照らされたあどけない顔をまじまじ見つめる。


「信じられないでごわすが、このちみっこは……いわゆる〝えるふ〟なのでごわそうか?」


 貴政は、そう独りごちた。


 きらめく長い金髪に、葉っぱのような長い耳。

 格好がひどくみすぼらしく、金属製の首輪などという物騒なものを嵌められていることを抜きにすれば、目の前の少女は、彼がラノベなどのサブカルでよく見るエルフ族そのものなのだ。


 あの化け物もそうである。

 あれもサブカルの世界でよく見るオークと呼ばれる種族に似ていた。あんな連中に出くわす世界がまともな場所のはずがない。


「いや、しかし、まさかおいどんが……」


 彼は自分の両手を見つめた。

 こんな凡庸で、どこにでもいる、()()()()()にすぎない自分が、俗に「異世界」と呼ばれる世界にばれるなんてありえるだろうか?


「…………っ、いかんいかん」


 貴政はぶんぶんかぶりを振って、邪魔な考えを振り払う。

 確かに気になることではあるが、今、そんなことはどうでもいい。


「許せ、ちみっこよ」 


 そう呟いた貴政は、右手にオーラを纏わせて、それを目の前に横たえた少女の平坦な胸に押し当てた。

 妙なことをするためではない。サツマ男児なら誰でも使える〝気功法〟という技術によって、相手の鼓動を感じ取り、状況を把握するためだ。


「むっ……これはっ!」


 そして驚愕する。

 気を巡らせて調べたところ、エルフの少女の衰弱具合は予想よりかなりひどかったのだ。


 まず心臓の鼓動が弱い。呼吸も浅く、不規則であり、このままでは、ものの数時間と持たず事切れてしまうに違いなかった。


 であれば「あれ」をやるしかない。

 貴政はすぐに覚悟を決めると、触れていた手を一度離し、少女のへそ下あたりに触れる。


「関取の呼吸、きゅうの四股――〝治与之不治ちよのふじ〟!」


丹田たんでん〟と呼ばれる部位がある。

 気を作り出し、全身に送り込む、サツマ連邦の医療において第二の心臓と言われる場所だ。


 貴政は、その場所に自身の「気」、言い換えるのなら「生命力」をそのまま注入したのである。

 これはリスクを伴う技だ。制御を誤れば少女の寿命をかえって縮めかねないし、何より自分の生命力を大幅に消耗してしまう。


 やがて貴政の〝呼吸〟が切れた。

 彼は、はぁはぁ、と息をつき、洞窟の床に座り込む。


 あとはもう、天に祈るしかない。

 少年はパンと柏手かしわでを打ち、しばらくの間、最高神《ヒゴ=モッコス》に少女の無事を祈願した。


 そのご利益かはわからないが、数分後、少女は息を吹き返した。

 貴政は安堵の息をつき、けほけほとむせる少女の背中を大きな手でさすってやる。


「よかったでごわす、本当に」


 少女はゆっくり目を開けた。

 その目はどんよりと濁っていた。

 無理もない。きっと、こんな状態になるほどのひどい虐待を受けたのだろう。


「案ずるな、大丈夫でごわす。おいどんはお前さんの味方でごわすよ」


 だから、そう、貴政は、不安に震える小さな体をそう言いながら抱き寄せた。

 言葉が伝わったかはわからない。

 けど抱擁を続けていると、徐々にではあるが彼女の震えは彼の腕の中で治まっていった。


 貴政は少女をそっと離し、あえて少しだけ距離を取った。

 すると彼女は辺りを見回し、次に貴政の顔を見る。


「ここでごわすか? ここは森の中の洞窟でごわす。どこの世界の森なのかは、おいどんにもよくわからんでごわすが、お前さんを担いでいたデカブツはおいどんが成敗しておいたでごわす」


 貴政はちょっと得意に、にっと歯を見せてそう言ったのだが、少女はというと「?」というように小首を傾げてしまう。


 貴政はちょっと拍子抜けした。

 サツマ語が通じないのだろうか?


「むぅ、おかしいでごわすなぁ。大体この手の話だと、なんかこうミラクルなパワーみたいので話は通じるもんなのでごわすが……」


 なんていうことをぶつぶつ言ってると、その独りごとを掻き消すようにある音が洞窟に鳴り響く。


 それは、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、という音だ。


 少女はへこんだお腹をおさえ、悲しげな目で貴政を見上げた。


「やっ、すまぬ! 忘れておった! 〝治与之不治ちよのふじ〟による回復はカロリーをめっちゃ使うのでごわした!」


 貴政はすぐに立ち上がり、自らの頬をぱんぱんと張った。

 一仕事せねばならないことを瞬時に悟ったからである。


「食えそうなものと、水と、薪……とにかく、色々集めてくるでごわす! うまい、ちゃんこを作ってやるから、いい子にして待っているでごわすよ?」


 言って、貴政は洞窟を出た。

 かくして力士の少年の狩猟採集生活ガチサバイバルが始まった。

【作者コメント】

ここまで読んでくれてありがとうでごわす!

面白かったら、高評価、ブックマークなどで応援してもらえると嬉しいでごわす!

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