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第5話:力士vs豚人間

 飯屋貴政は紳士である。


 従って彼は、状況だけを見て、その印象から一方的に相手を悪とは決め付けない。

 とりあえず彼は故郷の流儀に従い「名乗り」を上げることにした。


「やぁやぁ、諸君。おいどんの名はタカマサという……四股名は〝伊勢之海(いせのうみ)〟にごわす」


 すると化け物どもは一斉にブタのような顔を振り向かせた。

 彼らは近付いてくる影を、知性をあまり感じさせないどんよりした目で威圧するようにじっとり見下す。


「おいどん、荒ごとは好かぬでごわす。事情があるなら、そこに担がれた……ちみっこ? を、なぜ、そのように扱っているか、聞かせてほしいでごわすなぁ?」


 貴政はあくまで友好的に、その集団にアプローチした。

 目の前にいる連中は、見た目は確かに化け物であるが、会話が通じる可能性がゼロではないと思ったからだ。


 けれど返答はシンプルだった。

 そいつらは言語を発する前に、粗削りな木の棍棒を一斉に投げ付けてきたのである。


「あー、なるほど……わかったでごわす」


 貴政はそれらを全て〝張り手〟によって空中で叩き落としていた。


「つまり、荒ごとは避けられぬ、と? 対話の道はないのでごわすな?」


 貴政は、どん、と四股を踏んだ。

 すると全身に靄のような光のオーラが発生する。


「ならば、こちらも全力で行かせてもらうでごわす」


 そう宣告した彼の下に四体の化け物が殺到する。

 それはいっそうシンプルな言語以上の回答だった。


 貴政は、しかし下がらない。

 2メートルを超す化け物から見れば、矮小な人影にすぎないサツマの男児は代わりに「ヒュッ」と息を吸い、


「関取の呼吸、いちの四股――〝破流闘ばると〟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 そしてオーラを爆発させる。

 気を収縮させ、波状に発散する基礎中の基礎の四股である。


 しかし雑兵たちにとり、それはてきめんの攻撃となった。

 四方に吹き飛ぶ巨体を尻目に貴政は首領の脇へと潜りこむ。


『フゴッ!? フゴォォォォォォ!?』


 そいつは、まさか自分の手下が、目下のひ弱な人間に蹴散らされるとは夢にも思ってもいなかったようだった。


 あからさまに同様した態度を見せたそいつは、だが邪魔ものの捕虜を放り捨て咄嗟に臨戦態勢を取った。空前絶後のインファイト! 気の発散によって学ランが弾け飛び、回し一丁の姿になった貴政は、その勢いを殺さずに相手の腰布を掴み取り、


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 そして思い切りぶん投げた。

 トラックすらも破壊する少年の驚異的な膂力によって、敵の巨体は宙に浮き、切り立った石壁に激突する。あまりの衝撃に地響きがした。そして、あまりの展開に、散らされていた手下たちはあんぐりと口を開けていた。


『ゴッ……フゴァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!?』


 叩きつけられた化け物の首領は、口から泡を吹いた後、白目を向いて地に伏せる。


 その背面には、()()()()()()()()()()()()()が判子のようにそびえていた。

 手下たちは『フゴフゴ!?』と喚き合う。自分たちのリーダーが倒された――そう認識した彼らの行動は実に迅速で、早急だった。


『『『『フ、フゴォ! フゴゴゴォォォォッォォォ~~~~!』』』』


 つまりそう、一目散に逃げ出したのだ。

 蜘蛛の子を散らすという言葉があるが、まさしく、そういう逃げ方だった。


「さぁて、と。ケリはついたでごわすよ」


 貴政はパンと拍手をし、サツマ連邦の最高神ヒゴ=モッコスに此度の武運の感謝を捧げた。


 そして足元の影を見る。 

 地に伏したままの化け物の側に、乱暴に打ち捨てられた影。

 ボロ布を纏う小柄な影に彼はやさしくささやいた。


「もう大丈夫、心配いらぬ。お主を捕らえていたヤツはおいどんが成敗したでごわすよ」


 そして、とびきりの笑顔を作った。見たもの全てを安心させる、完璧な関取微笑セキトリックスマイルであった。

 が、しかし、影は動かない。

 怪訝に思った貴政がそっとその影に手を伸ばすと、ボロ布によって隠されていた小さな顔があらわになる。


「……っ!? これはっ!」


 貴政は、はっ、と息を飲んだ。

 それは妖精の顔だった。

 そう表現する他ないほどにその顔は美しかったのだ。


 それは十つに届くか否かの幼い少女のようである。

 見れば彼女も人外なのか、普通の人間とは違い、その耳は尖った葉のように横向きに長く伸びていた。


 が、しかし彼が息を呑んだのは彼女の美貌のためではない。

 その細い身に刻まれた擦り傷やアザの数々のためだった。

 それも首輪を嵌められていた。相当、衰弱しているらしく、彼が体を揺すっても少女はぴくりとも動かない。


 これは……まずい!

 このまま、ここに放っておいたら確実に死んでしまうだろう。


 そう考えた貴政は、傷だらけの身をボロ布で包み、ふくよかな腹をクッションにしてやさしくその身を抱き寄せた。


 とにかく、介抱しなくては……!


 思い、辺りを見渡すと、そう遠くない岸壁にぽっかりと開いた洞窟が見えた。

【作者コメント】

ここまで読んでくれてありがとうでごわす!

面白かったら、高評価、ブックマークなどで応援してもらえると嬉しいでごわす!

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