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第35話:ギルドオーダー2

「……で、なんでこいつらがいるんだい?」


 ぼさぼさとした茶色い髪から尖った耳を覗かせる、人狼ワーウルフの女獣人が忌々しげにそう言った。


「そっくりそのままお返しするわ。見かけ倒しの売女ビッチのくせに」


「あぁ、なんだってぇ! このくそアマァ! てめぇ、もっぺん言ってみなぁ!」


 ショートソードに手を掛けようとする女獣人ヴァネッサを、取り巻きの2人が「まあまあ」となだめる。


 一方、貴政もミュウの壁となり、眼前で起こっている無用な諍いから大事な仲間を守ろうとした。


 その時、ごほん、と声がする。

 それは冒険者ギルドの秘書、リシェル・アーヴィングのものだった。


「皆様、静粛に。ギルドマスターの前ですよ」


 彼女はクイッとメガネを上げた。


 ここは冒険者ギルドの執務室。

 一同の前、レンガ造りの豪奢な部屋の大きなデスクに掛けている男は、片眉の下に大きな切り傷を持つ初老の男、ギルドマスターのバルド・ガルネスだった。


 目の前で繰り広げられる口論に彼は少しも動じていない。

 荒くれ者の冒険者たちが、目の前で喧嘩を始めることなど日常茶飯事だからだろう。


「そろそろ、話をしてよいか?」


 そう言って彼は一同の顔を、猛禽類を思わせる鋭い目つきで見回した。

 ヴァネッサとミュウはフンと鼻を鳴らし、互いにそっぽを向く。

 手下の男たちはほっと息をつき、貴政やクゥとともにバルドを見つめた。


「先に断っておくが、これから君たちに話すことは街の治安にも関わることだ。依頼を受けるか受けないか、決定権は君らにあるが、いずれにしてもこのことは他言無用で願いたい」


 そう前置きしたバルドは壁を指差した。

 そこには最初の街アーネストと、その周りを取り囲む森や村などの位置が記された地図が張り付けられている。


「南東にあるズーグの森――メシヤ殿が最初におられた森には〝竜の霊廟れいびょう〟と呼ばれる場所がある。我々はそこへ定期的に人をやり、異変がないか調べている。メシヤ殿、そしてヴァネッサ君、君たちをここへ呼んだのは他でもない。その調査に向かってほしいからだ」


 その言葉を聞いた貴政は、自分とクゥを除く4人の冒険者たちがいっせいに息を飲んだのがわかった。そんなに危険な場所なのだろうか? 首を傾げてバルドを見ると、彼は無言で首を振る。


「異国から来たあなたが知らぬのも無理はない。そこはいわくつきの場所なのです」


「と、言うと?」


「今から、およそ300年前〝邪竜〟と呼ばれる強力な魔物が街を襲いました――イビルヤンカシュ――その名を口に出すことすらも、はばかられるような存在です」


 そう言ってバルドは話を続けた。


 なんでもその邪竜なるものは、かつて唐突に街に飛来して破壊の限りを尽くしたS級の魔物らしい。しかし、その場に居合わせた伝説の魔術師マリーナが封印魔法を使ったことで、地中深くに引きずり込まれ、永き眠りについたという。


 人々はその周りに畏怖を込め〝霊廟〟と呼ばれる施設を作った。

 その周辺には邪竜の怨念によって常にアンデッドモンスターが湧いているそうだ。 


「ですが近頃、霊廟の周囲だけでなく、その近隣の地域にまでもアンデッドの出現が確認されるようになりました。邪竜の封印に異変が起きているのやもしれまん」


「では、墓参りにでも行けばよいのでは? 何か、捧げものをしに行くとか?」


「ええ、そうです。まさにその通り。ここに〝スウシャイの涙〟というアイテムがあります。数年に一度、霊廟内の祠にこれを奉納しに行くことで我々は封印を強化しています」


「おいどんたちに、それにゆけということでごわすか?」


 バルドが無言で頷くと、ヴァネッサはチッと舌打ちした。

 手下の2人が身震いし、ごくりと唾を飲むのがわかる。


 貴政にはピンと来なかったが、恐らく、そこはこの世界の人々にとっては強い忌避感を覚える場所なのだろう。


 しばらく無言の時間が続いた。

 だが、やがてミュウが口を開き「ひとついい?」と質問する。


「邪竜の封印に異変が起きてるかもしれないことはわかったわ。でも、それをなんであたしらに言うわけ? 僧侶職プリーストのいないあたしらに?」


 バルドは言葉を返さなかった。

 彼はちらりと貴政を、次にヴァネッサの顔を見る。


「はっ、これだからお嬢サマは。世間のことをなぁんにも知らない」


「はぁ? ちょっと、それどういう意味よ!」


「まんまの意味だよ。いいかお嬢サマ、よく聞きな。〝スウシャイの涙〟の奉納儀式は、数年に一度、冒険者ギルドとスイシャイ正教会の双方で交互に執り行われてんだ。なんで、そうするかわかるかい?」


「…………パワーバランスを均等らすため?」


「ああ、そうさ。わかってんじゃないか。ギルドと教会それぞれが、馴れ合うことはないけども、どちらも街を守ってる。そんな筋書がいるんだよ。だから普段ならこの儀式には、僧侶職プリーストのいるまともなパーティを連れて行く。そうすりゃ、ギルドが主導の時にも向こうのメンツが立つからね」


 流暢に語るヴァネッサだったが、貴政には難しい話だった。

 ところがミュウは身を乗り出して彼女の顔をじっと見る。


「ようするに、これは正規の依頼じゃない。教会に属する僧侶職プリーストを敢えて雇わない……いや、()()()()()()ということね」


「お嬢サマにしちゃ上出来だ。そういうことだろ、ギルマスさん?」


 バルドは深い溜息をついた。

 彼は頷きはしなかったものの、ようするにそれは肯定だろう。


「ああ、ええと……おいどん、あんまりわかっておらぬが、そうしなければならない理由が何かある的な話でごわすか?」


「タカマサ、察してあげなさい。今、あたしたちに非正規の依頼が来るということは、前の儀式をやったのは、たぶんギルドの側なのよ」


「その時に何か不備があった、と?」


「そこまでのことはわからないわ。けれど、このまま放っておけば、封印の異変の原因をギルド(こっち)のせいにされかねないってこと」


 そこまで聞いて貴政は、ようやく事態を理解した。


 実際に何が起きたかはわからない。

 奉納に不備があったのか、あるいは無関係の何かが起きたのか……


 だが、なんにせよ、このままだとギルドの立場が不利になる。

 そこで、こっそりと貴政たちにアイテムの再奉納をして来てほしい――そう、ギルマスは言いたいわけだ。


「……大方、察してくれたかね?」


「ウム。ようするに、おいどんたちは、その〝霊廟〟とやらの様子を見に行けばいいのでごわすな? で、いつ行けばいいのでごわす?」


「できることなら、明日にでも。そう答えるということは、依頼を受けてくれるのですかな?」


 貴政は「ウム」と頷こうとして――しかし、左右から肘打ちを食らった。


「ぐほぉ!?」


「勝手に話を進めんじゃないよ、このデカブツ!」


「そうよ! 慎重になりなさい!」


 貴政は驚き、困惑した。

 犬猿の仲のはずのヴァネッサとミュウが同じ反応をしたからだ。


「アンデッドの出る〝竜の霊廟〟に僧侶職プリーストなしで行って来いたぁ、随分、無謀な依頼じゃないか? このデカブツは異国の僧だというが、あたしにゃそうは見えないね。風体的にも能力的にも、明らかにただの戦士職ウォリアーじゃないか?」


「失礼ね、タカマサはれっきとした高僧よ! ヒゴなんとかって神様の力を借りてすっごい力を使えるんだから! でも、そうね……確かにヴァネッサの言う通り、スウシャイ神のお膝元で、その力だけを頼りに〝霊廟〟に行くのはリスクが高いと言わざるを得ないわ」


「そいつは、あたいも同感だ。相応のアレがなくっちゃね?」


「ええ、そうよ。アレよアレ」


 2人は息をぴったり合わせてバルドのデスクに詰め寄った。

 貴政たちは圧倒されて互いに顔を見合わせることしかない。


「……あなた方には慎みが少々足りないようですね」


「ンなもんで飯が食えっかってんだ。いいから、さっさとカネ見せな!」


 秘書はやれやれと溜息をついた。

 彼女はバルドに目配せすると、葉皮紙ログリーフがまとめられたバインダーに羽根ペンで何か書き始める。その数秒の作業が終わると、彼女はそれを皆に見えるよう自身の前に掲げて見せた。


「1パーティ辺りこの値でどうですか? 交渉の時間は無駄ですからね、これが最大報酬です」


 その金額を見た瞬間、ヴァネッサは、なっ、と息を飲み、ミュウはぷるぷると肩を震わせた。


 貴政は仲間の顔を覗き込む。

 彼にはこの世界の貨幣の価値がいまだにピンと来ないのだ。 


「ミュウ、乗るべきか?」


「……乗るしかないわ」


「そ、そんなか?」


「そんなによっ! かつてない、すごく美味しい仕事(ビッグウェーブ)だわ!」


 きらきらと光るミュウの瞳には「(サルク)」マークが浮かんでいた。






 かくして、2つのパーティは〝霊廟〟の調査クエストを受注することになったのだった。

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