第32話:引いて駄目なら……
業火の渦が放たれた瞬間、貴政は両手を前に出し、腹の底からこう叫んでいた。
「ATフィールド全開ッッッッッッッッッッッッ!」
瞬間、オレンジ色の力場の層が全身を包み込むように形成された。
日に一度だけ使用できる、ヒゴ=モッコス神の加護。
そのカードを今、貴政はここで切ることを決意した。
逆に、そうせざるを得なかった。
これがなければ今頃、彼は焼死体となっていただろう。
ブレス攻撃が途絶えると、貴政はふらりと足をもつれさせ、思わず膝を突きそうになる。
だが耐えた。
なんとか踏ん張る。
神のご加護は万能だが、その分、気の消耗も馬鹿にならない。
敵の攻撃が強力なほどにその傾向は顕著となる。
「くっ、なんという化け物でごわそう……っ」
思わず貴政は独りごちた。
単調な突進攻撃だけなら避け続けることもできたかもしれない。
敵の攻撃をかわしつつヒット&アウェイ戦法を繰り返していけば、いずれダメージが蓄積し倒すことができたかもしれないからだ。
だが、この敵は突進に加えて強力な飛び道具を持っている。
それが非常に厄介だった。
一度使った権能は明日になるまで使えない。あの攻撃が再び来た時、どういうふうに避けようか……
なんていうことを考えているうち〝超越巨体猪〟が『ブモォォォォォォォォォォォォォ!』と雄たけびを上げた。 目の前にいる小賢しい人間を自慢のブレスで殺せなかったことに相当腹を立てているらしい。
大猪は身をかがめ、再び突進姿勢を取る。
貴政は腰を低くして身構えた。
今は呼吸が乱れているから〝大鳥〟でかわすことはできない。
なんとか、呼吸の力に頼らず自力で突進をいなさねばならない。
――右、左、どっちに避ける!
そう考えた時、貴政は〝超越巨体猪〟の巨大な牙が、相手から見て右側だけ少し短くなっている事実を改めて認識した。こちらから見た逆方向、つまり左に避けた方があの牙に当たる確率が下がるかもしれない。
そう思った貴政は突進が始まった時、迷わず左にダイブした。ローリングにより敵の突進をギリ避けさせるつもりだった。
だが貴政は失念していた。
右の牙の方がすり減っているということは、使う頻度が多いということ。つまり咄嗟に動いた時にそちら側に首を振る可能性が高いということを。
「ぐおおおおおおおおおおおおおっ!」
ローリングには成功した。
だが、その牙の先端は太もも辺りをかすり、彼に激痛をもたらした。
〝超越巨体猪〟は木に激突し、再びそれをなぎ倒す。
その後ろで彼はなんとか立ち上がり、傷の状態を確認した。
――太い血管をやられたか……立てはするものの、まともに動けん!
出血している足を見て彼は瞬時にそう判断する。
命に係わる傷ではない。
止血さえすればそのうち治る、そんな程度の傷だろう。
だが、その傷はこの場においては致命傷といえるものだった。
なぜなら明らかに移動の速度は落ちてしまっているからだ。
そんな状況を知ってか知らずか。
〝超越巨体猪〟の次の攻撃はあの最悪の攻撃だった。そいつは再びカチカチと歯を打ち鳴らし始め、一撃必殺のブレスを放つ準備を始めたのだ。
――落ち着け、おいどん。落ち着くでごわす。
絶体絶命のピンチの中で貴政の脳は活性化した。
ブレスを食らえば即死する。
だが、このままではその攻撃を自分は決して避けられない。
集中力が極限まで高められ、スローになってゆく世界の中で、彼の思考は加速する。
どうすればブレスを防ぐことができる?
簡単だ。泉に飛び込めば、とりあえず目先の攻撃を防ぐことだけはできるだろう。
しかし、その後の攻撃を水中でどのようにかわせばいい?
人間に鰓がない以上、そこでは〝呼吸〟は使えない。そんな状態で追撃されれば抗う術はないだろう。
横にも、後ろにも、斜めにも、水の中にさえ逃げ場はない。
ほぼ完全に詰みだった。
火炎放射を防ぐ技なんて〝呼吸〟の中にはないのだから。
――いや、待てよ! 〝防ぐ〟などという発想自体が、そもそも誤りなのではないか!?
カチカチという音は続いている。
じきに火炎のブレスが来る。
そんな中、貴政の脳細胞はある妙案を思い付いた。
この状況に対処可能な呼吸。
それが1つだけ存在する。
そう思った時、貴政はすでに行動を開始していた。
彼はコォォォォォォォォっと息を吸い、この状況を打破するための秘策を即座に実行せんとする。
「関取の呼吸、参の四股――〝阿殺昇龍ッッッ!」
貴政が完成させた四股。
あろうことか、それは相手に急接近し打撃を与える技だった。
つまり少年は敵の顔前に自ら特攻したのである。
『引いて駄目なら押してみろ』
そんな格言がサツマにはあるが、まさしく、そんな発想だった。
逃げれば死ぬ。
逃げなくても死ぬ。
で、あるならばいっそのこと、死に立ち向かえばいいのである。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
彼は叫び、敵に接近する。
ブレスを吐くため巨大な口を開こうとする〝超越巨体猪〟。
――刹那、貴政はその下顎に強力な昇龍張り手をお見舞いしていた。
『ブモボォォォォォォォォォォゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~~~~~!?』
大猪は口を開けない。
結果的に何が起こったか?
そう、それは……自滅であった。
可燃性のガスを利用した、全てを焼き尽くす地獄の業火。
行き場を失ったそのエネルギーは、その口内へと逆流し〝超越巨体猪〟の体の中で大爆発を起こしたのだ。
【作者コメント】
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