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第28話:よく野菜人が使うやつ

 巨体猪ビッグボア討伐及び、解呪草ディスペルグラス入手作戦の段取りが決まると、ミュウと貴政は二手に分かれ、それぞれの場所へ行くことになった。


 1人は冒険者ギルドに。

 そして、もう1人は村長の下に。


 というのも、どの道、案内者がいなければ、目当ての薬草が生えている〝ウーサの泉〟なる場所にはいけない。そこで村長にはあらかじめ、自分たちが魔物の討伐依頼を受けることを話しておくことにしたのである。


「な、なんと……なんとまあ…………」


 話によほど驚いたのか、村長は再び跪き、貴政に深々と礼をした。


「このような小さき村の娘を助け、あまつさえ危機に立ち向かってくれるとは……あなた様は、まさに〝スウシャイの使徒〟! その心意気はまさしく勇者にございます!」


 貴政はウムとぎこちなく頷く。

 ちなみに「スウシャイ」とは、この国で広く信仰されている善なる神の名前であり〝スウシャイの使徒〟という表現をサツマ語的に訳すのならば「救世主」的な意味合いになる。


 それでは早速、道案内を……と、頼もうとした貴政だったが、気付けば、とても複雑そうな目に見上げられていることに気が付いた。


「ど、どうしたので、ごわすか村長?」


「メシヤ殿、あなたは確かに勇者です。しかし、だからこそあなたのような方をあの場所へ送るわけにはいかない」


「どうしてでごわす?」


 答える代わりに、村長は貴政の首元をじっと見た。

 それで少年は合点する。

 彼のそこには銅板でできたFランクタグが掛けられていたのだ。


 Fランク、つまり新人の冒険者には荷が重いという意味だろう。


 それで貴政は困ってしまった。


 自分は実はひと月もの間、ズーグの森でサバイバル生活をしていて、その間にAランクモンスターを含む多くの敵をほふってきました――そんな荒唐無稽な話を、果たして誰が信じよう?


 とはいえ、彼を説得しないと案内役は得られない。


 どうしたものかと考えて……考えた末に妙案が浮かんだ。

 そうだ〝呼吸〟を見せればいい。


 サツマの国では普通でも、この国基準では普通じゃない。

 あれが、そういう技術であるのはミュウのリアクションから察せられている。

 

「では村長、もしおいどんが、このタグ以上の実力を持つと証明できれば道案内を頼めるでごわすか?」


「はぁ、それはまあ、場合によっては。そういうことにもなりますが……」


「では、ちょっとした特技を見せよう。なんでもいい。何か壊しても構わぬものはないでごわすか?」


「なんでもいいとおっしゃるならば、そこに置いてある取っ手の掛けたマグカップなどは壊してしまってかまいませんが。一体、何をするおつもりで?」


 答える代わりに貴政はコォォォォォォォっと呼吸を整え始めた。


 その場でドンと四股を踏んだ彼は、全身にオーラをみなぎらせ両手首をぴったりくっつける。そうして開いた手と手の間に気の塊を生成し、





「関取の呼吸、じゅうの四股――〝多威砲たいほう〟!」





 それを「ちゅどん!」と発射する。


 多威砲たいほう――それは、一定以上の修行を積んだ力士だけが習得できる()()()()()()()()()だ。


 気の塊は回転しながらすごい勢いで飛んで行き、一瞬にしてカップを砕いた。

 しかし、それだけに収まらない。その塊はカップはおろかテーブルまでもを粉砕し、その上、村長の家の壁に轟音ととも大穴を開けたのだ。


 ――しっ、しまったぁ!?


 と、貴政は、その場でだらだら冷や汗を掻く。

 完全に加減を間違えた!

 カップを少しだけ砕くつもりが、思わず気合を入れすぎて家そのものを壊してしまった!


 村長はそれを見て唖然としていた。

 無理もない。

 ついさっき招いたばかりの客に、謎のスキル(?)を使われて家をめちゃくちゃにされたのだから。


「も、申し訳ないっ! この通りっ!」


 今度は貴政が跪き、平身低頭する番だった。

 この世界における物品は基本的に全てオーダーメイドだ。

 壊してしまったテーブルにしても決して安くはないはずだったし、壁にまで穴を開けたとなれば損害額は計り知れない。


「メシヤ殿……頭を上げてください」


「し、しかしっ!」


「メシヤ殿」


 強い口調でそう言われ、貴政はそっと頭を上げた。

 すると、そこには真剣な顔で彼を見下ろす顔がある。


「私は、あなたを見くびっていた。あなたは口先だけではなかった」


「そ、そうでごわすか?」


「そうですとも。家のことなど構いませぬ。あなた様ならば、あの猪めに本当に勝てるかもしれない」


 兎耳の村長は耳をピンと立て、貴政の手を強く引いた。

 立ち上がった彼は初老の男を困惑した目で見つめ返す。


「あの、弁償は……」


「そんなもの。孫娘の命を救ってくださるのなら、逆にお釣りが来るほどです。そして、あなたは自らの意思でそうしてくれるとおっしゃった」


 村長は貴政に片膝を突いた。

 これは、この世界で敬意を表す最大級の作法の1つだ。


「メシヤ殿……いえ、勇者殿。泉へ案内いたします。ただ、かの魔物の縄張りに入れば、恐らくそやつを倒すまで二度と出ることは叶いませぬ。それでもいいとおっしゃるのなら、私のこの手をお取りください」


 そう言いながら村長は、驚く力士の少年にふしくれだった手を差し出した。

【作者コメント】

ここまで読んでくれてありがとうでごわす!

面白かったら、高評価、ブックマークなどで応援してもらえると嬉しいでごわす!

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