第25話:クゥ、がんばる
さて、その後……
ミュウにぼこぼこにしばかれた貴政だったが、サツマ男児というものは基本的に意地っぱりである。彼はどれだけぶたれても、蹴られても、関節技を決められても、ゴブリンは嫌という考えを改めたりはしなかった。
見かねた受付嬢たちの介入もあり、最終的に話はこういう方向に落ち着いた。
ゴブリン退治はいずれ行く。
だが、まず最初は安全な薬草採りのクエストでクゥを慣らしてゆくのだ、と。
かくして、ちゃんこ好き好き同好会(仮)は、貴政とクゥが最初に暮らしていた森とは別の方角にあるラヒトの森にやって来た。
採取ポイントの1つだという草原に着くと、ミュウは植物図鑑を手に偉そうに講釈を垂れ始める。
「いい、あんたたち? よく聞いて。一口に薬草といってもね、その言葉には様々な意味が内包されてるの。巷でイメージされがちな草のタイプの薬草というのはタイプの1つにすぎなくて、実際には葉や木の実がそうだったり、水草や藻、あるいはキノコも含めたものが広い意味で〝薬草〟といわれているの。例えば、そう、代表的なものを挙げるなら……」
と、完全に講義モードの少女を無視して貴政たちは草原で身をかがめていた。
「タカマサ、あった、よ」
「おっ、これは食える野草でごわすな。昼食はこれを鍋にしよう」
「こっちにも、あった」
「すごいないクゥは~」
「って、聞かんかいお前らはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ミュウは図鑑を放り投げ、その場で思い切り地団駄を踏んだ。
貴政たちのマイペースぶりに翻弄されているらしい。
「野草なんか摘んでる場合じゃないのよ! あたしら仕事をしにきたの!」
「しかしなミュウ、人はご飯を食べないと生きてはいけないでごわすよ」
「で、ごわす、よっ」
「やかましいわっ!」
まるで親子のように息の合った掛け合いをしてくる2人に、ミュウは文字通り頭を抱えた。
彼女はちょっと後悔していた。
こいつらとパーティを組んだのは果たして正解だったのか、と。
「まあ、ふざけるのはこのぐらいにして」
「ふざけてる自覚はあったのね」
「一体、何を探せばいい? ただ闇雲に薬草を探せといわれても、それではすぐに日が暮れる」
なんていうことを貴政が聞くと、待ってましたとばかりにミュウは放り捨てた図鑑を拾い上げ、付箋が張られたページをぱらぱらとめくり始めた。
「フフッ、その辺りはリサーチ済みよ。別に自慢できることでもないけど、あたしこれでも半年近くも、この仕事で生計立ててたんだから」
「経験者は語る、というやつでごわすな」
「そういうこと。今の時期なら、これとかこれとか、あとこの辺りがアツいわね」
「フム、ちょっと見せてもらっていいか?」
「いいけど、すぐには見つからないわよ? 薬草採りっていうのはね、気合と根気が命なの」
ドヤ顔で胸を張り、そんなことを語るミュウ。
一方、タカマサは図鑑のページをかがんでクゥに見せてやり、何かを彼女にささやきかける。
「あ、言っとくけど、初心者がいきなり探して見つかるようなもんじゃあないからね?」
「経験者は語る、というやつでごわすな」
「あんたは一言多いのよ」
貴政の腹を小突くミュウ。
とはいえ図星だったらしく、その頬にはほんのりと朱が差していた。
なんていうことを話しているうち、クゥは、とててて、と走り出し、ある木の下にたどり着く。そして何かをぶちぶちとむしり、革袋の中に詰め始める。
「あー、駄目ね。やっぱ駄目。今言った薬草は基本的に日照条件のいい草原のど真ん中に生えるものなのよ。残念だけど、昼食のおかずが豪華になっただけみたいよ」
「果てして本当にそうかな? お主はわかっておらぬでごわすよ」
「あら、大層な自信じゃない?」
「勘違いしてるようだがな、おいどん、あの子がいたからこそサバイバル生活ができたのでごわすよ」
「野草を摘むのが上手いってこと?」
「ま、見ていれば、わかるでごわす」
そう言った後、とててて、とクゥが貴政たちの方に走ったきた。
彼女は褒めてほしそうに貴政に革袋を渡す。彼は中身を見もせずに彼女をひょいと抱き上げた。
「よし、えらい! えらいぞ、クゥ!」
「えへへ、タカマサ……みつけた、よ?」
一方、置いてけぼりのミュウは、こいつらは何を言ってるんだとばかりにその光景を呆れた目で見ていた。
彼女は貴政から革袋を受け取ると、大した期待をしたりせず中身を検めようとする。だが、その前にハッとなった。ある薬草に特有の鼻を突くようなツンとしたにおいが彼女の鼻孔をくすぐったのだ。
「え、まさか!?」
袋の中にあるものを手に出すと、少女はびっくりした顔でクゥとその草を交互に見やった。どんな魔法を使ったの!? とでも言いたげな声だった。
「な、ミュウよ、すごいだろう? おいどんには、あまり見分けがつかぬがそれらはその図鑑の薬草だろう?」
「え、ええ、そうよ! でも、どうやって!?」
「それはおいどんにもわからない。ただこの子には草花の場所が自然とわかるようなのだ」
貴政はかなり得意げに、まるで我が子の才能を自慢するようにクゥの頭を撫でながら言った。
ミュウはごくりと唾を飲み、図鑑をぱらぱらとめくり始める。
「ね、ねぇ、それ。キノコとかでもいけるの?」
「食用のならばいけたでごわすな」
「それ、ほんと!? ね、ねぇクゥちゃん、これを見て? この虫みたいなのに生えてるのわかる?」
ミュウが差し出したページにはしなびた芋虫のようなものから生える白いキノコが描かれていた。冬虫夏草というやつだろう。
貴政が元いた世界にも存在している昆虫などに寄生するキノコだ。
貴政はクゥを地面に降ろし、絵が見えやすいようにしてやった。
彼女はじいっとそれを見る。
力士の少年は声をひそめ、猫耳少女に耳打ちした。
「もしかして……お高いヤツでごわす?」
「お高いわ。幻のキノコよ」
「で、では、もしも見つかれば……」
「この特技一本で食ってける。クゥちゃんじゃなくてクゥ様よ」
2人はひそひそと話し合った。
現金な話だからである。
するとクゥ、すっと指を差す。
その方向には森があった。
「あの森の中に生えてるの?」
そうミュウが聞くと、だがクゥはその質問には答えなかった。
代わりに子供らしい気まぐれさで、ぴゅーん、と森に走って行ってしまう。
「あ、ちょっと! 待ちなさい!」
ミュウと貴政はクゥを追いかける。
森に入ってからのクゥは、時々急に立ち止まり、耳をすますような仕草をしたり、2人には理解できない言葉で樹木に対し語りかけたりと、とにかく奇妙な行動を取った。
「ね、ねぇ、あの子、大丈夫なの?」
「大丈夫でごわす。信じるでごわすよ」
そんなこんなで1時間ほど、2人はクゥを追い続けた。
ミュウは途中で飽きてしまったのか「ちょっと休まない?」と欠伸を噛み殺す。
「いや、もう少しだけ様子を見よう。あの子はやればできる子でごわす」
「それ、さっきから何回言うのよ~? このままじゃ日が暮れちゃうわよ~?」
ミュウがぼやいたその時だった。
貴政たちの数メートル先、その茂みの辺りでクゥは突然動きを止めた。
彼女はそこにしゃがみ込むと、足元の枝を適当に拾い、何かをツンツンし始める。
「見つけたの!?」
ミュウはぱあっと目を輝かせた。
しかし貴政は違和感を覚え、クゥの方に駆け寄ろうミュウを咄嗟に大きな手で制する。
「な、なによ?」
「様子がおかしい。普段ならすぐにおいどんに見つけたと言ってくるはずでごわす」
「まさか死体でも見つけたのかしら?」
「縁起でもないことを……と、言いたいところでごわすが、その可能性は大いにありうる」
2人は顔を見合わせた。
気まずい沈黙が流れたが、だが、ややあって貴政が「おいどんが行く」と前に出た。
「クゥ、なんだ? 何を見つけたでごわす?」
「うごかない、ひと」
「む! まさか……!?」
貴政はそこに駆け寄った。
おっかなびっくりという様子でミュウも後から付いてくる。
「こ、これは…………!?」
貴政は驚く。
茂みの側に倒れていたもの――
それは兎耳を頭から生やす獣人の少女だったのだ。
【作者コメント】
ここまで読んでくれてありがとうでごわす!
面白かったら、高評価、ブックマークなどで応援してもらえると嬉しいでごわす!




