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第18話:なんで、あたしがこんなこと……

「ううん、こっちも中々いいが……ああ、いや、しかしこっちのも……」


 自称、異世界から来た男。

 今は高僧のメシヤ・タカマサは、その馬鹿でかい図体で狭い店内に押し込めて、ぶつぶつと独り言をいっていた。


 彼の手にあるのは小さな布切れ。

 否、実際には子供服である。

 彼は両方の手にそれらを持って、目を「むぅ~」と細め吟味をしている。


「どっちがいいと思うでごわすか、ミュウ? どっちもなかなか、ぷりてぃ~でごわす」


「どっちも論外」


「む、 そうでごわすか? では、こっちのは?」


「ダサい」


「では、あれは?」


「ケバい」


「ぬぅ、それならば!」


「諦めなさい。あんたセンスがなさすぎよ」


 年頃の女子にそう言われ、貴政はガーンとショックを受けた。

 とはいえ自覚はあったのだろう。

 彼はそれ以上食い下がらずに「では、どれがいい?」と聞いてくる。


「あたしが選んでといてあげるわよ。それより、あんたは自分のを選んできなさい」


「いや、おいどんはいいのでごわすよ。それよりクゥの……」


「いいから選ぶ。ここは、あたしに任せなさい」


 ミュウがしっしと手を振ると、名残り惜しそうにしながらも貴政はしぶしぶ服を棚に戻した。

 のっしのっしと歩き去る背を見送りながらミュウは溜息をつく。


 一体、どうしてこうなった?

 なんでこんなことしてるの、あたし? と。



 さかのぼること30分前――



 ミュウ、貴政、クゥの3人は、冒険者ギルドの裏にある換金所にいた。

 クゥが魔宝珠オーブを取り出した、あの会談の後のことだ。


 目元まで覆うフードを被った年齢不詳の女性スタッフは、秤、虫眼鏡、その他様々な魔道具などで四腕熊バグベアのオーブをひとしきり見た。

 そして、しわがれた声でこう告げた。


「8000サルクってところかねぇ」


「は、はっせんっ!?」


「こりゃあ見事な魔宝珠オーブだよ。魔力がみっちり詰まってる」


「ほ、本当にそんな価値が?」


「このあたしの目を疑うのかい? 何年ここにいると思ってるんだい?」


 フード下の目にジロリとにらまれ、ミュウは慌ててかぶりを振った。

 とはいえ、それは大金だった。

 もし、これだけのお金があれば最新式の杖や魔道具をいくつも買えるし、その気になれば半年ぐらいは遊んで暮らすこともできるだろう。


 そんなミュウを見た貴政は「なんかよくわからんけど、いい値段なのだな」とでも思ったのか、値段交渉をしたりはぜずに、さっそく換金を依頼した。

 彼が契約書の名前の欄に、記号のような妙な文字(恐らく母国語)をささっと書くと、コインがたくさん入った袋が彼の目の前にじゃらりと置かれた。


 だが驚いたのは、この後だ。


 彼は換金所のロビーにて、手に入れたばかりの金貨の袋に無造作に手を突っ込んだ。そうしてなんの躊躇もなく、何も持っていないミュウの手にそれを握らせようとしたのである。


「…………。なによこれ? どういうこと?」


「これはお主の分でごわす」


「あたしに慈悲でもかけてるの?」


「普通に感謝の気持ちにごわすよ。ひねくれすぎだぞ、お前さん?」


 貴政は苦笑しながら言った。

 彼の説明はこうだった。


 自分がこの街に入れたのも、こうして換金できてたのも全てはお主がいたからだ。つまりお主がいなければ今ここにこの金はなかったわけで、ゆえに山分けが妥当だ、と。


 あまりに無欲なその発言にミュウは罪悪感を得た。

 親切にしたつもりはない。

 自分が彼を導いたのには明確な意図があったのに……


 すると、そのような沈黙をタカマサは遠慮と受け取ったらしい。

 彼は「ふぅむ」と顎に手をやると、そのうち、うんうん頷き始めた。


「では、こういうのはどうでごわすか? これは今からの手間賃でごわす」


「手間賃?」


「うむ。知って通り、おいどんたちはこの街のことを何も知らないし、どこにどんな店があるかなども全くわからん。お前さんのあの反応を見るに、半分だけでもかなりのものを買えるのでごわそう? だから案内をしてほしい。揃えたいものがあるのでごわすよ」


 そう言われては断れまい。



 ――かくして、ミュウは街の案内係を受けたまわることになったのだった。



 ミュウは再び溜息をついた。

 お金を貰えたのは確かにありがたい。

 だとして、こんな「ままごと」みたいなことになぜ付き合わなければならないのだろう?


(まあ、でもこんなにもらっちゃったし……)


 ずっしりとした袋の重みをポーチの中に感じたミュウは、それをぎゅうっと握りしめ、思考を切り替える。


 彼女は律儀な少女であった。

 なので呆れはしたものの、あくまでそういう依頼と割り切り、貴政から引き継いだ重要(?)ミッション――クゥの服選び――を手伝ってあげることにする。


「ねぇ、あんた、どんな服を着たい? 実用性は必要だけど、あんたの好みも重要よ?」


 ミュウは少しだけ目線を下げて、クゥと名付けられた幼い少女に、普段よりちょっとやわらかい声で話しかけてみる。


 だがクゥは自らの体を抱きしめ、無言で首を振る。

 どうもタカマサが作ってくれた毛皮の服を気に入っているようだった。


「いや、あんたねぇ、さすがにそれじゃあ……」


 ミュウが諭しかけたその時だった。

 店内に「おぉ~~~」と大げさな、甲高い男の声が響き渡る。


「お客様ぁ! 実にエレガント! ミラクルフィットにございますぅ!」


 ミュウが目線をそちらへやると、そこには試着室から出た貴政がいた。


 そいつは帯で巻くタイプの、いかにも異国風情な服をがっちり着込んでいて、なんというか〝さま〟になっていた。少し掠れた藍色の縦線が入ったその服は、まるで彼個人のためだけにあつらえらかのようにさえ見える。


「あぁ、なんという美男子でしょうか!? 大変似合っておりますぞぉ~!」


「そ、そんなにでごわすかねぇ?」


「ええ、ええ! 実に、実にです! お客様のサイズのお召し物となると中々在庫がなかったのですが、いやはや、これを仕入れておいてよかった! これは、かの東方の異国ヒーズルのお召し物でして、名を甚兵衛ジンベエと申します」


「おお、こっちでもそういうのでごわすか。これは祖国でも着ておった」


「道理で似合ってございます! して、ご予算は!?」


「4000ほど」


「~~~ッ!? なんと、なんと! 素晴らしいィ~! それでは出血大サービス! 2000サルクでお売りましょう!」


 貴政は「フム」と頷いた。

 彼は巾着に手を伸ばし、なんの躊躇もなく、そこから金を出そうとし――





「こんのバカタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」





 だがしかし、それは未遂に終わった。ミュウが全力でダッシュして、その無防備な脇腹にドロップキックをかましたからだ。


「ぐっ!? おごぉぉぉぉぉぉ!?」


 予想外の攻撃だったのか貴政はガードできなかった。

 彼はド派手にずっこけて、服屋の床をどしーんと揺らす。


「商人に持ち金を全部明かす奴があるかぁぁぁ!」


「い、いや、しかしな、この店主。おいどんにサービスしてくれて……おごぉ!?」


 ミュウは貴政の胸ぐらを掴み、その顔面に頭突きした。


「ンなわけあるかぁ! こんな異国の妙ちきりんな服が2万もするわけわけないでしょう!」


「も、もしかしてボラれたでごわすか!?」


「もしかしかしなくても、その通りよ!」


 2人は同時に店主を見る。

 頭に派手なターバンを巻いたやや小太りのその男は、知らないですよ~とでも言いたげに下手な口笛を吹いていた。


「ねぇ、あんた?」


「な、なんでございますか、お嬢さん?」


「この世に花火って2種類あるの知ってる? 火魔法で作る〝きれいな花火〟と、肉がはじけ飛ぶ〝きたねえ花火〟よ?」


「そ、そうなんでございますねぇ~」


「あたし魔法職メイジだからどっちも使えるんだけど、どっちが見たい?」


「て、店内で魔法の使用はっ!?」


「それじゃ、きたねえ花火の方ね♡」


 ミュウが木製の大きな杖を鈍器のように振り上げると、店主は「ヒィィィィィィィ!」と悲鳴を上げた。






 かくして、その日貴政は、この世界にも〝土下座〟の文化が存在するのを知ったのだった。

【作者コメント】

ここまで読んでくれてありがとうでごわす!

面白かったら、高評価、ブックマークなどで応援してもらえると嬉しいでごわす!

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